第61話 シルバースライムの核石と森から聞こえる鳥の声。


「じゃあテオくん、いってらっしゃい!」


 ジェシカさんに見送られて、ギルドを出る。

 街の中を歩き、俺が向かったのは街の外だった。


 掲示板を見ている最中に、ジェシカさんが教えてくれたこと。それによると、最近街では不足している素材があるらしい。


 その名も、シルバースライムの核石。

 これは街の生活に欠かせないもので、強力な魔物避けに使われるとのことだった。


 街のため。それは、この街を守護しているソフィアさんのためにも繋がる。

 せっかくギルドに来たのだから、ということで、俺がそれを採りに行くことになった。


 ちなみに、ジェシカさんが教えてくれていた、聖女ソフィアさんからの直々の依頼というのは、魔物の討伐依頼みたいだった。


 そっちは、シムルグの討伐の依頼。

 シムルグというのは鳥のような魔物で、なんでも近頃、街の近くに出没するとのことだった。

 強力な魔物。行商人などを中心に、被害もすでに、出始めているらしい。

 だから、速やかな討伐が推奨される。


 そもそも、聖女ソフィアさんが直々に依頼を出すぐらいだから、よっぽどみたいだった。


 そっちの依頼は、高ランク冒険者が受けたとのことなので、外に出る以上、俺も気をついておいた方がいいだろう。


 街の中を歩きながら耳を澄ましてみると、それに関することが聞こえてくる。


「頼むぜ……。『幻影の妖精姫』……。シムルグのせいで、外を出歩けねえ……」


「この前、あそこの店でも被害が出たらしいわよ。なんでも、商品の運搬中に……ですって」


「まあ、『幻影の妖精姫』の方達が倒しに行ってくれるみたいだし、大丈夫だろう」


 俺はそんな会話に耳を傾けながら、街の中を歩き続けた。



『『ご主人様ー、お外出たーい』』


 そして、街の外にやってくると、腕輪がピカピカと光った。腕輪を通じて聞こえてきたのは、メモリーネとジブリールの明るい声だった。

 まだまだ、元気が有り余っている子供たち。腕輪の中は窮屈なのかもしれない。


『ううん、そうじゃないよ? 腕輪の中はとっても快適だよ?』


『でも、お外に出たいのぉ! からだが疼くのぉ!』


「そっか。じゃあ出ておいで」


『『やった〜〜!』』


 パァアっと光って、二人の姿が現れる。


『私は今回はいいわ』


『私も腕輪にいるね』


 コーネリスとテトラの声も腕輪から聞こえてくる。

 俺は自分の腕にはめられている、その腕輪をそっと撫でる。赤色と、琥珀色の宝石の部分に触れると、じんわりと温かくなった。


『『ふふっ、心の中がくすぐったいよぉ』』


 ……そうか。

 また腕輪を通じて、いろいろ伝わってしまったみたいだった。


 でも、二人が腕輪にいてくれるのも、心強い。


 それからの俺はメモリーネとジブリールと手を繋ぎながら、目的のものを探し始める。

 今回狙うのは、シルバースライムの核石。


 達成報酬も良いみたいだし、成功したら、そのお金でみんなの装備も整えたいと思っている。


「シルバースライムは、見つかりにくいですか?」


「なかなかの、レア?」


「うん。だから、一匹だけでも見つけられれば、いいかな」


「「あ、あそこに、四匹いる!」」


「……四匹も!?」


 ……ほんとだ! たくさんいる!


 二人が指差す先、そこにいたのはシルバースライム。

 銀色の体をした丸い液体状の魔物だ。


 しかもあの中央にいるのは……ダイヤモンドスライムじゃないか。


 銀色というよりかは、白銀色の、ひときわ眩く輝いているスライム。

 その価値はシルバースライムの数倍で、ギルドでもダメ元で探していたとのことだった。


 そんなスライムたちが今、まとまった状態で俺たちの目の前にいる。


「「ごしゅじんさま、どうします?」」


「そうだな……。一気に倒せればいいけど、難しいかな……」


 確か、あの魔物は硬くて、魔法の耐性も高いのだと聞いている。

 それに飛翔力があるとのことで、一気に飛び跳ねて、逃げるそうだ。


 つまり、多くてもあの中のうち、倒せるのは一匹が限界だろう。

 魔法が効かないんじゃ、俺にはそうすることしかできない。



「「だったら、メモとジルがやります!」」



 その瞬間だった。


 ガシャ、っとどこからともなくバズーカを取り出した二人が、躊躇うことなく発射した。


 ボン……ッ! ボン……ッ! ズボオオオオオンン……ッッッ!


「!」


 飛んで行くのは、二発のバズーカ。

 その先には、シルバースライムとダイヤモンドスライムの群れがいる。


 着弾と同時に、そこが破裂する。

 遅れて衝撃が伝わってきて、地面が揺れて、爆風が俺の髪を揺らした。


「「めいちゅ〜! じゃあ、回収だ〜!」」


 バズーカを持ったまま、走り始めた二人。それを追って、俺も着弾地点へと走る。


 すると……、


「「げっと〜!」」


 ……倒せている。


 そこにあったのは、銀色の塊と弾けたスライムの残骸。

 地面にはクレーター。えぐれた土には、真っ赤な火の後が残っている。


「「ご主人様、これで、依頼、達成です?」」


「うん、やってくれてありがとう」


「「ご主人様のためだから!」」


 俺は二人の頭を撫でる。


 本当にすごかった。

 この二人は行動力もすごい。


「「!」」


 そんな二人は、また何かを悟ったようで。


 背筋をピンと伸ばすと、目をキラリと輝かせた。


「「ご主人様、あっちにピンチの気配! ぎるどで見かけた人たちが危ないよ!」」


「ギルドで見かけた人たち……?」


「「あの、エルフの人たち!」」


 それは……もしかしたら、Sランク冒険者の『幻影の妖精姫』の人たちのことかもしれない。

 確か、あの人たちは今、シムルグの討伐に行っているはずだ。


 それが危ない……。


「「あっちに、しむるぐもいるよ! とりあえず、行ってみよ?」」


「……分かった。行ってみよう」


「「じゃあ、ご案内!」」


 二人に手を引かれて、その場所へと向かう。

 向かったのは、街からほどなくした距離にある森でーー。


 近づくにつれて、そこからは、鳥の咆哮のようなものが鳴り響いており、激しい戦闘音も聞こえてきたのだった。


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