第47話 氷の鎧をぶち破れ!
A
今、立っているのは俺とウサギ、そして今もA級トードからの攻撃を受け続けているアルマだけだ。
盾に氷を纏わせ防御力を増し、『硬殻』でダメージを軽減していてもなお、強力なA級トードの攻撃は盾の上から与える衝撃でアルマに傷をつけていく。
すでにその体は満身創痍であった。
アルマが倒れれば、もうA級トードの攻撃を止められる者は居なくなる。
だから、今動ける俺とウサギでA級トードを倒さなければならない。
「僕に策があるっす。だからオオカミさんは、一撃。なんとかA級トードにダメージを与えてください」
ウサギから託された難題。
A級トードを覆う氷の鎧は生半可な攻撃ではビクともしない耐久力を持ち、時間経過で損傷も回復してしまう。
そんな相手に俺が一人でダメージを与えろと言うのだ。
「くそ、無茶言いやがる」
俺は眼光鋭くA級トードを睨みつける。
ウサギは俺に命を託してくれたんだ。
ここでNOと言うようじゃ日本人じゃねえ!
「岩集中!」
こちらへ無警戒なA級トード。
その側頭部へ、渾身の岩の砲弾を叩きこむ!
A級トードを覆う氷の鎧に穴が開き、その巨体が大きく傾く。
「もう一発だ。岩集中!」
手を緩めるな!
狙うは先ほどの攻撃で鎧の剥がれた部分だ。
A級トードへと引き寄せられる巨岩。
しかし着弾までの5秒のタイムラグは致命的で、A級トードは飛来した岩を先端を凍らせた舌で撃ち落としてしまう。
「くそ。やっぱり足りねえか」
岩集中では、やはり攻撃力が足りない。
A級トードのギョロっとした両の眼が俺へと向く。
「土遁の術っす!」
A級トードの放った水の弾丸。
回避の間に合わない速度で飛来したその攻撃を、ウサギが俺の前に土の壁を生み出し防ぐ。
「ナイスだ。ウサギ!」
「当然っす。オオカミさんは攻撃に集中するっすよ!」
断続的に響く衝撃音。
土の壁が水弾を受けミシミシと音を立てる。
「僕の土遁の術。武器の生成みたいな細かい操作は無理っすけど強度や簡単な形の操作ならできるっす。オオカミさん。A級トードに攻撃を叩きこんでくださいっす!」
ウサギは壁の形を操作し、A級トードの攻撃で削られた箇所をふさいでいく。
ウサギが稼いでくれた時間。
その間で考えるんだ、A級トードにダメージを与える方法を。
ゴブリンメイジ戦の時のように、集中を使い相手の攻撃をそのまま相手にぶつけるのはどうだ?
A級トード自身が放つ水弾や、舌での攻撃。
A級トード自身の攻撃ならば氷の鎧を突破できる威力があるはずだ。
「集中!」
土の壁から顔を出しA級トードの放つ水弾に集中を発動させる。
「ちっ、ダメか」
操作できる感覚はあるものの、弾速が早すぎて少し軌道をずらすので精いっぱいだ。
これではとてもじゃないが相手に攻撃を返す事なんてできない。
「って、うおっ!?」
顔を土壁の裏へひっこめると、眼前を水弾が通過していく。
危ない。もう少し顔をひっこめるのが遅れていれば確実に頭を吹き飛ばされていたところだ。
一歩間違えれば死ぬ綱渡りの戦闘。
しかし、ここで歩みを止めている場合ではない。
相手の攻撃を利用するというのはいいアイデアだと思ったのだが。
この様子では舌での攻撃も集中で操作するのは不可能だろう。
他に利用できるものはないか。
俺は周囲を見渡す。
A級トードは川を背に俺たちと対峙している。
A級トードの発する冷気で川の表面の一部は凍り付いていた。
この距離であれば集中でA級トードの顔面に水を集める事は可能だ。
しかし、カエル相手に窒息を狙うのは難しいだろう。
それに敵は氷の魔法を使うのだ。
操作している水を凍らされてしまえば終わりだ。
ウグイ、キツツキ、キツネ、レイブンはA級トードの攻撃を受け気を失っている。
今はウサギが土遁の術でみんなの前に壁を作っているが、A級トードの敵意は完全に俺たちに向いており、そちらを攻撃しようとするそぶりは見えない。
アルマは意識こそ保っているが度重なる攻撃を受け続け、すでに満身創痍。
うずくまったまま動くことができずにいる。
ウサギは俺の隣で地面に手を付き土遁の術で土壁の生成を続けている。
A級トードからの攻撃が続いている以上ウサギが忍術の発動を止めれば、壁は簡単に破壊され俺たちはハチの巣にされるだろう。
仲間は動くことができない。
せめてもう一人いれば同じ箇所に攻撃を叩きこみ、ダメージを与えることもできるのだろうが……
だめだ。弱気になるな。最善を考えろ!
「オオカミさん、そろそろ、やばいかもしれないっす」
俺の隣で土壁の生成を続けるウサギが苦し気に声を上げる。
「魔力はあとどれぐらい持つ?」
「あと、一分が限界っす!」
くそっ、思考時間すら無いのか。
刻々と迫るタイムリミットに俺は歯噛みをする。
考えるんだ。岩集中よりも強力な攻撃方法を。
想像するんだ。A級トードを倒し、勝利するビジョンを!
「うわっ! 飛ばす水弾を凍らせて威力を上げてきたっす! これは死ぬっすよ!」
ウサギから悲鳴が上がる。
A級トードの氷魔法。
そう、やはり強力な攻撃と言えば魔法だ。
しかし、LV1の魔法ではA級トードの守りを突破することは不可能だ。
矢に風魔法を乗せ放つのはどうだ?
確かに単発で矢を射るより威力は上がるが岩集中ほどじゃない。
ならば他の属性の魔法ならどうだ?
幸い魔法を習得後モンスターを何体か倒し、更にはレベルアップボーナスでのポイントも得ている。
今ならば一つ、魔法スキルを交換できるはずだ。
火魔法では冷気に冷やされるだけ、水魔法も凍らされて終わりだ。
氷魔法は氷の鎧に効くはずもない。
雷魔法は氷の鎧に当たれば分散されてしまい、本体へのダメージにはならないだろう。
光魔法はそもそも攻撃手段がない。出来て太陽光を集め、一か所の温度を上げる程度の攻撃だ。それならば火魔法の方が効果が高いだろう。
可能性があるとすれば土魔法だが、岩集中以上の威力が出せるかと言われれば、それは不可能だろう。
せめてレイブンが取得した爆発の魔法があれば。
爆発の魔法の特徴はその威力だ。
先ほどレイブンさんが放った魔法は確かにA級トードの氷の鎧を砕いていた。
しかし、爆発の魔法は魔法系の職業専用のスキルだ。
狩人の俺では取得できない。
やはり俺にはこの状況を覆すことなんて無理なのか?
たった一撃、A級トードにダメージを与える。
それだけの結果を引き寄せる力が今の俺には圧倒的に足りない。
「う、うう。オオカミさん! お願いしますっす!」
ウサギの声に疲労の色が交じる。
くそっ。まだだ。
思考を止めるな! 手段を探せ!
ボロボロの体、疲れ切った思考。
だが、ここであきらめれば全てが終わってしまう。
必要なのは威力だ。
再生する間も無く、氷の鎧の上から一撃でA級トードにダメージを入れられる攻撃力。
思い出せ。なんでもいい。
何か、この逆境をひっくり返せる手がかりを!
レイブンは爆発魔法が一番威力の高い魔法だと教えてくれた。
ああ、俺に爆発魔法が使えれば……
『魔力は圧縮されると爆発する性質を持っていて、爆破魔法はその性質を利用します~。周囲の魔力を一点に凝縮させてから解放する事で爆発現象を起こすんです~』
その時、脳裏によぎったのはレイブンが爆発魔法の説明をするときの一節。
まさか、そんなことが可能なのか……いや、迷っている暇はない。
やれるかどうかじゃない。
たとえ無理でもやってやるんだ!
「『魔力知覚』!」
俺が発動させたのは魔法を扱う前提スキルである『魔力知覚』。
空気中に漂う魔力を知覚できるようになるスキルだ。
土の壁から顔を出せばA級トードの周りに漂う魔力が青色に視認できる。
そして、見ることができるなら集中の対象に取れるのではないか!
俺は即座に集中を発動。
対象は『魔力』、集中先は『A級トード』。
集中によりA級トードの前に凝縮されていく魔力。
その量は俺の視界に入る大気中の魔力、全てだ!
魔法を使えるA級トードは当然『魔力知覚』ができるのだろう。
目の前で集中していく魔力に危機感を覚えたのか、その地点を舌で薙ぎ払う。
しかし、当然実態を持たない魔力を物理的な手段で散らすことはできない。
五秒の時間を掛け限界にまで圧縮される魔力が青白く輝く。
「“魔力”集中!」
圧縮された魔力が発するのは膨大なエネルギー。
俺が集中を解除すれば、集められたそのエネルギーは解放され、巨大な爆発を引き起こす!
『グゲロオオオオオオオオオオオオオ!?』
「うおおおおおおおおお!? なんすか今の? 衝撃で土壁が吹き飛んだっすよ」
「魔力を凝縮させ生み出したエネルギーを解放。爆発を引き起こしたんだ」
「なんすかそれ。僕はオオカミさんにA級トードへ一撃を入れてほしいって頼んだんすけど、倒しちゃうって、凄すぎるっす!」
「いやウサギ、油断するな。A級トードにはまだ息がある」
爆発魔法で消費する何倍もの魔力を凝縮した超威力の爆発攻撃。
辺りには砂煙が舞い視界は不良だが、索敵の反応はA級トードの生存を俺に告げる。
砂煙が晴れる。
そこには氷の鎧を砕かれ、全身の皮膚を爆発に焼かれながらも未だに立ち続けるA級トードの姿があった。
「くそ。流石にあれだけの巨体、タフだな。だが、あいつは満身創痍。一気に畳みかける!」
俺は再度魔力集中を発動しようとする、が。
「……ダメだ。今の一撃であたりの魔力を消費しつくした。もう爆発は起こせない」
「なっ、今の強力なの、もう打てないんすか?」
「ちっ。岩集中!」
くそ。ここで手詰まりだと? ふざけるな!
A級トードはもう虫の息のはずだ。
氷の鎧が剥がれている今、岩集中でもダメージが通るはず!
放つ岩の砲弾。
しかし、A級トードはあっさりと空高く跳躍しそれを躱してしまう。
あれだけ全身にダメージをおっていてまだあれだけ動けるのか。
俺たちの頭上までその巨体を持ち上げたA級トードの跳躍性能に、俺は純粋に驚嘆する。
……だが、俺たちはこれを待っていた!
「ウサギ、頼んだ!」
「ハイっす! 『土遁の術』っす!」
A級トードは空中へと跳び上がると、俺たちを踏みつぶそうと真上から急降下してくる。
上空を見上げながらウサギが発動させたのは地面を操作し隆起させる『土遁の術』。
俺たちが立つ地面が盛り上がり、山が出来上がる。
「できた土の山を少しだけ硬質化させて、先端を尖らせる。スキルレベルが低くて細かい操作はできなくてもこれぐらいの調整なら、できるんすよ!」
ウサギの手によって生み出されたのは大きな土の棘。
空中に居て落ちてくるしかないA級トードには、落下地点に設置されたその棘から身をかわす手段はない!
飛び散る鮮血、肉の裂ける音。
土の棘に腹を貫かれたA級トードはその生命活動を止める。
相手の攻撃を利用し、勝利する。
それがウサギの編み出したA級トードの攻略法だ!
「本当はもっとカッコイイ形状にしたいんすけど、今はこれが僕の精一杯っす!」
「いや、十分かっこよかったぞ。ありがとな、ウサギ」
「ハイっす! 僕頑張ったっすよ!」
A級トードの死亡を確認し、満面の笑みを浮かべるウサギ。
俺はウサギの背を優しく叩く。
「なんすか!? オオカミさん、痛いっすよ!」
「はは。まあ、勝ったんだし、イイじゃねえか」
「??? 何がっすか! なんで勝って叩かれなくちゃいけないんすか!?」
「う、うーん……って、何これ!? なんで私、血まみれなの!?」
「きゃ、きゃああああああああ。きゅ、救急車あ!?」
血の雨を浴び、倒れていた仲間たちも意識を取り戻したようだ。
「アルマ君、大変! あなたに癒しを~♪」
「あはは。ウグイさん、ありがとうございます」
特に重症のアルマは、ウグイの歌によりすぐさま回復される。
「これは一度ゲンテーンに戻って団長さんたちに報告しないとな」
俺の提案に当然反対意見は出なかった。
こうしてなんとか俺たちはA級トードを打ち倒すことに成功した。
A級トードの死体からチーム倉庫に入る分の素材を詰め込むと、情報を共有すべく一度ゲンテーンの町に戻ることにした。
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