第82話 眷属の装備作り⑴


 魔石の加工で一番大事なのは、形をしっかりと意識することだ。


 例えば、薄く加工すれば、その魔石にはスピード系の効果が生まれることになる。

 例えば、丸く加工すれば、その魔石にはバランスの良い効果が生まれることになる。


「だから形が大事なんだ」


「「ふ、ふーん……」」


「…………あんまり興味なかったか」


「「わ、わあああ! ありますあります! とっても興味深いです!」」


 どこか慌てたように、メモリーネとジブリールが気を遣ってくれた。



 ここは、宿屋。この街に来てから泊まっている場所で、どちらかといえば高級な部類に入る場所だ。

 壁は厚く、床も厚い。時刻は夕方前。作業はここでしようと思う。


 念の為、部屋には結界を張っている。

 腕輪を通じて、テトラから流れてくる月光龍の加護を使用すれば、簡易の結界を張ることができ、外との空間を遮断することができるのだ。


 そして、床にシートを敷き、その上に座って、バッグの中に集めておいた魔石を手にとれば、作業環境の出来上がりだ。


 加工に使用する魔石は、以前からちょくちょく集めていた魔石。

 そしてこれを使ってやるのは、コーネリス、メモリーネ、ジブリールのアクセサリー作りだ。


 この前は結局、3人の服を買わなかったもんな。

 それがずっと気がかりだった。そしてあの時約束をしていた。代わりにアクセサリーを作ろうって。


「ご主人様、メモたちの服に細工してくれるの?」


「うん。アクセサリーを付けようか」


「やった〜! じゃあ、服をお脱ぎします!」


「ジルもぉ〜」


 ガバっと服を脱いで、それを俺に差し出してくれる二人。

 服はアクセサリーが完成してからでもよかったけど……でも、ちょうどいいかもしれない。


「じゃあ風邪ひかないように、これを羽織っておきなさい」


「「ご主人様のローブだ〜」」


 俺は自分の服を脱いで渡す。二人がそれに包まった。

 そして床にいる俺のそばに座って、作業の風景を眺めるみたいだった。


 でも……シートを敷いていると言っても、床は硬い。足が痛くならないかな……。


「ふふっ。ご主人様ってば、ものすごく気にしてくれてる。でも、作業の邪魔になるといけないから、二人は私の膝の上に座りなさい」


「私のにも、おいで」


 テトラがメモリーネを、コーネリスがジブリールを抱き上げて、自分の膝の上に座らせた。

 そして俺のそばに四人が座ることになった。


 俺はメモリーネとジブリールの頭をそっと撫でると、早速始めることにした。


 まずは、『妖精石』だ。

 エルフの少女、イデアさんがくれた石。

 緑色の石で、見ただけで膨大な魔力が込められているのを感じる。


 でも……。


「か、硬い……。加工は難しいかもしれない」


「確かに硬そうね」


 コーネリスが、俺の手を見ながら頷いてくれる。

 硬度も高いし、質もいいけど、これは……加工には時間がかかりそうだ。


 そして、そう思いながら見ていた時だった。


「「「……あっ、腕輪が光った!」」」


 ピカッと、一瞬だけ俺の『降臨の腕輪』が光った気がした。

 これが光ったということは、降臨の兆し。つまり眷属に関係することだ。


 でも……まだスキルを発動することは、できなさそうでもある。


「多分、もうすぐ別の眷属が出るんだと思う。次に腕輪が反応した時に、その石を使うといいかも」


「……それなら、妖精石は採っておくことにして、別の魔石にしよう」


 俺は妖精石をバッグにしまい、別の魔石を取り出した。


 でこぼこな形の魔石。色は青色。

 濃い青色だ。大きさは手のひらよりも少し大きいぐらい。


 これは、メモリーネのやつにしようと思う。メモリーネの髪の色も青いし、似合うはずだ。


「メモリーネは、どんな形のがいいかな」


「うんとね、えっとぉ、ペンダントっぽいのがいいのぉ〜!」


「ジルもぉ〜」


「それなら二人はお揃いのやつで、色違いにしよう」


「「うん!」」


 それで、ペンダント。

 紐を通して首に下げるタイプのやつでもいいけど、服に直接装飾できるやつにしよう。そうすれば、なくす心配もなくなるかな。


 俺はバッグから研磨用の魔石を取り出した。

『研磨魔石』。その名称の通り、魔石を研磨する魔石だ。


 これを右手に、加工する魔石を左手に持つ。

 そして、石同士をガリガリと擦り合わせて削っていく。研磨石は無傷。削っている方の石が粉を落としている。


「わあ……! ガリガリなってるよ……!」


「でも、全然削れてる音しないよ!?」


「そうね。無音だし、すごいわ……」


「ふふっ。テオ、おばあちゃんから技術を受け継いでるもんね」


 テトラが懐かしそうに微笑んだ。

 昔からこんな風に、テトラは作業風景を毎日楽しそうに見ていた。


 この研磨席は、昔、おばあちゃんから貰ったものだ。色は黒と赤紫が混ざったような色。かなり頑丈な鉱石で、なんでも最高硬度のテオメテオ鉱石という素材で作られたものみたいだった。


「テオの名前も、そこからとってあるんだよね」


「「「……そうなの!?」」」


「うん。昔、おばあちゃんがそう言ってた」


 テオメテオ鉱石、テオメテオ鉱石……メテオノール、ということになったそうだ。


 ちなみに、この名付けをしてくれたのは、おばあちゃんではなく別の人とのことだった。


「私のテトラって名前は、テオがつけてくれたんだよ。私、自分の名前、なかったから」


「俺がおばあちゃんに怒られたりもしたもんな」


『早くこの子に名前をつけてあげなさい。ねえ、とか、ん、とかで、呼ばないの』と、俺はおばあちゃんに説教をされた。


 あの頃はまだテトラが今みたいに喋る子じゃなかったし、なんとなく、どう呼べばいいかわからなかったから「……ん」とか「……ねえ」とかでテトラのことを呼んでいたんだ。あと、単純に名前を決めて、その名前で呼ぶのも恥ずかしかったのもある……。


「あとね、昔のテオはねーー」


「あ、もうっ、ダメだって……。昔のことは、ここら辺でもうやめよう……」


「ふふっ。そうですねっ」


 テトラがくすりと微笑んだ。


「あ、なんか、いい雰囲気だ」


「ラブラブだ」


「熟練カップルの貫禄だ」


「「「〜〜〜〜」」」


 ああ……顔が熱い。

 コーネリスたちも、くすぐったそうに俺たちのことを見ていた。


 そんな会話をしつつ、石を削っていき、手のひらサイズだった魔石が、球体で、硬貨サイズになった。

 それを真ん中から真っ二つに、パキンとカットする。半円の形になったその石の表面を、研磨石で慎重に整える。ここで削りすぎてしまうと、最初からやり直しだ。だから慎重に……。


 あとは、これをやや硬めの布、きめ細かいヤスリ代わりの布で磨いていき、ピカピカになった石を、柔らかい布でもう一度磨けば完成だ。


「できた」


「おお……! きれー!」


「すごいすごい! とっても光ってる!」


 完成した加工石を渡すと、それを見たメモリーネが両手で大事そうに持ちながら天井へとかかげていた。

 それを見たジブリールも口を大きく開けて、感心したように見ている。


 魔石を加工した魔石。

 それが加工石だ。


 あと、最後に、さっきの加工石に魔法陣を刻む。そうすれば、魔石に宿る効果が発動するのだ。

 刻む魔法陣はいくつか種類があるけど、今回のは特別製だ。滅多に刻まないやつを刻んでおこうと思う。


「最後に出来上がりを見て……これで……」


「「おお……」」


 青く光る石。

 多分、今回の形からだと、防御系の効果が発現すると思う。


 それをメモリーネの服に縫い付けて、念のために効力の確認も終えたら、メモリーネの装備の強化が完了だ。


「はい、どうぞ」


「ご主人様、ありがとぉ!」



 ・『青色の加工石』★★★


 防御力を大幅に増幅させる。

 速度も大幅に増幅させる。

 魔法陣を刻んだことで、作成者の加護の恩恵も付与される。


 ・メテオノールの加護(極大)


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