第103話 月光龍さんと本命のあの人


 月光龍さんが助けに来てくれた。

 実はそれだけではなくて、あの人も来てくれていたようだった。


「私もいました」


「「アイリスさん!」」


 月光竜の背中から現れたのはアイリスさんだった。

 進みゆく空の中、彼女の金色の髪が風に吹かれて靡いている。


 ちなみに今の月光竜さんの姿は、魔力でカモフラージュされているらしく、周りからは俺たちの姿は見えない。だから、今の空の旅は安全なものであるらしい。


「初めまして。この方がテオ様の本命のアイリスさんなのですね」


「どうも、こんにちわ。テオくんの本妻、アイリスです」


 初対面のアイリスさんとソフィアさんが、姿勢を正して挨拶をする。


「現地妻の間違いじゃないの……?」


「失礼な!」


「痛い痛い!」


 コーネリスの言葉に、アイリスさんが折檻をした。


「でも、どうしてアイリスさんと月光竜さんがここに……」


「そんなの決まってるわ。テオくんがピンチだったから、月光竜さんにひとっ飛びしてもらったのよ」


 最近のアイリスさんは月光竜さんが住む山に暮らしていた。

 この前、一緒に温泉に入ったりもした。

 あの時以来、二人は仲良くなり、今では良き友になっているらしい。


 とにかく、さっきの、月光龍さんの救援は助かった。

 魔族と教会。そのどちらも一斉にやってきたから、場が混乱していたもんな。


『それと、伝えておいた方がいいと思ったことがあったの』


「伝えておいた方がいいこと……」


『ええ。テオくんは、今、『聖女殺し』の罪で指名手配されてるのよね』


「はい」


 テトラを殺し、村から追放された男。

 それが『聖女殺し』だ。


『その知らせが発表されてからというもの、魔族にも不穏な動きが出始めたわ。教会は魔族にも何か仕掛けようとしているみたいなの』


「つまりご主人様をダシにして、魔族の炙り出しをしようとしてるってこと?」


「先ほども魔族が集まってきていましたものね」


 確かに、魔族達があの場にやってきた。そして俺のことを「確保する」と言っていた。


 今まで魔族の動向とかは聞いたことはなかったけれど、あんなに大勢、こちらにやってきていた。

 月光龍さんがさっきの魔族は全滅させてくれたけれど、どれぐらいの数がいるのかは分からない。


 面倒な相手だ。


 それでも、二人が駆けつけてくれたことは心強かった。


「アイリスさんと月光竜さん。色々教えてくださりありがとうございます。助けてくれたのも嬉しかったです」


『いえいえ。当たり前のことよ』


「そうよ。だってテオくんだもんっ。テオくん、大好きっ。ちゅっ」


「「「ああぁ……!!」」」


 アイリスさんが俺の唇に口づけをした。

 月光竜の背に乗りながらの、アクロバティックで濃厚な大人のキスだった。


 アイリスさんが抱きしめてくれる。アイリスさんの胸が、惜しげもなく俺の体に当たって、むにゅりと形を変えてみせた。


「本命キスだ……」


 たっぷりと俺の唇を堪能するアイリスさんを見て、真っ赤になるテトラ。


「……テオさまはえっちです……」


 ソフィアさんは息を荒くして、太ももをもじもじと擦り合わせていた。


「て〜〜お〜〜」


「ち、ちが……っ」


 ジトっとした目のテトラ。

 俺はアイリスさんと唇を重ねながら、その視線に突き刺されていた。


 それで、考えないといけないのは、これからのことだ。

 あの森にはもう戻れないし、家も破壊されたから、帰る場所もない。


「ごめん。メモリーネとジブリールがせっかく家作ってくれたのに」


「いいよ! また建てるもん!」


「今度こそ、壊れない家を建てるもん!」


 俺はメモリーネとジブリールの頭をそっと撫でた。


「とりあえず、これから何をするにしても、先に巫女対策をした方がいいかもしれません」


「ヒリスの言う通りね。巫女は予知で、私たちの場所が割り出せる。だったら、その巫女様とやらをどうにかするのが得策だもの」


 巫女は予知の力が使えるという。

 祈りを捧げることでそれが分かり、確定ではないものの結果を割り出すことができるらしい。


 その巫女の対策をしないと、俺たちの居場所は特定され続ける事になる。


「巫女は、辺境の地に立っている『星灯りの塔』で過ごしているはずです」


『だったら、このままそこまで飛んでいくわ。落ちないようにしっかり掴まっててね』


 月光龍さんが白銀の残滓を空に残しながら、目的地へと向かってくれる。



 * * * * * *



 そして、辿り着いたのは、まっさらな草原から突き出るようにしている塔だった。

 その塔には大きな窓が一つだけ備え付けられており、俺たちが近づくと、内側からその窓がゆっくりと開き、一人の少女が顔を出した。


「お待ちしておりました。『聖女殺し』のメテオノールさん。私は巫女ティナと申します。どうぞ、中へお入りください」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る