第7話 秘められたスキル


「お二人とも、昨晩はお楽しみでしたね」


「「〜〜〜〜」」


 ……み、見抜かれている……。


「って、あら! いけない! 私ったら! 変なこと言ってごめんなさいね……! 二人とも。おほほっ!」


「「〜〜〜〜」」


 そう言いながら、アイリスさんは口に手を当てながら意味深に微笑んだ。




 必要なものをバッグに入れ、忘れ物がないか確認する。

 俺もバッグに魔石を詰めるだけ詰めて、旅支度を整えた。


 俺たちは村を出ることにした。

 元々、スキルが判明したらこの村を出る予定だったんだ。

 少し予定は変わってしまったけど、二人でこの村を出ることにする。


 あの日以来、テトラがその顔に暗い影を落とすことはもうなかった。

 旅の予定を決めている時のテトラは楽しそうに地図を広げ、「あそこに行きたい」とか「ここにも行きたいかも!」と行きたい場所の候補をあげてくれている。


 準備はすでに整っている。食料もわずかだけどある。

 その食料はパンだ。このパンは、アイリスさんが持ってきてくれたものだ。


 あの日以来、俺たちは家から出ていない。

 村の住人、神父様や教会の人が聖女になったテトラの様子を訪ねてくるけど、テトラは誰とも会いたがらない。だけど、アイリスさんだけは別なようで、ドアを開け、家の中に招いている。


『アイリスさんなら大丈夫だから』


 とテトラ。


『アイリスさんなら安心できるの』


 なんとなくだけど、それは俺も思った。

 それにアイリスさんは時間とかも考えてきてくれる。


 だからこそ、今もそのアイリスさんはうちを訪ねてきてくれていて、


「ほほう……。それじゃあついに今日、決行するのね」


 俺とテトラが隣り合って座っているテーブルを挟んで、アイリスさんが改めてそれを確認してくる。


「はい。アイリスさんにはいつもお世話になりました。アイリスさんのところで買うパンは美味しかったです」


「ありがと、テトラちゃん。今日もパンをどっさり持ってきたから、旅の食料に食べてね」


「やった……! アイリスさん、大好き……!」


 テトラがアイリスさんを抱きしめる。

 そんなテトラをアイリスさんが見守るように見ていた。


 アイリスさんは、テトラにとって姉のような存在でもあった。

 俺たちよりもいくつか年上のアイリスさんは、エプロン姿で、頭巾を被り、金色の髪をきっちりと整えている。


「二人は今まで頑張ってきたもんね。テオくんはテトラちゃんのために一生懸命に頑張ってきて、テトラちゃんもテオくんを支えてた。お互いに支えあってたから、テトラちゃんが聖女だって分かった時、心配だったのよ……」


「「アイリスさん……」」


 アイリスさんが瞳を揺らし、俺たちの頭に手を伸ばしてくれる。


「ごめんなさいね……。もっと私も色々してあげれたらよかったんだけど……結局、私にはパンをサービスしてあげることしかできなかったわ……」


「そんなことないですよ! アイリスさんにはいつもお世話になってました! パンも安く売ってくれてましたもん。ね、テオ」


「うん。アイリスさんには、よくしてもらってばかりでした」


 感謝してもし足りない。

 どれだけ元気付けられたことか。

 今もこうして気にかけてくれているし、初めて会った時もそうだった。


「……ありがと。でも、それは私の方も同じよ。テオくんが加工してくれる魔石には、いつも力をもらってたもん。この前だって、疲労回復の魔石をくれたし、私今までテオくんにもらった物は全部取ってるんだからね。ほんと、テオくんはいい子だし、本当は私がテオくんをお婿さんにもらってあげる予定だったけど……それは一旦お預けみたいね」


 そう言って微笑みながら、何かを悟ったように、俺とテトラを見るアイリスさん。


「それにしても、二人はすっかり大人になったみたいね。特にテオくん。……テオくん、ついに男を見せたのね……?」


「そうなんですよぉ〜。うちのテオくんったら、ほんと、かっこよくてぇ〜」


「あらあら、すっかり惚気ちゃって」


 アイリスさんが口に手を当てて、くすりと笑った。


 そして、その顔にはどこか寂しさのようなものも漂っていて、隣にいるテトラもそれを感じ取っているようだった。


「はぁ〜あ、二人がいなくなると、寂しくなるわね……。でも、二人はこの村から出た方がいいのは本当だし、これからも二人でいるためにはもうそれしかないんだもんね」


「「はい」」


 何度も考えた。

 だけどもうこれしか思いつかなかった。


 俺たちの選択肢は二つだけ。

 村を出るか、死ぬか。


「それか、死んで村を出るか……」


「……テトラちゃん!?」


 物騒なテトラの言葉に、アイリスさんが驚く。

 だけど……それは冗談とかではなくて、一応本気ではあった。


 この数日の間、俺とテトラはどんな風に村を出るか悩んだ。

 そして出した答えは、あまりオススメのできないものだった。できればやりたくはない方法だ。


 それでも……だ。


「教会だけはいけないわ。テオくんも……テトラちゃんも、なんとなく気づいているのよね」


 それは小さな呟きだった。

 最後の方の言葉は、静かに部屋の中に溶けていった。


 それを打ち消すようにアイリスさんが「あっ」と言い、


「そういえば……テオくんのスキルはどうなったのかな?」


「あ、それなら、判明しました! テオ、自分で分かったんだよね!」


「うん。頭に浮かんできた」


「ほほう。それは、気になるわね……!」


「そうなんですよぉ〜、ね、テオ。アイリスさんに見せてあげよう?」


「い、いや、いいよ。……見せるほどのものでもないし」


「「え〜、見たいなぁ〜、テオくん、ちょっとでいいから見せて〜」」


 ぐいっと、身を寄せる二人。

 甘い香りがふわりと香る。

 ……こうなった二人は諦めることはない。


 だから俺は近くにあった魔石を手に持つと、少しだけ使うことにした。


「確かこうやって……」


 ポッ、と俺の手のひらに小さなふわふわした光が浮かび上がる。



「「きゃ〜〜〜〜! 可愛い〜〜〜〜〜〜!」」



 その光を見て、喜びの声を上げる二人。

 眩しいその光は、生き物に見えなくもない。


 これが俺に宿っていたスキル『召喚術師』。

 魔石を代償にスキルを発動できるという、まだ弱々しい力だった。




 ・【スキル】召喚術師 ☆


 一般的なスキル。魔力を使い、召喚魔法を発動することができる。

 そして、稀に派生で、魔力ではなく魔石を代償にスキルを発動できる者もいるものの、こちらは用途が難しいため、ハズレスキルに分類される。


 一定の条件をクリアすれば、覚醒可能。 

 使用者によって、その効果は大幅に変化する。


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