第48話 ゲンテーン回帰

「A級トードが出たのですか!? 皆さん、良くご無事で」


 ゲンテーンの町に戻ってきた俺たちは、自警団の仮設拠点を訪れていた。

 現在団長さんは他のメンバーと共に森へと素材採取に出ており、拠点にはコウノさんが一人残っているだけだった。


 南へのモンスターの移動に、A級トードのとの遭遇。

 俺たちは川で起きた出来事をコウノさんへ伝達する。


「まさかA級トードを倒してしまうとは……皆さん、いったい何者ですか?」


 報告の内容にコウノさんは驚きを通り越し、あきれたような表情となる。


 確かにA級トードは俺たちよりも数段格上のモンスターだっただろう。

 倒せたのは仲間の頑張りと、運の要素が大きい。


「コウノさんはA級トードのことをご存知なんですね」


「ええ。ゲンテーン付近に出没するモンスターであれば、それを纏めた本がありますからね。ですから不思議なんですよ。どうしてA級トードがゲンテーン付近にまで出てきたのか……一度私どもで調査いたしましょう」


「やっぱりA級トードはこの辺りに出てくるモンスターでは無いのですか?」


「ええ。その通りです」


 俺の問いかけにコウノさんは真剣な表情になる。


「A級トード程のモンスターとなると体内に保有する魔力も相当なものとなります。体内魔力の多いモンスターは基本大気中の魔力の低い場所には出てきません」


「A級トードは普段どこに生息しているのですか?」


「森の中でも魔族領に近い場所でしょうね。仮に人間領まで出てくるにしても森の外縁まででしょう」


 モンスターの異常、どうやら何かが起きているようだ。

 俺はモンスターたちが南に移動した原因がA級トードの移動だと考えていたが、それではA級トードはなぜ移動してきたのか。

 仮に森の外縁にA級トードですら逃げ出すような “何か” が現れたのだとしたら。


 俺は悪い予感に身震いする。


「皆さんはA級トードとの戦闘でお疲れでしょう。今日の活動は切り上げて、小屋で休まれてはいかがですか?」


 俺たちチームには仮設の小屋が二軒、宿泊場所として割り当てられている。

 男女で分かれ利用しており、ここ数日はウサギ、アルマと同じ小屋で寝泊まりしていた。


「そうですね。そうさせていただきます。何かあったら連絡してください」


「ええ。もちろんです。戦えるメンバーは限られていますからね。A級トードを倒したオオカミさん達には期待していますよ」


 正直疲労は限界だ。

 コウノさんの言葉に甘えて今日の活動は終了することにしよう。


 俺たちはコウノさんに集めた素材を手渡すと、与えられた小屋で休むことにした。





「オオカミ君、ウサギ君。二人ともお疲れさまでした」


「ああ。お疲れ」


「お疲れさまっす!」


 与えられた小屋に戻った俺たち三人は、それぞれの寝袋の上に横たわった。


 木を組み合わせて作られただけの簡素な小屋。

 自警団のメンバーやこの世界の冒険者が材料を集め、ゲンテーンの住民がくみ上げたものだ。

 小屋の中にあるのは俺たちが持ち込んだ寝袋やゲンテーンの住民たちが支給してくれた日用品ぐらいだ。

 ポイントで交換した細かな荷物は現在チーム倉庫に収納されている。


「それにしても今日は大変な目にあったっすよ。まさかあんな強敵が川に出てくるなんて、この世界はどうなってるんすか!」


「確かにこうもポンポンと強敵に出てこられたらこっちの命がいくつあっても足りないよな」


 この世界に来てからの事を思い返すと自然とため息が出る。

 ゴブリンに始まり、オーク、ゴブリンメイジ、そして今回のA級トード。

 俺たちも強くなっているはずだが、出会うモンスターはどれも特殊な力を持っており一筋縄では勝つことはできない。


 しかもこの世界にはモンスターとは隔絶した力を持つという魔族という存在もいるのだ。

 俺たちの目的が魔王を倒すことである以上、今後魔族と戦うことも視野に入れなければならないのだ……


「はあ。先は長いな」


「焦っても仕方ありませんよ。地道にやるしかありません」


 今まで漠然としていた魔族の強さのイメージが今回A級トードと戦ったことでより遠いものであることを実感する。


 この世界に来てからすでに1か月近くの時が経つ。

 このまま行って本当に元の世界に戻れるのだろうか。




「ロンリ! 遊びに来たよ!」


 暗い空気を吹き飛ばすように、玄関口の方から明るい声が響く。

 ウグイたち女性メンバー四人が小屋に入ってくる。


「おい。今日はもう休むんじゃ無かったのか?」


「ふふふ。あんな戦いの後じゃ神経が高ぶって眠ってなんていられないよ。そういうロンリたちもこれからのこととか考えてたんでしょ?」


「まあ、そうだが」


 確かにウグイの言うとおりだ。

 肉体的な疲労は限界を迎えているがまだ眠れそうにはない。


「それでウグイたちは何しに来たんだ?」


「どうせ寝むれないのなら、ゲンテーンの復興作業の手伝いでもしようと思って。私たち、ゲンテーンの人たちにはこの小屋を作ってもらったりとかいろいろ世話になっているからね。ロンリたちも一緒にどう?」


「どう、って。流石に今日は休もうぜ。眠れなくても体を横にしていればいいだろう」


「ロンリも見たでしょ。怪我をしたゲンテーンの人たちを。そのことを思うとどうしても眠っていられないんだよ」


「焦っても仕方がない。今俺たちがするべきなのは休養を取ることだと思うが」


「うう。そうなんだけどさ」


 うつむいてしまうウグイ。

 少しきつく言い過ぎただろうか?


 確かにウグイの言い分もわかる。

 この町に来たときに見た怪我人たちの様子には衝撃を受けたし、ゲンテーンの人たちにはこの小屋を始めいくつもの援助を受けた。


 その恩は素材集めで返しているつもりだが、ゲンテーンの現状になにかしてあげたいと思うのは俺も同じだ。


 俺はもう一度ウグイの顔を見る。

 葛藤を滲ませるその表情。

 確かにこの状況で布団にくるまっていては、休めるものも休めないだろう。


 現在はまだ昼過ぎ。

 日が傾くまでも時間がある。

 俺たちも今寝てしまったら、変な時間に起きるかもしれないな。


「よし。ウグイ。ゲンテーンの人たちには俺も恩を感じているからな。俺も復興の手伝い、一緒に行くぜ」


「ロンリ、いいの?」


「ああ。その代わり日が傾くまでには活動を切り上げるからな」


「うん。了解だよ」


 俺の答えにウグイは満足げに頷く。


「オオカミさん、僕も行くっすよ」


「当然僕もです」


 ウサギとアルマも俺の意見に賛同する。


「よし、じゃあゲンテーンの住民のために、復興作業を頑張るか」


 俺たちは全員で気合を入れると、小屋を飛び出した。

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