第114話 姫騎士ソフィアと黒魔導師ティナ
俺のスキルは、魔石を代償にしてその効果を発揮するものだ。
そして今回、ソフィアさんが箱から取り出した布には、魔石の成分が繊維に織り込まれているようだった。つまり、スキルの効果の対象にすることができる。
その結果ーー。
・『白蒼のセイヴェア装束』★★★★★
幾多もの戦場を乗り越えても、穢されない戦装束。
身につければ、大切な者を守りたいという気持ちに答えてくれるだろう。
「これが私……」
「「「か、かっこいい……!!!」」」
新しい衣装に身を包んだソフィアさん。その姿を見て、みんなの目がキラキラしていた。
青と白の軽装の服。
上は着物をくつろがせたような格好をしており、両腕が何も縛られることない黒いインナー姿になっている。
そして下はすらりとした白いズボンなのだが、くつろがせた部分の上着の部分が降ろされており、その袖の部分を腰の位置で結んでいる。
足元は、銀と青のロングブーツ。
その姿は姫騎士。もしくは戦乙女(ヴァルキリー)。
「ソフィアちゃん、このレイピアも持っていき」
「「「まさに姫騎士(ヴァルキリー)だ!!」」」
聖女だったソフィアさんは、ヴァルキリーになっていた。
「これは、髪を結んだ方がいいかもしれません……」
ソフィアさんも自分でしっくりきたようで、背中まである金色の髪を後ろで括ることにしたようだ。
「編み込みもいいかも!」とテトラが編み込み始め、「いいと思います!」と言ってティナさんもソフィアさんの髪を編み込み始めた。
そして前髪をあげて、額が見える格好になると、彼女は誇らしげに剣を胸の前で構えた。
「て、テオ様……。どう、ですか?」
「凛々しくて、かっこいいです」
「えへっ」
ポッと赤くなるソフィアさん。
まるで子供のようなその様子に、みんなが見守るような温かい目を向けていた。
「お嬢様が、みんなに囲まれて……友達がたくさんできてよかった……”」
「お、おじい様! 泣かないで!」
おじい様はハンカチで嬉し涙を拭いている所だった。
「でも、ソフィアちゃん。本当に似合うぞい」
「「ソフィアさま〜、もっとよく見せて〜」」
「ふふっ、ゆっくり見てくださいねっ」
その後、メモリーネやジブリールたちと一緒に、ソフィアさんは自分の姿を改めて確認し始めていた。
そして、もう一人。
「ティナちゃんには、わしが若いことに使ってた服を着せてみたぞい。名付けて『黒魔導師ティナちゃん」じゃ」
「うう……恥ずかしい。でも、この髑髏の杖……可愛い」
「「「おおお……!」」」
白と黒。モノクロの魔導師の服に身を包んでいるのは、ティナさんだ。
白黒の三角帽を被っており、その手にはドクロの形をしている杖が持たれている。
足元は尖った靴ながらも落ち着きのある色合いの靴が履かれており、それがあることでグッと落ち着いた印象を受けた。
「ど、どうでしょうか……?」
「「「似合ってる!!!」」」
「うう……あ、ありがとうございます」
杖を抱きしめ、恥じらいの表情を見せるティナさん。
ソフィアさんとティナさん。
二人の衣装が変わっていた。
「お代は金貨100枚じゃ」
「こ、この老婆……。ここはプレゼントでいいではないか」
「だめじゃ!」
と、こちらに手を出してきた老婆に、ソフィアさんのおじい様が咎めるような態度を見せていた。
「では、この老ぼれが払いますよ。若者の未来のためです」
「だめじゃ!」
「……いいじゃないか!?」
「だめじゃ! のぉ……メテオノールくん?」
「これで、お願いします」
俺は老婆の手に、お金が入っている袋を乗せた。
「ヒッヒッヒ……毎度あり」
「メテオノール殿、申し訳ない……」
「あ……、いえ、別に」
「謝られることじゃないものなっ」
老婆はそう言うと、俺のことをぎゅっと抱きしめてきた。
おじい様の気持ちは嬉しい。
でも、ここは払いたかった。安い買い物ではないけれど、俺とテトラのローブを買った時から、この店ではそうだったのもあるし、純粋に彼女たちに喜んでもらえるのなら出したいと思った。
「できた若者です……。さすが、メテオノール殿だ」
「ヒッヒッヒ……。メテオノールくんはいい子じゃもんな」
「い、いえ、別にこれぐらい……」
ソフィアさんのおじいさまと老婆が、俺のことも孫を見るような目で見ていた。
この感じは、どこか懐かしかった。これは多分、昔、俺を育ててくれたおばあちゃんが向けてくれていたものに近い気がする。
「あ、あと。そうだ。自分のローブの替えも買わないと……」
「ローブというと、メテオノールくんが今着ているローブかの?」
「手配書が出回っていますので……」
「「なるほど……」」
俺が今着ている琥珀色のローブ。
手配書にバッチリその特徴が載っている。だから着替えた方がいいはずだ。
「でも、メテオノールくんは着替えたくはなさそうに見えるがの……?」
「…………」
……俺はその老婆の言葉を否定することはできなかった。
だって、それは本当のことだから。
琥珀色はテトラの色。だからこのローブは、このまま着続けていたい。……それが俺の本心だ。
「だったら、そのままでいいはずじゃ。指名手配されようと逃げる必要もないし、逃げたいのなら逃げてもいい。メテオノールくんはそのままでいいのではなかろうかい?」
「そのままで……」
「まあ、いつか分かる日がくるといいの。ワシたちも昔はそうじゃった。けれど、今はすっかり悟ったもんじゃ。早くこっち側においで、メテオノールくん。わしは君がたどり着くのを待っておるぞい」
そう言って老婆はいつものように、「ヒッヒッヒ……ッ」と笑うのだった。
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