第49話 チートスキル?
ゲンテーンの北側には現在、巨大な工作スペースが設けられている。
天幕が張られた作業場の中では多くの職人たちが自分の作業に没頭していた。
俺たちは職人たちを見回し、その中から目当ての人物を見つける。
「こんにちは~♪」
「ん? ああ、ウグイちゃんか。こんにちは。また何か作ってほしい物でもあったかな?」
ウグイが声を掛けたのは濃い緑色の作業着を着た男性だ。
森から伐採してきた木を専用の刃物を用いて建材に加工中だった男性は、作業の手をとめ視線を上げる。
「違うよ。今日、町長さんの所に来たのは何か私たちにできる作業はないかと思ってだよ」
「ああ、手伝いに来てくれたんだね。ありがとう、助かるよ」
男性は首に掛けた布で顔を拭いながら笑顔をこちらに向ける。
この男性こそゲンテーンの町長であるサボテンさんだ。
強面であり、見た目は怖いがとても気さくな人である。
口の上に蓄えた立派な髭がチャームポイントだ。
サボテンなんて名前は日本人の感覚からすればふざけた感じに聞こえるが、この世界では普通のネーミングセンスなのだそうだ。
「うん? どうしたウグイ?」
「ううん。なんでもないよオオカミロンリ君」
えっ? なんでフルネーム?
俺は別に何か言葉を発したわけじゃないのだが、ウグイは釈然としない表情を浮かべ俺の方を見つめている。
……まあ、ウグイのことは置いておこう。
サボテンさんとは俺たちが借りている小屋の制作や、武器の相談などですでに何度か世話になっていた。
町長という肩書であるがまだ30代と年齢は若く、普段は町の建物の修繕などを行っていたそうだ。
「でもいいのかい? 君たちはモンスターから取れる素材の収集を頑張ってくれているんだから、町の中の復興作業まで手伝う事は無いんだよ。体を休めるのも立派な仕事だからね」
「大丈夫です! ちゃんと休憩は取ってますから。みんなが頑張っているのに私達だけ眠っているのって性に合わなくて」
「ははは。それじゃあ仕事をお願いしようかな。なにせゲンテーンは今全てが建設現場だからね。人はいくら居ても足りないよ」
「はい。よろしくお願いします!」
ウグイに続いて俺たちは頭を下げる。
「じゃあ、君たちには瓦礫の撤去と小屋の建築の手伝いをしてもらおうかな」
「えっ。その仕事俺たちで大丈夫ですかね」
俺はとっさに不安を口にしてしまう。
瓦礫の撤去はともかく、小屋の建築か。
仕事内容を聞いても俺たちにできるイメージは湧かないんだが。
今の俺たちはステータスも上がっており力仕事なら自信がある。
だから瓦礫の撤去であれば役に立てると思うのだが、建築作業なんて俺たちに務まるとは思わない。
「ははは。君たち転生者なら問題ないさ」
「いえ。俺たち今まで戦闘ばかりなんで生活に使えるようなスキル、取ってませんよ」
「いや、そんなに心配しなくても大丈夫さ。僕たちだってスキルも何にも持ってなくてもできてるんだから。それに、人には適材適所があるからね」
「えっ、それってどういう」
「まあ、詳しい事は現場に行ってから話そうかな。ちょうど僕も休憩に入るところだったし、建築現場まで案内するよ。ちょっとここで待っていてくれ」
「は、はあ」
町長さんは手にしていた刃物類を工具箱にしまうと、汚れた作業着を着替えるために奥へと姿を消す。
俺は仲間たちと顔を見合わせる。
「町長さん、スキルも経験も不問って感じだったけど建築なんて俺らにできるのか? 現場に邪魔になるだけな気がするんだが」
「僕の土遁の術とかなら建築現場でも使えそうっすけどね」
魔法か。
確かにウサギの土遁の術なら基礎固めなんかに使えないことも無いだろう。
……だが、他の魔法じゃあどう役立てるか想像できないけどな。
「俺たち、今までは戦闘の事だけ考えてきたけど、全然生活が便利になる感じのスキルって取ってないよな」
「私は『料理』スキルを持ってるよ!」
「『採取』や『鑑定』、『器用』なども普段から使えますよ~」
「『料理』スキルはともかく、他のはなんか違わないか」
今では一日戦えば20ポイントは入手ができる。
最初の頃とは違いポイント入手の目途が経っているのだから探索や生産系のスキルにもう少しポイントを割り振っても良いのだろうが、なかなか手が伸びない。
こういうところは貧乏性だよな。
俺たちがスキルについて論じている内に、作業場の奥から新たな作業着に着替えた町長さんがやってくる。
「よし。じゃあみんな、ついてきて」
「えっ。あ、はい。」
「よし、頑張ろう!」
俺は先行きを不安に思いながら、町長の後に続いて町の南側へと向かった。
今は瓦礫の町となっているゲンテーンだが、元は北側に森、西側に川が近く資源が豊富に取れることから産業の町として機能していたそうだ。
町長さんから聞いた話だと、町は四つの区画に分かれていたらしい。
北側は森から近く原料となる木材の入手が容易なため木材の加工が盛んな工業区域。
東側は湿原の先に位置する巨大な港、カーム港からの物品出入りが多い商業区域。
西側は近くを流れるフィフス側から水源を引き、巨大な農地とした農業区域。
そして、南側はゲンテーンに住む人々の住宅地が集まった居住区域が広がっていた。
俺たちが町長さんに案内されやってきたのは南側の住宅区域だ。
魔族の襲撃から一週間が経ち、一部では瓦礫が撤去され空き地や、そこに建てられた小屋が目立つようになってきた。
俺たちが借りているのもその小屋の内の一つである。
「今回君たちにお願いしたいのは瓦礫や資材の運搬だ」
「はい。了解です」
運搬作業か。
俺は業務内容を聞いてほっとする。
単純な力仕事であればステータスの上がったこの体ならこなせるだろう。
流石に本職の人には負けるだろうが、役立てるはずだ。
そう考え、俺たちは言われた通りの場所に移動する。
後は目の前の瓦礫や資材に向け、現場の責任者から言われた通りに黙々と手を動かすだけ……だったのだが。
「木材、ここにおいてよろしいですか?」
「ああ。助かるよ。そこに積んでおいてくれ」
俺はメニュー画面を黙々と手を動かして操作。
現場の責任者から言われた通りの場所にチーム倉庫から建築資材を取り出す。
「転生者の兄ちゃん! 今度はこっちの瓦礫を頼む」
「はーい! ただいま」
今度は崩れた家屋の残骸を撤去する一団から声がかかる。
すでに倒れずに残っていた柱などは倒されており、瓦礫は山となって積まれていた。
俺はメニュー画面を操作し、積まれた瓦礫をチーム倉庫に入る分だけ収納し、その場から撤去する。
……うん。なんか思ってたのとだいぶ違うよ!?
俺は災害現場でのボランティア活動みたいなのを想像していたのだが、実際の仕事はメニュー画面を操作しチーム倉庫から物資の出し入れをするだけ。
いや、まあ。仕事が楽なことに越したことは無いんだけど。
俺の頑張るぞーって、この気持ち。
住民たちが汗をかいて頑張る中、俺のやることは画面の操作だけって、不完全燃焼感が凄い。
『オオカミさん。瓦礫、もう入れ終わったんすか?』
『あっ? ああ、すまん。まだある。追加を入れるぞ』
ウサギからのチーム通信に俺は現実に引き戻される。
ウサギは廃材置き場に待機してくれており、俺がチーム倉庫に放り込んだ廃材を取り出し廃棄する手筈になっている。
このように始点と終点にチームメンバーがいればチーム倉庫を経由することで迅速に物資の運搬ができるのだ。
この世界の住人には女神の加護を受けた人間であってもメニュー画面自体が使えないようで、当然チーム機能も転生者の特権ということになる。
チーム通信に、チーム倉庫。
うん。この二つは間違いなくチートだなっ!
『ウサギ、まだ量があるからドンドン廃棄してってくれ』
『了解っすよ!』
俺はウサギに通信を入れると残る瓦礫も次々にチーム倉庫に収納していく。
こうして作業を続けること2時間ほど。
この日作業する予定だった区画からは瓦礫が完全に消えさった。
「いやあ、皆さん。助かりました」
「いえ。お役に立てて良かったです」
作業を終えた俺たちが集まっていると、町長さんから声が掛かる。
「今から食事会をするんです。皆さんも一緒にどうですか?」
「えっ、いや。悪いですよ」
「ははは。何を遠慮することがあるんですか。オオカミさんたち転生者の皆さんも川での食材採取を頑張ってくれているじゃないですか。感謝すべきなのは私達の方です」
町長さんは俺たちを引っ張るように食事会場へと連れていく。
「おう、転生者の兄ちゃん。今日はありがとな!」
「うん。おじさんたちにはいつも世話になってるからね! 今日で少しは恩が返せたかな」
「あんた、そんなとこで怖い顔してなさんな。こっちに来て一緒に食べようぜ」
「えっと、俺は……」
「もうこっちの卓は料理の準備ができたわよ! さあ、皆さん召し上がってくださいな」
「はいっす。ありがとうっす!」
「酒につまみもあるからな!」
「えっ、ちょっと僕、お酒はダメなんです」
「ははっ! お酒は二十歳になってからだよっ!」
「馬鹿っ! おめえ。向こうの世界ではあんちゃんたちはまだ成人じゃねえそうだ。お酒は勧めるなよ」
「ふふふ。私とキツネちゃんは成人していますからお酒も大丈夫ですよ~」
「あ、あう。レイブンちゃん、あんまりお酒飲みすぎたらまた気持ち悪くなるよお」
俺たちが会場に着くと住民たちに囲まれてしまう。
まあ、町といっても数百人規模だ。
俺たち転生者のような外部の者は少なからず珍しいのだろう。
俺は彼らに勧められるままに食事を取る。
味付けは少し塩辛かったが、十分においしいものだった。
こういう雰囲気でどうふるまうのがいいのか。
俺は住民たちからの歓待に目を泳がせる。
他のメンバーを見れば一緒に歓談していたり、何やら真面目に話し込んでいたり、はたまたお酒を片手に楽し気に笑っていたり。
皆が笑顔を浮かべていた。
こうして早く休むはずが、結局日が沈むまで住民たちとの交流を楽しむことになった俺たち。
久々の心温まる食事は、俺の心を満たしたのだった。
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