第59話 みんなで混浴。アイリスさんも。
「テオ、アイリスさんが来てくれたよ? テオの大好きなアイリスさんだよ?」
「て、テオくんっ。私よ、アイリスよ?」
「…………」
……これはむしろ、俺にとっての罰なのかもしれない。
俺たちが数日泊まらせてもらっている月光龍の巣。
山の頂上にあるそこは、人が住めるような環境になっている。
そして、
「温泉だよ?? みんなで、混浴だよ??」
「もうっ、ご主人様ってば、変態なんだから!」
「痛ったッ!?」
ペシンッ! と俺の背中を叩いたのは、コーネリスだ。
この月光龍の巣には、温泉が湧いている。地熱を利用して作られた天然の大浴場だ。ドラゴンの月光龍も毎日入浴できるほど、広さも申し分ない。
固められた土が、大理石のような高度を持っている。その中に40度ぐらいのお湯が張られている。
お湯から湯気が湧き出てきて、温泉特有の卵臭が巣の中に満ちている。
そんな温泉のそばには、俺がいて、テトラがいて、コーネリスもいて、メモリーネとジブリールもいて、さらに、アイリスさんまでいて、アイリスさんは捕縛されている。
「「お母様、アイリスさんの捕縛にせいこうしました!」」
「ありがとう、二人とも。その働きは見事なものだったでしょう」
「「えへへっ」」
アイリスさんがこの場にいる理由は、テトラが呼んだからだ。そして、アイリスさん自身がここに来ることを望んだからだ。
「で、でも、ここって本当に月光龍の巣なの? 私、どうしてここに転移したの?」
「それはアイリスさんに、審判を下すからです」
「し、審判……」
アイリスさんの疑問にテトラが答えた。
『そう言いつつも、テトラ様は、あなたにもお別れを言いたかったみたい。メテオノールくんたちは、あと少しでここを離れて街に帰るから、最後に思い出を作るためにあなたに来てもらいたかったみたいなの』
「あっ、月光龍さんっ! い、言わないでっ! 違うよっ!? これは、ただの審判なんだよ!?」
『ふふっ。テトラ様もコーネリスちゃんに負けず劣らず素直じゃないところもあるものね』
「ちっ、違うのっ!」
と、慌てて言うテトラと、微笑ましそうに見ている月光龍。
「じゃあテトラちゃんは、私のためにここに呼んでくれたってこと……?」
「「そうだよー。お母様は、最後にみんなで温泉に入りたかったんだよー」」
「ち、違うよっ。私はただ、アイリスさんに審判をーー」
恥ずかしがって弁解しようとするも、みんなも気づいていたみたいだった。
「もうっ、お母様ってば、回りくどいんだからっ。みんなで一緒に入りたいのなら、そう言えばいいのに。まったく、面倒な性格してるわねっ」
「「「「じーーー」」」」」
「……その目は何よぉ!」
コーネリスに向かって、みんながジトッとした目を向けていた。
「とにかく、アイリスさんも一緒に温泉に入りませんか? 私たちは、ここを離れる事になるから、最後にもう一回アイリスさんと思い出を作りたいと思って……」
「テトラちゃん……。うん、もちろんよ。私も、できるなら、テトラちゃんたちともっと一緒にいたい」
そう言って、二人が手を握り合う。
……しかし、その後、まさかあんなことになるなんて、この時の俺は想像もしていなかった……。
* * * * * * *
「て、テトラ! ダメだって! 俺は外に出てるから!」
「だーめ。テオも一緒に入るの。一緒に入って、アイリスさんの巨乳を拝むのっ」
「ちょっと! テトラちゃん!」
服を脱ごうとしていたアイリスさんが手で胸を隠して、抗議の声を上げる。
そして俺はテトラに混浴に誘われていた。
でも……だめだと思う。
だってここにはアイリスさんもいるのだから。
……しかし、
「テオも入るの! ほぉら、私が脱がせて上げるから、バンザイしよ?」
「だっ、ダメだってぇっ」
俺の体を弄って、服を脱がそうとしてくるテトラ。
「「「『い、色っぽい……』」」」
そんな俺の姿を、アイリスさんのみならず、月光龍までもが固唾を飲んで、凝視していた。
「テオのズボンの下のとっておきの眷属を、降臨させる時だよ?」
「「「『ず、ズボンの下の眷属……っ』」」」
「こ、こら!」
ああっ……もうっ。
か、体が熱い……。
「わ、分かった。……服は自分で脱ぐから、見ないでよ……」
俺はそれだけ言って岩陰に隠れると、さっと服を脱ぐ。そしてバスタオルを体に巻いて、内股になって湯船へと近づいた。
「「「「『ご主人様……女の子みたいっ』」」」」」
「〜〜〜〜っ」
もう……諦めた。
俺は胸までバスタオルで隠しながら、キュッと唇をひき結んだ。
「ほら、アイリスさんもテオにお披露目しなきゃ」
「ちょ、ちょっとテトラちゃんっ、そんなに押さなくっても……」
「「「『おおおぉぉ……』」」」
……その時だった。
服を脱いで裸になり、バスタオルを巻いただけのアイリスさんが現れた。
白い肌。綺麗に流れる金色の髪。スタイル抜群で、すらりとしている体。タオルで隠せない部分から、チラチラ肌が露出していた。その透き通るほどきめ細かい肌の上を、汗がつつーっとこぼれ落ちる。
そんなアイリスさんは、すでに裸になっているテトラに背中をぐいぐいと押されて、俺の方にやってきていた。
「あっ」
「……きゃ!」
……その瞬間だった。突如、つまずきそうになるアイリスさん。
近くにいた俺は、アイリスさんを支える。
「「「『ああ……!』」」」
しかし、足場が悪くて、俺も体勢を崩してしまい、俺を背中にして二人で地面に倒れる事になった……。
そうなると、どうなるか……。そう、近くなるのだ……。
地面に倒れている俺。その俺の体の上にいるアイリスさん。
倒れた拍子に、俺たちのバスタオルはすでにめくれていた。むにゅりと……。そう、むにゅりとした感覚が直に伝わる。アイリスさんの胸がちょうど、仰向けに倒れている俺の顔の前にあって、それが俺の顔を押しつぶす事になってしまっていたのだ。
「「!」」
肌同士が密着して、まるで溶けてしまいそうだった。
甘い匂いと、アイリスさんの直の体温。
さらには、すべすべとしたきめ細かな透明な肌。
そしてアイリスさんは立ち上がろうとしたのだろう……。「ご、ごめん、テオくぅん」と言いながら体勢を立て直した瞬間に、足が滑り、また俺の体の上に倒れこんできて、今度は互いの顔同士が近くなり、しまいには、事故で唇が触れてしまっていた……。
「「〜〜〜〜〜〜〜っ」」
「うわああああああああああ〜ん。テオの本命はやっぱりアイリスさんだったんだ〜〜〜〜!」」
「「「今のは、間違いなくお母様が悪い……」」」
泣き声をあげるテトラ。指摘するコーネリスたち。
俺とアイリスさんの体ろ唇は、未だに重ねられたままだ。
まるで一体になったかのように、離れる気配はない。
……しかも、だ。
どうしてか、頬を赤く染めているテトラは、俺の上にいるアイリスさんの頭をちょっとだけ押して、なんと、アシストまでしているのだ……。
そうなると、どうなるか……。
「……あっ……。テオくん……っ」
「あ、アイリスさん……」
……アイリスさんが、何か俺の変化に気づいたようで、頬を赤くして腰、つまり下半身をずらそうとしていた……。
俺は泣きそうになりながら、腰を引いたものの……。
けれど、それはどうしようもなく、反応してしまうもので……。
「「「ああ〜! ご主人様の、眷属が覚醒してる〜〜!」」」
「ぎゃ〜〜!」
「「〜〜〜〜〜っ」」
そんな意味深なことを言う眷属たち。
ああっ、もう……っ。
なんてことを……。
「テオくん……っ。私、嬉しい……。私、やっぱりテオくんのこと、大好きよっ」
嬉しそうに、うっとりとした瞳で身じろぎをしながら、そう言ってくれるアイリスさんは顔を近づけてきてーー
そして、これが、旅立ち前にアイリスさんとの間にできた、新たな思い出になるのだった……。
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