第106話 小さな女の子と浮気しちゃダメなんだよ〜!
『瞬殺だったわね』
「瞬殺というより……誰かが食い止めてくれていたみたいだ……」
巫女様からの依頼を受けた俺たちは、すぐに月光龍さんの背に乗って目的地の村へと向かった。そして先程、魔族たちの無力化に成功した。
間一髪間にあった……というよりも、誰かが村の前で魔族たちを食い止めてくれていたみたいだった。そのおかげで被害が出なかったのだ。
チラッとその人物の姿が見えたような気がするけど、すでにここにない。
ふっと何処かに消えてしまったかのように、いなくなってしまった。
「さっきの翡翠色の光はなんだ……」「婆さんも消えたぞ……」
……と、驚き混乱している村人たち。
俺は少し離れたところで、その様子を確認していた。
「とりあえず、村の襲撃自体は食い止めることができたのかな……」
それでも一応、まだ安心することはできない。一応、念のために村の周囲を見て周ることにする。
ここは田舎にある村だった。周りは果てまで続く広大な平原に囲まれている、近くには鬱蒼と茂る森がある。どこか、自分が生まれ育ったあの村を思い出すような雰囲気の場所だった。
そんな村近くの、森の中を歩いている時のことだ。
『ご主人様、誰かいます』
「人間の女の子だ……」
森の中で、5歳ぐらいの女の子を発見した。
真っ赤なリボンが頭に飾られている、その幼い子は泣いているようで、その鳴き声が森の中に響いていた。迷子だろうか。
「「あ」」
目があった。
一瞬、ビクッとした後、その子は泣きながらこっちに駆けてきた。
「わああああぁぁ〜〜ん! 村の帰り道が分かんなぁぁい〜〜!」
「やっぱり迷子だ」
* * * * * *
「お父さんが森の中に隠れてなさいって言ったの!」
移動しながら、女の子が語ってくれる。
どうやら先程の魔族襲撃事件の際に、村に危険を知らせる鐘が鳴り響いた時「危ないから森に逃げろ」と親御さんに言われたらしかった。そして、この女の子は、一人で森に避難して、そこから迷子になってしまったそうだった。
森の中は薄暗い。心細かったろう。
幸いだったのは、この森には魔物が生息していないため、魔物に襲われる心配はないということぐらいか。
「うん! この森には魔物いないよ! でも毒を持ってる虫がいるから、気をつけなさいってママが言ってた!」
「ママの言うことをちゃんと聞けて偉いね」
「えへへ!」
俺はその女の子を背中に背負い、村まで送り届けることにしたのだ。
「ご主人様、メモも抱っこ〜」
「ジルもぉ〜」
「うお”……」
ぐいぐいと俺の服を引っ張るメモリーネとジブリール。俺がこの迷子の女の子をおんぶした瞬間、腕輪の中から出てきて、べったりとくっついてきたのだ。
「シムもぉ〜〜」
「シムもか」
ねずみ色の髪をした幼い女の子も、俺の腰に縋り付く。
これは人化したシムルグだ。
結局、俺は三人の子供たちにくっつかれて、背中に迷子の女の子をおぶりながら村のすぐそばまで送り届けた。
「ここまでくれば大丈夫だと思う。気をつけてお行き」
「お兄ちゃん、ありがとう。将来、お嫁さんになってあげる。……ちゅっ」
俺のおでこに、キスをする、幼き女の子。
『て〜〜〜〜〜お〜〜〜〜〜』
「ち、ちがっ……」
腕輪の中からテトラのジトっとした声が聞こえてきた。
『いけないんだ〜〜〜。今のは事案なんだ〜〜〜。小さな女の子と浮気しちゃダメなんだよ〜〜〜〜』
『これは折檻が必要かもです。今夜は逮捕して、ヒミツの事情聴取をしないといけません』
「そ、ソフィアさんまで……」
腕輪の中のソフィアさんが、手錠を取り出した気配がした。
『『ふふっ』』
……その間も、俺は周囲への警戒を怠ることはなかった。
『ご主人様。教会の者たちが、村の周りに潜んでいます』
「……うん」
周囲に無数の気配がある。最初は魔物かと思ったけど、違う。この村の近くに魔物はいないということは、この目で確認済みだ。迷子の女の子からも聞いている。
ではこの気配は、魔族の残党か。……それも違うと思う。むしろ魔族とは全然違う気配だ。
なにより、この独特の雰囲気ーー。
教会だと思う。
どこからか、じっと、息を潜めて、こちらを観察するように、動きを止めている存在がいるのが感じとれた。ヒリスの魔力感知にも引っかかっている。
迷子の女の子をここまで送り届ける道中も、相手は動く気配はなかった。こちらが隙を見せて歩いている時も、これっぽっちもだ。
『一応カモフラージュはしておりましたので、相手にはご主人様とさっきの迷子の子の姿しか見えなかったはずです』
ヒリスはそういうこともできるらしい。
メモリーネ、ジブリール、シムルグの三人が腕輪から出ていたものの、それは側からは視認できないようにカモフラージュされていたのだ。もちろん、それは簡単なことではなく、俺の側から離れないことが条件というものらしかった。そういうのも、ヒリスは先程の数分で自分の能力を確認していたようだった。
ともかく、この村の近くには、教会の手の者が潜んでいる。
動きは未だに見られない。
恐らく、俺たちが巫女様の依頼を受けてここに来た時から潜んでいるのではなかろうか。だったら、あの魔族たちが村を襲おうとしていた瞬間も、バッチリ見ていたはずだ。
にもかかわらず、村人たちを助けることはなかった。
教会と魔族。
どちらも敵対しているはずなのに。
つまり、この教会の者達の狙いは他にある。
そしてこの場にやってきた、指名手配中の『聖女殺し』の俺ーー。
『あ、女の子が戻ってきたわよ』
「お兄ちゃん、お家からお菓子を持ってきたの!」
見てみると、遠くの方から女の子が駆けてくる姿があった。さっきの子だ。手には、クッキーがいっぱいに詰められている袋が持たれている。
「お礼に受け取って!」
「ありがとう」
俺はそのクッキーを受け取った。
「お兄ちゃんは受け取ってくれるんだね! あのね、前に村にきた教会の人たちは受け取ってくれなかったの……」
「……教会の人たち?」
「そうだよ。なんか変な紙を持った、怖い神父様?だったの! なんかね、見回りに来たっていってたの。不気味なおじいちゃんだった……!」
「……その人たちはどこに行ったのかな?」
「えーっとねぇ……何日か前に、村から出て行ったよ! 用事はもう終わったからって!」
神父……。見回り……。
『ご主人様、誰か近づいてきます』
その時、遠くから車輪が回転する音が聞こえてきた。
それは白い馬車だった。十字架の印が掲げられている馬車だ。あれは教会の馬車だと思われる。
そして、その馬車から降りてきたのは、神官服を着た人物だった。
20代ほどの金髪の人物。
多分、この女の子が言っている人物ではないだろう。
それでも、一応聞いてみることにする。
「前に来た村にきた神官様は、あの人だったのかな……?」
「ううん、違うよ。あんな綺麗な人じゃないよ。ヨボヨボの怖い人だったよ!」
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