第126話 シムルグの時に助けてもらった。


 要塞が完成していた。


 メモリーネとジブリールが作ってくれた要塞だ。


 五階建てで、周囲に聳え立つ山々よりも高い要塞だ。巨大なドーム状の階層が、五つ積み重なって建てられているのだ。


「でも、ご主人様、本当にいいの? 強度は全然だよ?」


「ハリボテだよ? 欠陥工事だもん!」


「うん。完璧だ」


 俺は教会の聖地の中心に完成したその要塞を見て、頷いた。

 イメージ以上の出来だ。


「でも、ごめんな……。最後にはこの要塞は木っ端微塵に砕けることになる……」


「「メテオだもんね!」」


 みんなには事前に説明してある。その上でこの子達は、立派な要塞を作り上げてくれたのだ。


 申し訳ない。


「いいよ! 今度作る時の練習になったもん!」


「全部終わったら、ジルたちの故郷を作って、立派なお家建てようね」


「二人とも、ありがとう」


 俺は二人の頭をそっと撫でた。次は必ず、安らかに生活できる家を作りたいな。


「でも、どうせならこの要塞のてっぺんにウチらの旗を立てるのもいいかもしれないわね。そして、教会の旗も用意して、教会がここに来たら、それを燃やすの!」


「「ヤバすぎる……」」


 過激派がいた。

 反教会派のコーネリスだ。


 教会の聖地の中心で、教会の旗を燃やそうとしている精鋭だ。


 でも。


「……いいかもしれない」


「「「ご主人様もやばかった……」」」


 ちなみに、この場にいるのは俺たちだけだ。

 エリザさん、モーニャさん、セレスティーナさんはここにはいない。彼女たちには最後のトドメを撃ってもらうことになっている。それで終わらせることができるはずだ。


「あとは、教会がやってくるのを待つだけだ」


 俺は念のためにもう一度、空に琥珀色の魔力を打ち上げて、自分たちの居場所を知らせておく。



 すると、しばらくしてのことだった。


「ご主人様、来ました。魔族です」


 遠くの空から黒い点が動いているのが確認できた。魔族の集団だ。目を凝らして見てみると、コウモリのような羽を持っている連中だと分かる。

 魔族たちも俺たちがここにいることを察知して、押し寄せてきたみたいだ。


 そして相対する。


「これはこれは、聖女殺しメテオノール様と見受けられます。我々魔族一同、あなた様をお迎えに上がりました」


 一定の距離を取り、空で止まった魔族の中から、一人の魔族が前に出てきた。

 ガタイの良い牛のような魔族だった。


 指名手配をされた俺を追ってきていたのは、教会だけではない。魔族もだ。

 だけど、イマイチ、魔族の目的がはっきりしない。彼らは俺に何の用があるのだろうか。


「目的は何だ」


 単刀直入に聞くことにした。


「我々の目的は、あなた様です。メテオノール様。『聖女殺し』の罪で教会に追われているあなた様にとって、我々は味方です。教会と敵対しているのは我々魔族も同じです。だから手を取り合っていきたいのです」


「その先はどうなる」


「無論、教会を根絶やしにするのです。そして聖女たちも皆殺しにするのです。我々魔族はかつて聖女の手によって、破滅の一途を辿りました。しかし、このままなのはありえない。必ずや残った魔族たちで、栄光を手にするのです」


 そう言って、魔族が手を広げてゆっくりと近づいてきた。


「さあ。我々が目指す場所は同じ。手を取りあおうではありませんか!」


「断る」


 それこそ、ありえない。


「クク……! だったら、数でねじ伏せるまで……!」


 そうして戦闘が始める。


 魔族が指示を出す。

 すると、集まっていた魔族の集団が一斉に魔力を高め始めた。

 数は、どれぐらいいるだろう。


「……100か」


「馬鹿がッ! 1000以上だッ!」


「……そんなにいたのか。一つ一つが矮小すぎて、誤解してしまったよ」


「ほざけ!」


 そうして、この場に集結した魔族たちの手に魔力が凝縮されたものが発生し、上空に数え切れないほどの魔力のうねりが確認できた。


「そのご立派な要塞なぞ、木っ端微塵になるだろうなッッ!」


「ふんっ。やれるもんなら、やってみなさい。雑魚なら私一人で十分よ」


「いえ、コーネリスちゃん。ここは私が」


 ヒリスが手を空に上げる。そして発動する。


「重力操作ーー《グラビディ》ーー」


「ククク! 貴様一人で何が、できぐぶぅぅぅ……!!!」


 瞬間、魔族の集団が押しつぶされていた。上から下にだ。空にいた魔族たちは重力に抗えず、徐々に地上に落ちてくる。

 必死に堪えようとしているものの、その結果、宙で土下座をしているような体勢になってしまっていた。


 恰好の的だ。


「この要塞には、無数の大砲が設置してある」


「ま、まさか……!」


 俺は要塞の外壁部分に置かれていた大砲に目を向ける。

 メモリーネとジブリールが設置してくれた大砲だ。遠隔操作が可能なその大砲に俺は意識を向けた。すると、重力に抗おうとして抗えなくなっている魔族に狙いを定めた。


 そして、発射。


「な、舐めやがってえええええ……!」


 刹那、叫び虚しく、魔族は爆散していた。


 他の魔族たちはすぐさま退避しようとしていたものの、その時にはすでに砲撃の雨が魔族たちを襲っていた。


 俺は魔族たちとは協力しない。

 魔族たちは、聖女を殺すと言っていた。だったら論外だ。


 例え同じように教会を敵視していても、そもそもの目的が違うのだ。



「ご主人様、教会が来たわよ!」


 ここで、周囲に魔法陣が展開された。

 現れたのは、教会の格好をしている者たちだ。つまり教会だ。

 ようやくだ。


 彼らはまず、ここに建てられている要塞を見て、目を見開いていた。

「し、信じられない……」と。


「き、貴様……! この罰当たりが……ッ。ここがどこか知っての狼藉か……ッ!」


 ここは先代の聖女様が死んだ場所。

 そして、教会が聖地と定めた場所。


 そんな場所に建てられている要塞。


 怒られて当然だ。


「各員、取り囲め! すぐにレイシア様が来てくださる!」


「幻影の妖精姫の彼女たちも、来てくれる手筈になっているぞ! Sランク冒険者パーティーの彼女たちが、要請に応えてくれたのだ!」


「もう来てるわ」


「「「!」」」


 この場に現れたのは、四人組の冒険者パーティーの姿。

 Sランクパーティー。『幻影の妖精姫』のエルフの少女たちだ。


「聖女殺し、メテオノール。この前はよくも逃げてくれたわね。私たちがこの手で引導を渡してくれるわ」


 そのリーダーの少女が、睨むようにこちらを見ながら武器を手に取っていた。


「あっ」


 そして、イデアさんと目が合った。

 彼女は俺と目が合うと、一瞬プイッと顔を逸らしたのだが、その後頬を赤く染めていた。


 イデアさんも幻影の妖精姫のパーティーだ。

 だけどこの前は、俺たちのことを見逃してくれた。


「許せないわ。聖女殺し……!」


「……ええ、許せないわね」


「行くわよ、イデア!」


「「ちょっと待って、あの子たち、どこかで見覚えあるよ!」」


 その仲間の二人が、俺の近くにいたメモリーネとジブリールを見て、驚いた顔をしていた。


「「あの子達って、前に私たちがシムルグと戦ってた時に助けてくれた子達じゃない!?」」


「……えっ」


 彼女たちと初めて会ったのは、確か瘴気に飲まれていたシムルグが我を失い、『幻影の妖精姫』たちと戦闘をしていた時だった。

 メモリーネとジブリールが眷属として、出てきてくれたばかりの時でもある。


「あの時、私たちを担いで逃げてくれたの、あの小さい子達だよ!」


「私、覚えてるもん……!」


「ど、どういうことなの……」


 リーダーの少女は狼狽えていた。


 けれど、始まってしまったからには止まらない。


 彼女たちを先頭にした教会の者たちは勢い付くと、掛け声を上げながら、要塞の近くにいるこちらに向かって押し寄せてくるのだった。


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