第124話 メテオ


「でも、あれね。なんだかご主人様、前よりも落ち着いている感じがするわ」


「それ、メモも思ってた!」


「ジルもぉ〜」


 コーネリスの言葉に、メモリーネとジブリールが同意した。


「新しい眷属のテーゼルちゃんが出てきた後ぐらいからですね」


 ヒリスも同じ意見のようだった。


 確かに、言われてみればそうかもしれない。自分でもなんとなく分かる。

 今の心は穏やかだ。


 迷いが消えたというか、テーゼルが出てきてくれた辺りで、色々考えることが多かったもんな。


「あ、テオ。スキルのレベルが上がってるよ!」


 ここでテトラが教えてくれる。確かに俺のスキルが上がっているようだった。


「多分、テーゼルちゃんが出てきてくれたから、上がったのかも!」


 スキルというのは、熟練度とか経験値とかで上がるようになっているものだ。

 レベルが上がると、できることも増えてくる。それは眷属のみんなもそうだ。


「みんなはどうかな。新しいこと、できるようになったかな?」


「ふふんっ。じゃあ私からね! 蒼い炎が出せるようになったわ!」


「「おお!」」


 ボっとコーネリスが、自分の背後に蒼い炎を出して見せた。

 ついでに、赤い炎と黄色のバチバチと弾ける炎も同時に見せてくれた。


「これで、私が出せる炎は三種類よ。んまっ、色が変わったからといって、別に大きな変化はないんだけどね」


 コーネリスはそう言って、三色の炎を混ぜると空に軽く打ち上げた。

 それが宙で爆発し、空に鮮やかな花を咲かせていた。綺麗な輝きだ。


「じゃあ次はメモ! メモは、大砲が使えるようになったよ!」


「ジルもぉ〜」


 どっしりと背中に出現したのは、巨大な大砲。


「さらに、これは複製できます!」


「遠距離から操作もできます!」


「お、便利ね」


「「でしょ!?」」


 コーネリスが大砲を指で突きながら、感心するように頷いていた。


「私は重力を操れるようになったみたいです」


 ヒリスが手を前にかざす。すると、そこに転がっていた石ころが押し潰されるように粉砕されていた。


 魔力操作もできるヒリス。それに重力操作までが加わった。頼もしい力だ。


「テーゼルはどうなの? ご主人様、テーゼルは何か言ってる?」


「いや、何も言ってない」


 俺は左腕にある透明な腕輪を撫でて、呼びかけてみる。しかしテーゼルは眠ったように静かなままだ。


 あの子はあまり外には出てこれないと言っていた。

 コーネリスたちもテーゼルのことは知っているが、実際に腕輪から出て、対面している姿は見ていない。


「でしょうね。それ、テーゼルは本当に寝てるだけだもの。あの子、出不精だもの」


「テーゼルちゃん……コーネリスちゃん以上に人見知りな子です……。出てこれないというのも、心の問題が関係しています」


 ーー「……そっとしといてほしい」ーー


 透明な腕輪が微かに光り、眠そうな声が聞こえた、


 ……なんでもテーゼルは出ようと思えば出てこれるけれど、あまり出てくるのは好きではないらしい。

「自分の時間を大事にしたい」と言っている。

 だから会いたいと思ったら、こっちから腕輪の中にいるテーゼルところに行くことになる。


「まあ、いいわ。今度、みんなであの子の腕輪の中に遊びに行きましょ」


 ーー「絶対ヤダ!」ーー


「いいじゃない。てか、あんた、この前私の腕輪の中覗いたでしょ!」


 ーー「勝手に見えただけだし」ーー


「んもぉ、この子ったら……、本当は寂しがりのくせに、屁理屈ばかりなんだから……」


「「「誰かさんにそっくりだ」」」」


「誰よ!」


 ジトっとした目がコーネリスに向けられる。


「ふふっ。みんな、仲良いねっ」


「ですね」


 そんな彼女たちを見て、テトラとソフィアさんが微笑んでいた。


「ご主人様は、他に何かできるようになったことある?」


「俺は、琥珀色の魔力が出せるようになった」


「「おお!」」


 ブワッとそれを解放してみる。

 すると、俺の手のひらに琥珀色の魔力が出現した。

 穏やかな魔力だ。月光色の魔力とは、また違った使いやすさがある気がする。


 あと、従魔のシムルグも今までよりも大きくなれるようになったとのことだった。

 ソフィアさんの能力も色々と解放されているみたいで、テトラも同じように力が上がっているみたいだ


 みんなできることが増えて、成長している。

 俺もあの頃よりは、強くなることができているだろうか。


 だとしても、もっと力はつけていかないといけない。


 そのためにも、多分、今の状況もこのままではいけないんだろうな。

 モーニャさんに案内してもらって、セレスティーナさんが教えてくれたこの場所だけど、これから一生ここにいられるわけじゃない。いつか教会に見つかって、また振り出しに戻るだけだ。


 だったら、と思う。


 思い切って終わらせるべきなのだろうと。


 昔、おばあちゃんも言っていたもんな。

『いつかその時はくる。だったらいっそのこと、終わらせてしまえ』と。


 教会は俺が生きている限り追ってくる。

 それを終わらせたいのなら、教会を全て終わらせること。

 それか、俺が死ぬことぐらいだ。


 だったら、それもいいかもしれない。


「これからのことが決まったみたいですね」


 俺はエリザさんの言葉に頷き、みんなに告げた。


「「ねえねえ、ご主人様? 何するの!?」」


「メテオだ」


「「「メテオ!?」」」



 * * * * * *



 それから数日後。

 俺は手のひらを空に向けると、世界中に広がるように、琥珀色の魔力を解き放ったのだった。


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