第111話 四人組のエルフの冒険者パーティー

 * * * * * *


「聖女殺し……許せないわッ」


 掲示板に貼られている一枚の手配書を見て、一人の少女が怒りに震えていた。


「聖女様を殺すだけではなく、巫女様に危害を加えるなんて……」


「なんて悪人だ。『聖女殺し』……」


 そばにいた仲間の二人も難しい顔をする。



 ここは冒険者ギルド。

 そして彼女たちは、Sランク冒険者『幻影の妖精姫』。エルフの少女たちだ。


 現在、この世界のあちこちでは、『聖女殺し』の話題で持ちきりだ。なんでも『聖女』を殺したという人物がいるとのことだった。

 さらに、その聖女殺しは巫女様がいる『星灯りの塔』を破壊し、消滅させたらしいのだ。


 信じられない奴だ。ありえない。


「「「許せない……」」」


 正義感の強い『幻影の妖精姫』の彼女たちは、当然それを許すことなんてできない。誰が許せようものか。


「「「私たちが必ずこいつを捕まえる……っ」」」


『やったれ! 『幻影の妖精姫』!』


『我らの希望だ!』


『『聖女殺し』なんかぶっ殺しちまえ!!』


 ギルド内にいた他の冒険者たちが、彼女たちを応援する。

『幻影の妖精姫』はみんなの希望だ。

 彼女たちが動いてくれるのならば、『聖女殺し』を捕らえることも難しくはないだろう。


 罪人にかける情けはない。


「……果たしてそうなのかしら」


「「「!」」」


 そこに疑問を呈したのは、残り一人のパーティーメンバー。


 エルフの少女、名をイデアという。

 静かな雰囲気の、大人びている剣士だ。


 彼女は口数の多い方ではない。むしろ少ない方だ。一日のうち、全く声を聞かない日だってある。


 そんな彼女が、掲示板に貼られている手配書を見ながら、疑問を呈していた。


「黒が黒であると限らないように、黒も本当は白だったかもしれない」


「ねえ、イデア、それどういうこと?」


「さあ……ね」


「言ってよぉ!」


 意味深なことを言っておいてはぐらかすイデアに、リーダーの少女が縋りついた。


「イデアはいっつもそう! 肝心なことはなーんにも言ってくれない!」


「「ま、まあまあ、落ち着いて」」


 仲間の二人が、リーダーの少女をなだめて落ち着かせる。


 また始まった……と思った。

 リーダーの少女はいつもしっかりしていて頼もしいのだが、イデアにどっぷりと依存しており、イデアの一言で心が掻き乱されるのだ。


(イデアが滅多に喋らないのは、それが関係してるのかも……)


(自分の発言力を分かってるから……)



『ねえ、見て! Sランクパーティー様が揉めてる』

『さては、聖女殺しの件で、熱い議論を交わしてるのかもしれない』

『さすがね……!』


 遠巻きに見ている冒険者たちがザワついていた。



「でも私たちは教会から依頼を受けてるの! だから、聖女殺しを捕らえないといけないの! イデアも分かってるでしょ!?」


「ふんっ」


 プイッと顔を背けるイデア。

 そんなことは分かっている。


「言われるまでもないわ」


「むきぃ〜〜!!」


「「ま、まあまあ、落ち着いて」」


 とにかく、聖女殺しの件で各所が動き出していた。


 Sランク冒険者の彼女たちも、教会から直々の依頼を受けている。だから聖女殺しを捕らえないといけない。


 けれど。


「イデアは聖女殺しを捕まえるのには反対なの?」


「賛成よ」


「そこは賛成なんかい……!」


(賛成に決まってるわ。テオくんを捕まえるのは私が先。誰よりもね。そしたら、保護してあげられるんだもの。一生、ね)


 腕を組んで目を軽く閉じながら、イデアは想像した。

 保護したあとの彼と、二人でどこか静かなところで暮らすことを。


「……ふっ。ふふっ」


「「「い、イデアが笑ってる……っ」」」


 これは普通の恋にはならないかもしれない。エルフと人間という種族的にも。そして今の彼の状況的にも。


 けれど、そんなのは承知の上だ。

 彼と共にあれるのならば、なんてことない。むしろ燃える展開だ。


「でも、イデアがやる気に満々だ……!」


「これはいける……!」


「なんだ……イデア……。もうっ、あなたって子は……っ」


 頼もしい剣士の少女イデアの姿に、他の三人にもやる気がみなぎった。


「……さ、行くわよ。私の王子様を捕まえに」


 金色の髪を靡かせて、静かに歩み始めるイデア。


「「「おー!」」」


 仲間の少女たちもそれに続いて進み出す。


 こうして『幻影の妖精姫』は聖女殺しを探しに行くことにしたのだった。



 * * * * *



 そして、それから数時間後のとある草原にて、空からシムルグが降ってきたのだった。


「ねえ、あれ! 聖女殺しじゃない!? 手配書の特徴と一致してるわ!!」


「「捕まえろぉぉー!!!」」


「……私の時代が来たわ」


(テオくん……見ーつけたっ)


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