第46話 A級トード
ギョロっとした大きな一対の眼が俺たちを睨む。
引き締まった足、青白く光を反射する皮膚、3メートルを超える巨大な体。
俺たちの前に現れたのは
それは
上空から襲撃を受けた俺たちは突然の事態を受け、体を硬直させてしまう。
その太い脚に秘められている強大な脚力による跳躍でここまで跳んできたのだろう。
A級トードの足元には巨大なクレーターができていた。
俺はA級トードの下敷きにされる自分の姿を想像し、背筋に冷たい汗が流れるのを感じる。
「『虚飾』! ……ダメです。相手が大きすぎて、変身できません」
キツネが虚飾を発動し、相手のスキル構成を探ろうとするが不発となる。
くそ。弱点が分かればと思ったが仕方ない。
「岩集中!」
最初から全力だ。
俺は渾身の力を込めて敵に岩を引き寄せる。
「火遁の術っす!」
「『エクスプロージョン』です~!」
ウサギとレイブンが俺に続きスキルを発動させる。
俺の放った岩の到着と同時に、ウサギが忍術で生み出した火柱が、レイブンが『爆発の魔法の才能』で発生させた魔力の爆発がA級トードに襲い掛かる!
「なっ!? 効いてないだと!?」
「いや、ダメージは通ってるっすよ!」
攻撃を受けA級トードは苦し気な呻き声を上げる。
だが、そのダメージは見るからに少ない。
A級トードの表皮は分厚い氷で覆われている。
どうやら氷の魔法を使っているようで、氷に阻まれた俺たちの攻撃の威力は軽減されてしまっていた。
かろうじてレイブンの爆発魔法だけがA級トードの氷を砕き、本体までダメージを与えることに成功していたが、攻撃を受けた箇所の氷はA級トードが発する冷気によりすぐに元通りに塞がってしまう。
「あの氷の鎧。やっかいだな」
「っ! 攻撃が来ます! 『敵対』!」
A級トードが大きく息を吸い込む。
攻撃を予見し、盾を構えたアルマが俺たちの前に飛び出る。
A級トードの口から放たれたのは大量の水の塊だ。
唾を飛ばすように放たれた高威力の水。
それはアルマの『硬殻』をもってしても軽減しきることはできず、アルマは後方へと吹き飛ばされる。
「くっ。なんて威力ですか」
「あっ! 次が来るよっ! 気を付けてっ!」
「私が受けます~。『金纏』」
レイブンが俺たちの前に金色のバリアを展開する。
次の瞬間にはA級トードの放った水撃がバリアを直撃する。
水が辺りに飛び散り、視界を覆う。
それが晴れるころにはすでにA級トードは次弾の装填を終えていた。
「くそっ。守ってばかりじゃどんどん不利になるっ! 打って出るよっ!」
キツツキはバリアがA級トードの次撃を防いだのを確認すると同時に前へと飛び出す。
A級トードの攻撃はどれもまともに食らえば致命的なダメージをおうだろう。
確かに受けに回っていても勝ち目はない。
「総攻撃だ!」
俺の掛け声とともに全員が動く。
風を纏った矢が、聴く者を燃やす歌が、魔力で生み出された氷が、炎が、爆発が。
A級トードの巨体目掛け一斉に降り注ぐ。
「なっ! 避けろ!」
俺たちの放った攻撃を、A級トードは大きく跳躍し回避する。
直後、頭上にかかる影。
俺たちを踏みつけにしようとA級トードが急降下してくる。
落下点から逃れるべく全員が散開する。
俺たちが転がるようにその場を離れたのと、A級トードがバリアを踏み砕いて地面に落下したのはほぼ同時だった。
「ウサギ君。ありがとう。助かったよ」
「次が来るっすよ! お礼はいいっすから盾を構えるっす!」
体勢を崩していたアルマはウサギが抱えて回避したようだ。
他のメンバーも回避に成功している。
俺たちはA級トードを取り囲むように位置取りとなる。
「くそっ。あんな攻撃どうすればいいんだよ」
弱い攻撃ではA級トードの表皮を覆う氷を突破できずダメージを与えることはできない。
しかし、皆でタイミングを合わせ一点に攻撃を集中させようとしても跳躍で回避されてしまう。
「『敵対』! くっ!?」
俺が考える間にもA級トードは攻撃の手を緩めない。
アルマが敵対心を煽り攻撃を引き付ける。
A級トードは長い舌を伸ばし俺たちを打ち付けようとしたのだ。
舌の攻撃をアルマの盾がしのぐ。
アルマは氷魔法を使い足元を地面ごと凍らせて踏ん張りが効くようにしていた。
今ならA級トードの視線はアルマに向いている。
攻撃のチャンスだ!
「みんな行くぞ! 岩集中!」
「火遁の術っす!」
「燃えちゃえ~♪」
「剛力! オーバードライブ! 雷拳! ステップ! インファイト!」
「きょ、虚飾! ウインド!」
「エクスプロ―ジョンです~!」
『グゲエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!』
A級トードの氷の鎧が砕け散る。
俺たちの攻撃を受けたA級トードは苦悶の叫びを上げた。
「よしっ、効いてる! このまま一気に畳みかけ、グハッ!?」
体の芯に響く衝撃。
気づけば俺は地面に転がされていた。
体を動かそうとして、全身が痛みに悲鳴を上げる。
いったい何が?
分かったのはA級トードから攻撃を受けたということ。
顔を上げればA級トードが伸ばした舌を収納している所だった。
くそっ。舌での攻撃を受けたのか?
まったく反応できなかった。
「くっ。ウグイ……みんな」
油断していたつもりはなかったのだが、目の前に転がる攻撃の好機に目が曇ったのかもしれない。
受けたダメージで体が上手く動かない。
周りを見れば、仲間も地面に倒れ伏している。
「皆さん! 大丈夫ですか!」
「なんなんすか、こいつ。いきなり出てきてボスクラスの戦闘力とか、強すぎるっすよ!」
立っているのは盾を構えたアルマと、ウサギだけ。
どうやらウサギだけは何とか回避が間に合ったようだ。
「皆さんにはこれ以上手出しはさせません! 『敵対』!」
再びアルマが敵対心を引き付ける。
A級トードはギョロっとした両の眼でアルマを睨みつけ、息を大きく吸い込む。
水での攻撃を打ち出すつもりだろう。
「くっ。絶対に僕が皆を守り抜いて見せる! 『アイスシールド』!」
アルマが氷の魔法を発動させる。
地面を凍結させた冷気はそのまま盾の表面を氷で覆っていく。
氷に防御力を増したアルマ。
構えた盾にA級トードの放つ水が着弾。
アルマの盾を覆う氷を砕き、防ぎきれなかったダメージをアルマへと与える。
アルマは必死に攻撃を防いでいく。
しかし、それも所詮は時間稼ぎにしかならない。
現にアルマの体はボロボロで、その疲労は表情に色濃く表れていた。
俺は何とか立ち上がる。
しかしダメージの影響で意識に霞が掛かっているようだ。
ふらついた体を気合でねじ伏せ姿勢を保つ。
「オオカミさん、大丈夫っすか」
ウサギが俺の下に駆け寄り体を支えてくれる。
くそ。もう動く体力さえ無い。
他のメンバーはどうやら意識を失っているようだ。
息はある様子で、生命の心配はないだろう。
「くそ、どうすれば」
アルマがA級トードの攻撃を引き付けている今、攻撃に動けるのは俺とウサギしかいない。
二人だけで、A級トードの防御を突破できるのか?
岩集中、風魔法。
俺は幾パターンもの攻撃をイメージするが、目の前にそびえる氷の壁を突破できる手段は思いつかない。
「僕がやるっすよ」
「ウサギ……何か、策があるのか?」
俺の問いかけにウサギは力強く頷く。
ウサギから告げられる作戦の全容。
「……確かに、これならA級トードにも通じるかもしれない」
しかし、その作戦を遂行するためには一つ、超えなければならない障壁があった。
「なら俺は、A級トードの防御を破るような一撃を放てばいいんだな」
「はいっす。僕の作戦にはどうしてもオオカミさんの協力がいるっす。お願いするっすよ、オオカミさん」
ウサギから向けられるのは俺への期待を込めた眼だ。
「ははっ。ウサギも無茶を言うようになったな」
ウサギの策を使うにはA級トードの防御を突破し、なおかつ一定以上のダメージを与えられる攻撃を放つ必要がある。
それには岩集中を超える、今まで以上の威力を持つ攻撃が必要になる。
そんな手段、今の俺は持っていなかった。
「無茶っすか? オオカミさんなら絶対にできるっすよ」
ウサギは朗らかに笑うとA級トードへと視線を向けた。
すでにウサギの中では自身の放つ最後に一撃に照準を合わせているのだろう。
俺が岩集中を超える威力の攻撃を放つと疑ってはいないのだ。
「やるしかない、か」
今、チームで動けるのは俺だけだ。
ならば俺がやるしかないだろう!
ウサギからの無言の期待に覚悟を決める。
俺は今まで手にしたスキルを、駆使した戦術を、乗り越えてきた死線を思い返せ。
俺はウサギの策へと繋ぐべく、必死に思考を回転させる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます