第45話 チーム倉庫
プカプカと宙に浮かぶアンブレラの群れを発見する。
「三体か。どうする?」
「どっちが多く倒せるか勝負しようよっ!」
「……あんまりそういうノリは好きじゃないが、まあいい。やってやるよ」
拳を打ち合わせやる気を見せるキツツキ。
俺は彼女の提案にニヤリと笑みを浮かべる。
俺たちはここ数日、川での素材集めを続けていた。
新たに魔法を手に入れたことでモンスターとの戦闘の効率は上昇。
そして昨日、戦いを続ける内に遂に俺たちのレベルは10に上がった。
レベルアップと共に解放されたのは新機能『チーム倉庫』だ。
物を異空間へ自在に出し入れできる機能で、異空間は一つのチームにつき一つ与えられる。
これにより川で採取した素材を自由に持ち運ぶことができるようになったのだ。
コウノさんはチーム倉庫、そして川辺のモンスターに有効な攻撃手段を手にした俺たちに、川での素材採取を任せてくれた。
コウノさんは団長さんと共に、ゲンテーンでの復興作業の指揮を取る必要があるためだ。
素材は肉や薬の材料を中心に、多ければ多いほうがいいという。
俺たちはチーム倉庫を素材でいっぱいにするべく、ペアに別れてモンスター討伐を行っていた。
俺とペアになったのはキツツキだ。
他のメンバーも近距離攻撃主体と遠距離攻撃主体の人間でペアを組んでいる。
そして今、俺たちが相手しているのは三体のアンブレラだ。
『『『キシャア』』』
アンブレラ達はこちらの姿を見つけると、金切り声を上げながら得意の水魔法を放ってくる。
「『ウインド』!」
俺に向かって飛んできた水弾を、風の魔法で迎え撃つ。
打ち出した風は水の弾丸とぶつかり合い相殺。
辺りに威力を失った水が飛び散る。
「はっ! そんな攻撃当たらないよっ!」
キツツキは『ステップ』を併用した華麗な足さばきで水弾を避けながらアンブレラへと近づいていく。
「いくよっ! 『雷拳』!」
キツツキが拳を撃ち合わせると、拳の間を雷光が走る。
すでにアンブレラとの距離はわずかだ。
『ステップ』で一気に距離を詰め、雷を纏った拳を叩きこむ。
『!?』
雷撃を受けたアンブレラは、体をビクンと跳ねさせるとそのまま声を上げることもままならず地面へと墜落。
「しゃあっ!」
キツツキは墜落したアンブレラの生死を確認することなく次へと標的を定める。
二撃、三撃と続けて拳をふるい一瞬のうちに三体のアンブレラを討伐してしまう。
「って、おい! 俺の相手も残しておいてくれよ」
「ははっ! だから勝負だって言ったでしょっ! こういうのは早い者勝ちだよっ!」
俺の文句もどこ吹く風。
キツツキの勝利宣言に、俺は苦笑いを浮かべる。
本当はモンスター相手に魔法を打ち込みたかったのだが、こうなっては仕方ないか。
「まあいい。次に行くぞ」
俺はアンブレラの死骸をチーム倉庫に収納する。
チーム倉庫は収容可能な容量、重量に制限こそあるものの、目視だけで異空間へと対象を収納できる。
どうやら生物は収納できないようだが、死体であれば素材扱いとなり問題なく異空間に入れることができた。
他のメンバーも順調にモンスターを倒しているらしくこのままいけば1時間もすれば、倉庫はいっぱいになるだろう。
「だいぶ素材が集まったな」
素材集めを始めて30分程。
メニュー画面を操作し確認すると、チーム倉庫の容量はもうほとんどが素材で埋まってしまっていた。
「やっぱり魔法の力は凄いな。高威力の攻撃を連続で撃てる。殲滅速度が桁違いだ。これなら予定よりもだいぶ早く素材を集められそうだな」
「うんっ! でも素材が早く集まったのって、たぶん魔法の力だけじゃないんじゃないっ?」
「ん? どういうことだ」
「オオカミ君は気づかないかなっ? なんかこの辺り、モンスターの数が増えてるんだよねっ」
「……ああ。確かに。索敵に反応するモンスターの数も増えているな。普通に考えれば俺たちがモンスターを倒しているんだから減りそうなものだが……もしかしてゴブリンの時のように、モンスターが組織立って行動しているのか!?」
俺は慌てて周囲の反応を探る。
確かに索敵に反応するモンスターは増えてはいるが……
「ううん。私たちを襲いに来てるとか、そんな感じじゃないと思うよっ。それよりも川下に向けてモンスターが移動しているような……」
「確かに。モンスターたちは森の方から川下へと移動している感じだな。川下って南側だよな。何かあるのか?」
「南の方? うーん。分かんないねっ」
俺とキツツキは揃って首を傾げるが答えは思い浮かばない。
まあ俺たちがこの周囲のモンスターの生態や、地理を知るはずもない。
判断材料がないのだから理由に思い至らないのは当然だろう。
「そろそろ倉庫もいっぱいになるし一度集まるか」
「そうだねっ!」
俺はチーム機能で皆に連絡を取った。
「私たちの方ではシープエイプの姿を見たよ」
皆が集まった際、モンスターの不審な動きについて俺が話すとウグイが気になる情報を口にする。
「シープエイプって、森に居た白い毛で全身が覆われた猿みたいなモンスターだろ? それがこんなところまで出張ってきたっていうのか?」
「うん。コウノさんに聞いた話でもこの辺にシープエイプが出るなんて話は聞かなかったよね。だから姿を見かけて気になったんだ」
シープエイプは臆病な性格で、敵の姿を見るとすぐに逃げ出す性質を持つ変わったモンスターだ。
そんなモンスターが生息域である森を離れ、森から距離のあるここまで来たというのか?
ウグイの話に俺は違和感を強める。
「ここから南には何があるんだっけ?」
「確か王都があったはずですよ」
俺の質問に団長からいろいろな情報を仕入れていたアルマが答える。
「川は南に流れて行ったあと、五つの支流に分岐するそうです。その中で一番太い本流を下った先にあるのがこの大陸で一番の町である王都フォーチュンだそうです。他にも川沿いにはいくつか町があるみたいですね」
「町か。確かにモンスターは人を襲う習性があるみたいだから町へ向かってもおかしくはないが、それならより近いゲンテーンの方に向かいそうだよな」
俺は首を傾げる。
さらに言えば、町を狙ってモンスターが移動しているとしてもその中にシープエイプが交じっていることの説明にならない。
もしかして……
「モンスターたちは南に向かっているんじゃなくて、北から離れようとしているんじゃないのか?」
「ん? それ、何か違うの?」
「つまりモンスターたちは北に現れた何かから逃げているんじゃ……」
その破壊音が響いたのは、俺たちが北へと意識を向けたその直後だった。
ドシン、と地を揺るがす巨大な破壊音。
俺たちが視線を向けたその先には衝撃で巻き上げられた砂煙が待っている。
「いったい何だ……っ!?」
索敵の反応に俺は絶句する。
破壊音の発生源から感知されたのはゴブリンメイジと対等か、下手をすればそれ以上の威圧感を放つモンスターの存在。
「なんだよ、この反応」
「まさか、ゲンテーンを襲った魔族が戻ってきたんじゃ?」
「うええええええ! マジっすか!? 僕たち死んじゃうっすよ!」
「くそ。なんなんだよ!」
俺たちは瞬時に武器を構え戦闘態勢に入る。
俺たちが武器を向ける先。
晴れた砂煙の中から現れたのは異様な姿のモンスター。
「なんだよ、あれは!?
「うぎゃあああ。いくら何でもでかすぎるっすよ!」
『鑑定』で表示されたのは
トード、つまりは
これはいくら何でも進化しすぎだろ!?
その体長は俺たちの体躯の二倍では足りない。
目測で三メートル以上の巨体。
今まで出会ってきたモンスターの中で間違いなく最大級のサイズだ。
A級トードの足元は隕石が落ちたかと見まごうほどのクレーターができていた。
カエルの特徴である跳躍で、飛び降りてきたのだろうか。
あんな攻撃を食らえば俺たちの体なんてひとたまりもない!
A級トードの青白い体表は、ところどころが氷で覆われいる。
全身から冷気を発しているようでまだ距離がある俺たちの所まで冷気が漂ってきている。
「モンスターが移動していたのって、もしかしてこいつから逃げるためなんじゃ」
「ひええええ。だったら僕たちも逃げるっすよ!」
ウサギが恐怖を叫ぶ。
逃げる? こいつは空から降ってきたんだぞ。
それだけの跳躍力を持つ相手から逃げ切ることが可能だろうか。
A級トードのギョロっとした両目は俺たちのことを捉えている。
標的として俺たちのことを認識しているのだろう。
「逃げるのは無理だ! 迎え撃つぞ!」
突如訪れた刺客。
背中を向ければ狙い打たれるだけだろう。
俺は決死の思いを込めて迎撃を宣言するのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます