第30話 虚飾
拠点から移動すること三十分。
キツネさんに案内されて向かったゴブリンの集落は、俺たちの拠点から南東に当たる方向に位置していた。
集落の中央にそびえる巨大な木を中心に、太い枝や植物のつるなどで作られた簡素な家が並ぶ。
家の大きさは、人間が入るにしては小さい。
木の陰に隠れながら集落の様子を覗くと、ゴブリンたちが建物の間をゆったりと移動している。
「ここがゴブリンの集落っすね……あのローブ姿のゴブリンもここにいるんすよね」
「ああ。あいつがゴブリンたちの長なら間違いないだろうな」
背中を汗が伝い、緊張で乾いた喉が鳴る。
ローブ姿のゴブリンの脅威を思えば、この状況に恐怖しないではいられない。
「キツネさん。あなたの友人が囚われている位置はわかりますか?」
「は、はい! あの大きな木の隣、四角い建物の所ですう」
周りの家よりもいくらかしっかりした造りの建物。
あれが牢屋というわけだ。
姿は確認できないが、あの中にキツネさんのいう友人は捕らえられているのか。
場所は集落の中心部だ。
牢屋の前には見張りと思しきゴブリンも建物の前に二体、立っている。
ゴブリンたちの目を盗んで友人だけを脱出させることは不可能に思える。
「やはり戦うしかないか」
「レイブンちゃんからの情報では、ゴブリンの数は六十体以上ですう。通常のゴブリンよりも体の大きな上位個体と思われるゴブリンも十体程確認できたそうですう」
合計七十体以上のゴブリンとは、凄い数だ。
それに加えローブ姿のゴブリンもいるはず。
質でも、数でも負ける相手。
正面から戦えば敗北は必至だ。
「ロンリ。これだけのゴブリンを相手にどうするつもりなの?」
「このまま戦っても勝ち目はない。まずは数を減らそう」
ウグイの問いに俺は思考を巡らせながら答える。
「食料や水の収集の為にこの集落を離れるゴブリンがいるはずだ。まずはそういったゴブリンを狙って少しずつ倒していこう」
「各個撃破っすね。それなら敵に気づかれないようにする必要があるっすね」
キツネさんの友人からの情報では、ゴブリンは基本二体一組で行動しているようだ。
そして、今現在も何組かのゴブリンが集落から離れているという。
食料の調達にゴブリンが集落を離れたところを撃破する。
「仲間が何体も倒されればゴブリンたちも僕たちの存在に気づくでしょうね」
「ああ。だからなるべく多く数を減らすには静かに素早く行動しなければならない。まずは今集落を離れているゴブリンを全滅させる。そしてできれば状況の確認の為に動いたゴブリンも倒したい」
「あのお。その作戦、私も一緒に戦わせてください!」
俺たちが作戦を練っているとキツネさんが協力を申し出る。
キツネさんの職業は短剣を用い、特殊な攻撃手段を獲得していく攻撃職である道化師だ。
ただしキツネさんはユニークスキル『虚飾』を用いて戦っていたためあまり戦闘向きのスキルは取得していないらしい。
「それは是非お願いします。『虚飾』は任意の生物に変身できるスキルでしたよね」
「はい。そうですう。変身できるのは視界内の生物だけですう」
「スキルやステータスもコピーできるんですか?」
「スキルはコピーできますう。ただ、レベルとステータスは元のままでえ、変身中は『虚飾』以外の元から持っていた自分のスキルは使えなくなりますう。スキルレベルもコピーできる上限は『自分のレベル÷5+1』までで、それ以上のレベルのスキルはスキルレベルが下がった状態でコピーしますう」
なるほど。スキルのコピーと言えば強力なイメージがあるが、制限があるわけだ。
キツネさんの現在のレベルは7。
つまり敵の姿をコピーした際のスキルレベルの上限は2となる。
ローブ姿のゴブリンが使うあの巨大な火の玉を生み出すスキルが低レベルのものだとは思えない。
仮に変身しても、スキルレベルが低ければ小さな火の玉を生み出すのが関の山だろう。
「私は敵の劣化コピーにしかなれません。一対一では必ず負けてしまいますう。今までの戦闘では役立たずでえ。皆さんのお役に立てるかどうかわかりません」
「いや。そんなことは無いだろ」
弱音を漏らすキツネさんに、俺は力強く言葉をかける。
「スキルも使い方次第だ。これからのゴブリンとの戦い。キツネさんの存在が必要になる」
「こんな私でもレイブンちゃんの力になれるんですかね」
「ああ。だから一緒に頑張ろう。ついてきてくれ」
「は、はい」
気落ちしていたキツネさんの顔に少し色が戻る。
俺たちは行動を開始する。
*
俺たちは川で水を飲むゴブリンたちの姿を発見する。
「いきますう。『虚飾』!」
ゴブリンを対象にキツネさんのユニークスキルが発動。
キツネさんの姿は光の粒子を散らしながら徐々に縮んでいき、数瞬後には見慣れたゴブリンの姿となった。
「へ~。身に着けた服も一緒に縮むんだね」
「キツネさん。今持っているスキルを教えてくれないか」
「は、はい」
キツネさんはステータスを開くと、現在の自身のスキルを確認する。
当然ながら自分のスキルはステータス画面で自分で確認することができる。
虚飾を使えば相手の持つスキルを知ることができるのだ。
「ええっと、『嗅覚探知』『短剣の才能』『HP自動回復』『採取』『飢餓耐性』ですう。スキルレベルは全部2なので、元のスキルレベルはそれ以上ですう」
キツネさんはさらにゴブリンの持つスキルの詳細を教えてくれる。
俺たちが今まで目にしたことの無かったスキルもある。
~~~~~
嗅覚探知:嗅覚を強化し、臭いで周囲を知覚する。
採取:採取した植物の品質が向上する。
飢餓耐性:空腹状態でのステータス低下を抑える。
~~~~~
「やはりゴブリンは嗅覚で周りを警戒していたようだな」
「相手がどんなスキルを持っているか分かれば気を付けるべきポイントや弱点が分かるっすね」
「ああ。弱点が分かれば対策を立てることもできる。今からはゴブリンとの連戦になるんだ。しっかりとどう戦うか考えなければいけないな」
キツネさんのスキルを使えば、ゴブリンの上位種やローブ姿のゴブリンにも変身ができる。
スキルを見れば有効な攻撃が分かるはずだ。
それはこれからの戦いで切り札になる。
「『火遁の術』!」
用が済んだ二体のゴブリンは、ウサギがスキルでまとめて倒してしまう。
俺たちは索敵を使い、次なる標的の下へと移動する。
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