第96話 人化したの!!
「ねえ……てお。ちゃんとソフィアちゃんが履いてる私の下着、見てくれないといや、だよ?」
「〜〜〜〜っ。ておさま……」
「あ、こらーー」
夜の部屋の中で、ソフィアさんがスカートをたくし上げながら、顔を真っ赤にしていた。
そんなソフィアさんが履いていたのは、テトラのお気に入りの下着だった。
純白の布に琥珀色の刺繍がしてあるそんなテトラの下着を穿きながら、あらわになった太ももを、もじもじと擦り合わせている。
「ご、ご主人様……あんまり見ないでっ」
そう言いつつも、一歩近づいてくるソフィアさん。
そしてテトラも近づいてきた。
「ねえ、テオ……私が履いているのは、テオの下着だよ?」
そのテトラが履いていたのは、俺のパンツだった。
「「ご主人様の、えっちっ」」
「…………っ」
……なんだか変なことになっていた。
俺は一体どうしてこうなってしまったんだろうと、顔が暑くなるのを感じながら考えるのだった……。
* * * * * *
カンカンカンと、軽やかな音が森の中に響いている。
それが二人分だ。その二人は作業を終えたようで、満足そうに額に浮かんだ汗を拭っていた。
「ご主人様! できたよ!」
「新しいお家ができました!」
「すごいな……」
家が建っている。
メモリーネとジブリールが作ってくれた家だ。
現在、俺たちは森の中で生活をしていた。
ここは、ひと気のない森で、周りには街も街道もないため、人なんて寄り付かないと思う。
ソフィアさんのお役目が終わって、数日が経ち。
俺は聖女殺しとしてお尋ね者になっているため、各地を転々としながら、過ごしていた。
今頃、教会からの追っ手が来ていると思う。だから森だ。なるべく街には近づかないようにしている。
そんな森に家が建っていた。
木で作られた、かなりしっかりしている家だ。
「ご主人様のスキルのレベルが上がったから、ハンマーが使えるようになったのぉ!」
「これでできることも増えたのぉ!」
メモリーネとジブリールが家の前でハンマーを担ぎ、それを振り回していた。
先日のソフィアさんのお役目の件で、俺のスキルのレベルが上がっていた。
その結果、眷属のメモリーネとジブリールにもその影響が出て、新しい武器の『ハンマー』が使えるようになっていた。
それで、二人は家を建設してくれた。
部屋の数は、いくつもあり、これで野宿をせずとも森での暮らしを乗り越えることができる。
「でも、ごめんな……。やっぱり街に住んだ方が、快適かもしれない」
「「そんなことないよ? お外で遊べるから、森での暮らしも楽しいよ?」」
「ありがとう、二人とも」
俺はメモリーネとジブリールの頭を撫でた。
でも……どうなんだろうな。
気を使わせてしまっているかもしれない。
必要な物資は事前に用意してあるけど、森の暮らしは虫も多いし魔物も出てくるし、街に比べたら住みにくいから、我慢をさせてしまっていると思う。
「ふふっ。またご主人様は考えすぎてるわね。ご主人様の方こそ、私たちに気を使ってるじゃない」
「ですね。ご主人様は、いつも考えてくれます」
コーネリスとヒリスが、焚き火用の枝を抱えて戻ってきてくれた。
「二人とも、ありがとう。いつも助かる」
「「うんっ」」
俺は木の実で作ったジュースをコップに注ぐと、二人に渡した。
これはこの森で採れた甘い木の実を使っているため、疲れた時なんかにいい飲み物だ。
「あと、ご飯も食べたいものがあったら作るからさ。みんな、食べたいものがあったら、なんでも言ってほしい」
「「「「ご主人様、お母さんみたい!」」」」
みんなが微笑みながら言う。
お母さん……。
栄養を管理するというのだから、お母さんとかお父さんとかであってるかもしれない。
「でも、お母さんか……。俺にはお母さんがいたことないから、それはよく分からないかもしれない……」
「「「「……あっ」」」」
みんなが、同時に気を使うような顔をした。
でも、俺にはお母さんがいない。
物心ついた時には、すでにいなかった。まだあの時はテトラもいなかったし、おばあちゃんと二人暮らしだった。
「私も、昔の記憶はないから、多分お母さんいないかも……」
「「「「……あっ」」」」
と、そう言ったのはテトラだ。
俺の隣に座っていたテトラがぽつりと呟いた。
「私はお母様もお父様もいましたけど、いつも姉と妹にかかりっきりでしたので、お母様たちとの思い出はありません……」
「「ああ……っ」」
ソフィアさんの呟きに、メモリーネたちが慌て始める。
ソフィアさんは静かに微笑むだけで、その微笑みは悲しみの気配があった。
「で、でも、大丈夫だよ? メモたちが、お家を作ったから団欒できるよ?」
「みんなで住める安住の地を作るの! 故郷だよ!?」
「故郷か……」
故郷、安住の地。
そういう安らげる場所はいいな。
やっぱり安心できると思う。
なんの憂いもなく過ごせる場所。
いつか、そこでみんなで暮らせればいいといつも思う。
「でも、今考えないといけないのは、別にあるわ。シムルグはまだ調子悪そうなの?」
「どうだろう……」
コーネリスが俺の指に嵌められている『従魔の指輪』を見ながら、シムルグの様子を気にしてくれた。
『ふおおおおおぉぉぉ!! なんだか、体が光ってるのぉぉぉ!!』
とシムルグ。
……これは、調子が悪い訳ではないと思う。むしろよさそうだ。
最近、指輪の中にいるシムルグはいつもこんな感じで、ピカピカと従魔の指輪が常に点滅していた。
「シムルグ、大丈夫なのかな……?」
「だ、大丈夫なのぉぉぉ!!」
本人はこう言っている。
指輪からは、最近出ていない。正確にいうと、今は諸事情で出てこれなくなっているらしい。
「……シムルグちゃん。もしかしたら、やっぱり、その時が来たのかもしれないわ」
「「その時……」」
唇に指を当てながらのヒリスの言葉に、俺たちは改めて指輪を見る。
……すると、その時だった。
「「「うっ!」」」
ピカッと指輪がいっそうに強い光を放ち、俺たちは目を瞑った。
そして、次に目を開けた瞬間、俺たちの目の前にいたのは、ねずみ色の髪をした小さな女の子だった。
「むふ〜。やっと人化できたの!」
「「「おお!」」」
背丈は、メモリーネとジブリールほどの女の子。
灰色のフードを被っていて、シムルグが人間の姿になっていた。
「お仲間が増えた!」
「ちっちゃい子だ!」
「シムです! よろです!」
すぐに打ち解けてキャッキャと手を上げながら、走り始めた3人。
賑やかな子供たちの声が、森の中を明るく彩り、今日もそんな日々がまた過ぎていく。
* * * * * * *
そして夜。
家の中で、俺が寝る準備をしていると、二人の来客があった。
「テオ……今、いい? ソフィアちゃんが用事があるんだって」
「テオ様……。夜分遅くに失礼します……」
やってきたのは、テトラだった。
その後ろにはソフィアさんもいて、薄着のソフィアさんの頬は赤く染まり、どこか照れたようにこっちを見ていたのだった。
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