第113話 久しぶりの再会
「それはそれは。メテオノールくんも大変じゃったのぉ……」
テーブルに置かれてある人数分の湯呑みから、湯気が立ち込めている。お茶の匂いを嗅いでいると無性に心が落ち着いてくるし、この店の雰囲気も懐かしい気がして、なんだかリラックスすることができた。
そんな店の奥で、俺たちはお茶を出してもらっていた。
「とりあえず、飲め飲め」
「いただきます。
俺は湯呑みを両手で持ち、一口飲んでみた。
「にが……っ」
けど、苦い……。
青臭いえぐみが、口の中いっぱいに広がった。
「ご主人様? メモのは甘いよ?」
「ジルのもぉ〜」
「私のも甘いわよ」
「テオ、私のはハチミツのいい香りがするよ?」
「私のは紅茶です」
「私のは、レモンティーです」
「苦いのは俺のだけか……」
どうして俺のは苦いのだろう……。
「ヒッヒッヒ……ッ、メテオノールくんのお茶は特別に、手によりをかけたやつじゃからな……っ」
魔道具店の店主の老婆が嬉しそうに笑いながら、おかわりを注いでくれる。
「メテオノール殿、このババアはこういう意地汚いところがあるのです。代わりに謝ります」
「誰が意地汚いだい……ッ!」
老婆の隣、タキシード姿の男性がいる。
60代ほどで、どこか上品な印象を受ける男性だ。銀星のお盆を持つその姿すら、普通ではないように見えて、一つ一つの動作も丁寧だ。
「メテオノール殿、そしてお嬢様も、お久しぶりです」
「おじい様、また会えました」
彼はソフィアさんのおじい様だ。
先日のソフィアさんのお役目の件以降の彼は、どうやらこの老婆の店によく来るとのことだった。このおばあさんとソフィアさんのおじいさまは昔からの知り合いのようだった。
そして今回、先日のお役目の件以来会うこともなかったソフィアさんと彼女のおじい様は、こうして久しぶりに再会していた。
「お嬢様、ますます立派になられました」
「ふふっ。まだあれから時間も経ってませんし、全然ですよ」
「ソフィアちゃん、久しぶり。わしも会えて嬉しいぞい?」
「おばさま、ご無沙汰しておりました」
店主の老婆は、ソフィアさんを実の孫のような優しい目で見ていた。
「そちらは巫女様じゃないかい。あんたも大変だったね」
「い、いえ、私は別に……」
話しかけられた巫女ティナさんが、どこか落ち着かない様子でお辞儀をする。
そして、おじい様と会話をするソフィアさんのことを、羨ましそうな目で見ているように見えた。あるいは、寂しそうに見ているようにも思える。
「まあ、よい。せっかく来てくれたんじゃ。好きなだけ、くつろいでおいき。メテオノールくんなら大歓迎じゃい」
「ありがとうございます……」
バシバシと背中を叩いて、歓迎してくれる老婆。
「ほう、魔力の循環はもう大丈夫なようじゃな」
……そういえば、以前ここに来た時、このおばあさんに触れられるとバチィとした弾ける痛みが全身を駆け巡っていたのを思い出す。でも今は大丈夫そうだ。
あ。
あと、そうだ。気になっていることもあった。
「あの、おばあさん……少し前のことなんですけど、村にいませんでしたか?」
「村とはどの村だい?」
「魔族が襲撃しようとしていた村なんですけど……」
少し前というよりも、ほんと間近のことだ。
巫女ティナさんから依頼されて向かい、教会の者たちが待ち受けていた村。
あの村を魔族たちが襲おうとしていた時、誰かがそれを食い止めてくれていた。その時、チラッと見えたのが、このおばあさんのように思えたのだ。
「ヒッヒッヒ……ッ、さあ、どうだろうねぇ……。ちゅーしてくれるなら、答えてあげてもいいぞい♡」
「て〜〜〜〜〜お〜〜〜〜〜」
「ち、ちがっ」
ジトっとした目で見てくるテトラ。
……どうやら、俺がおばあさんとキスをすることに、怒っているようだった。
けど……。
「し、しないしない」
「分かんないよ? だってテオは年上のお姉さんなら、すぐキスするもん。……アイリスさんの時みたいに!」
「アイリスさんとしたならわしともするぞい?」
「「「するぞいなの?」」」
「し、しないしない」
俺は首を振って否定した。
その後。
店内の商品を見せてもらうことにして、ヒリスの装備に使えそうなものを購入することにした。
この店にはいろんなものが売ってあるから、色々見ておきたい。ヒリスはこの前出てきてくれてから、何もあげれてなかったもんな。
だから、髪留めとかアクセサリーをつけてあげたい。他のみんなにもそれはしてあげたし、ヒリスにないのは寂しい気がした。
「どれか好きなのはあるかな?」
「そ、そうですね……。なんだか気恥ずかしいです……」
「ゆっくり選んでおいで」
俺は照れくさそうにしているヒリスを見守り、彼女が選ぶのを待った。
「で、では、これでも良いでしょうか?」
「もちろんだ」
真っ赤な花の、髪飾りだった。
薔薇のように鮮やかな色をしており、大人っぽいヒリスの紫色の髪によく似合うように思える。
「あ、ありがとうございます……」
買ってすぐに、前髪につけたヒリス。
俺はその後、みんなの分の着替えの服を買ったりした。
この店には普段着や寝巻きなども売ってあるから、一応買っておくことにした。
あとは、
「ソフィアさんの服も買おう」
「わ、私のもいいんですか……?」
「もちろんです」
ソフィアさんは今、白い服を着ている。さらさらとしている上等な素材の着物のような服だ。
そのままでも似合っているけれど、たまにソフィアさんは動きにくそうにしている感じでもあったのだ。
「ヒッヒッヒ……ッ。それなら、これが使えそうじゃな。どうぞ」
「おばさま、これは……」
老婆が笑い、箱をソフィアさんに渡す。
両手で抱えるぐらいの長方形の箱で、古いけど綺麗に保存してあっただろう箱だ。
「開けてみな」
「では……」
その箱の蓋を、ソフィアさんが丁寧にそっと開けてみる。
すると、その箱から出てきたのは、青と白の布なのだった。
「布です……」
「ああ、今はただの布切れさ。だけど、彼ならどうすればいいか分かるはずだよ。の、メテオノールくん」
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