第60話 Sランクパーティー
「あら!? テオくんじゃない! 久しぶりね!」
「お久しぶりです、ジェシカさん」
受付のカウンターのところにいるジェシカさんに挨拶をする。
街に戻ってきた俺たちは、冒険者ギルドへと足を運んでいた。
俺の腕には腕輪が四つはまっていて、テトラやコーネリスたちは腕輪に宿った状態だから、出ているのは俺一人だ。
今回俺が、ギルドにやってきたのは情報を集めるためだ。
この数日の間に、この辺りで何が起こったか。どういうことがあったか。とか、そういうのには一応目を通しておきたい。
それにこの街は聖女ソフィアの名で守られている街である。
ソフィアさんに関する情報も、ちらほらと掲示板のお知らせの欄に掲載されているのが確認できた。
「ああ、聖女ソフィアさんの記事ね。実はそれ、私が作ってるのよ?」
「そうなんですか……?」
「ええ、私、事あるごとに聖女ソフィアさんの名前を行使するから、この前、少し怒られてしまったのよ……」
「そ、そうでしたか……」
ジェシカさんが額に手を当てて、深々と息を吐いた。
確かに、ジェシカさんはギルドで問題が起こりそうになるたびに、聖女ソフィアさんの名前を行使して、問題を止めてたもんな……。
でもそれには俺も助けてもらっていた。しかし、ダメなことのようだった……。
「直々にね。聖女ソフィアさんが屋敷まで私を呼び出したの。『こらっ、めっ』……って。ああ……ソフィア様が私のことを注意してくださるときのあの顔……シュテキでした……」
うっとりとした顔で、虚空を見ながら熱っぽい声音で言うジェシカさん。
それはどこか、嬉しそうな表情にも見えた。
「まあ、でも、怒られたって言っても、やんわりと注意されただけだったけどね。むしろ、いろいろお持て成ししてもらって、美味しいお菓子とかも食べさせてもらったの。そこで最近の冒険者のことを聞かれて、この前テオくんが私にくれた『幻希草』の話も嬉しそうに聞いていらしたの」
「そうでしたか……」
「ええ、ソフィアさんはこの街で起こったことには、全部目を通しているみたいよ。ほんと、すごいわよね。綺麗で、可愛くて、美しくて、慈悲深くもある。ああ……ソフィア様。またお会いしとうございます……」
拝むように祈るジェシカさんは、それからも自慢するようにいろんな話を聞かせてくれた。
ともかく、ソフィアさんも元気みたいだ。そしてこの街でも特に大きなことは起こっていないらしい。
もしかしたら、そろそろ聖女テトラの件についての話がこの街に流れてくるかもしれない……とも思ったけど、そんなこともないみたいだった。
「……あ、ちなみにさっきの話は誰にも内緒よ? ソフィアさんに怒られた話も、テオくんにだからしたんだからね?」
「それは……よかったんですか……?」
「うん。テオくんだし。テオくんとはまだそんなに付き合いもないけど、テオくんなら信用できるし。ねっ、この前、オークの群れを殲滅してくれた、テオくんっ」
「!?」
……バレてる!?
あれは、匿名の人がやってくれたという話になっていたのに。
「ふふんっ。当たり前じゃない。私はここの受付のジェシカさんなのよ。まあ、何かテオくんにも事情があるみたいだし、それが目立たないように手を打ったのはソフィア様だし、私はただの受付なんだけどね」
だから「これもテオくんにだから言うんだからね」と言って、俺の唇に指でチャックをしたジェシカさん。
腕輪を通じてテトラの力を使い、ジェシカさんを見てみたのだけど……少しだけ能力が偽装されている感じでもあった。
この人も謎に包まれている人だ。
それでも、悪い感じはしない。彼女にも彼女でいろいろあるのだろう。
「あ、そうそう。ソフィア様といえば、直々に冒険者ギルドに依頼を出してくださったのがあったの。あのソフィア様が依頼を出すなんて珍しいから、テオくんも一応目を通しておく?」
「はい。ぜひ、お願いします」
「ん、じゃあ、掲示板に貼られてるから、見にいこっか」
そう言って、受付から出てきてくれるジェシカさん。
「実は依頼自体は、高ランクのパーティーが受けた後だけど、注意喚起も兼ねて依頼書は貼ったままにしてあるから、案内するわ」
そして彼女は俺のそばに来てくれると、腕を抱くような体勢で歩き出した。
「えへへっ」
体がくっついている。
腕に感じるのはジェシカさんの柔らかい感触だ……。
そのまま俺はジェシカさんと一緒に、掲示板のところへと向かうことになり……、
『て〜〜お〜〜』
腕輪を通じて、そんなテトラのジトッとした声も聞こえて来て……、
「あ、あの人たちよ。聖女ソフィア様の依頼を受けたのは」
掲示板にたどり着いた時に、ジェシカさんが教えてくれた。
そこにいたのは、四人組の女性の冒険者だった。
「あれは、今一番活躍してくれている子達。パーティー名は『幻影の妖精姫』。四人とも最速でSランクにまで昇りつめた実力者よ」
耳が尖っている彼女たちは、おそらくエルフという種族の人たちだろう。
そして、剣を下げて歩くその彼女たちの姿に、ギルドにいる者たちは呼吸するのも忘れて見惚れていたのだった。
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