第31話 前哨戦
目の前のゴブリンに俺の放った矢が命中。
ゴブリンは矢に塗られていた麻痺毒を受け、動きが鈍る。
「『インファイト』!」
キツツキは一気に前に踏み出ると、連続でゴブリンの顔面へ向け拳を叩きこむ。
「『オーバードライブ』!」
さらにスキルを発動させ体に闘気を纏ったキツツキ。
彼女の次なる攻撃でゴブリンはあっさりと倒される。
「はあ、はあ。これで十体目だっけ」
「お疲れ、キツツキちゃん。あなたに活力を~♪」
戦いを終えたキツツキをウグイの歌が癒す。
炎集中やウサギの魔法では目立つと考えた俺たちは、キツツキを主軸に物理攻撃でゴブリンと戦っていた。
ゴブリンたちとの決戦に向け、集団から離れたゴブリンを倒し、数を減らす。
「今のところは順調っすけど、ゴブリンはまだ五十体以上いるんすよね」
「ああ。だからなるべく数を減らしておきたいんだ」
おそらくゴブリン側もすぐにこちらの動きに気づくだろう。
そうなれば群れから離れて動く個体もいなくなるはずだ。
だからその前に俺たちはできる限りゴブリンの数を減らさなければならない。
「さあ。テキパキ行くぞ」
これからはスピード勝負だ。
俺たちは索敵に引っかかった次なる反応に向け移動していく。
「あれは、上位種だよな」
さらに何体かのゴブリンを倒したところで、今まで対峙してきた個体よりも大柄なゴブリンたちを発見する。
ゴブリンの数は三体で、その内の一体は頭に木製の兜を付けており、一回り大きい。
他の二体のゴブリンも通常の個体と比べ身長が高く、手にしている武器も質が高そうだ。
「キツネさん」
「はい。いきますう。『虚飾』!」
ユニークスキルの効果でキツネさんの姿がゴブリンに変身する。
「ええっとお。兜を被ってない方のゴブリンはホブゴブリンという名前の個体みたいですう。ステータスを高めるスキルを持っていますねえ。『虚飾』!」
ホブゴブリンのステータスを確認したキツネさんは、続けてスキルを発動。
さらに一回り大きなゴブリンへと変身する。
「それでえ、こっちはゴブリンファイターという個体みたいですう。武器スキルを追加でもっているみたいですう」
キツネさんはさらに詳細なゴブリンたちのスキル構成を教えてくれる。
~~~~~
・ホブゴブリン
「嗅覚探知」「短剣の才能」「HP自動回復」「飢餓耐性」「頑強」「剛力」
・ゴブリンファイター
「嗅覚探知」「短剣の才能」「HP自動回復」「飢餓耐性」「頑強」「剛力」
「剣の才能」「盾の才能」「状態異常耐性」「統率」
頑強:SPを消費し肉体の強度を上げる
剛力:SPを消費し肉体の膂力を上げる
状態異常耐性:毒が効きづらくなる
統率:仲間に簡単な命令を出し従わせることができる 仲間のステータスを上げる
~~~~~
「スキルレベルは全部2よりは上みたいですう」
「ゴブリンファイターは『剣の才能』や『盾の才能』を持ってるんだね。武器スキルで私たちが得られている補正を考えると結構強そうだよ」
「『頑強』に『剛力』ですか。肉体の強化手段があるとなると、まともに戦えば苦戦しそうですね」
「こいつらってゴブリンの上位種なんだよねっ! そうなると単純にステータスも高いんだよねっ!」
「俺としては状態異常耐性が気になるかな。おそらく麻痺毒が効かないって事だろ」
「統率も厄介っすね。集団行動でゴブリンたちが襲ってきたのはこのスキルの影響じゃないっすか」
スキルの詳細を聞き、俺たちは各々で意見を述べる。
豊富なスキルに、強化されているであろうステータス。
今の俺たちでどこまで通用するのだろうか。
「出し惜しみは無しだ。全力でいくぞ」
俺たちは上位種のゴブリンたちを倒すべく行動を開始する。
全力でスキルを使えばおそらく集落に居るゴブリンにもこちらの動向が伝わるだろう。
しかし、相手は格上のモンスターだ。
攻撃の手を抜いて勝てる相手では無い。
俺たちは覚悟を決める。
「みんな燃えちゃえ~♪」
「炎集中!」
今の俺たちに出せる最大火力。
ウグイの『熱唱』で生み出された炎を、標的であるゴブリンたち目掛け集中させる。
「ゴブッ!?」
眼前に広がる炎を前に体を硬直させた三体のゴブリン。
「ゴブゴブッ!」
混乱からいち早く脱したゴブリンファイターは、木製の盾で身を守りながら炎の集中先から身を躱す。
火のついた木の盾を捨てると、即座に手にする剣を構える。
「「ゴブー⁉」」
一方ホブゴブリンは迫る炎から逃げ切れず、その身を飲み込まれる。
「ゴブッ!」
俺はスキルを発動させている間、集中先から視線を外すことができない。
身動きの取れない俺を狙い、走りこんでくるゴブリンファイター。
「ここは通しません。『敵対』!」
アルマは俺の正面に立つとゴブリンファイターの敵対心を煽り、自身に攻撃を引き付ける。
「よし、私たちも行くよっ!」
「はいっす!」
「は、はい」
キツツキ、ウサギ、そしてゴブリンファイターに変身しているキツネさん。
虚飾では身に着けている武器まではコピーできない。
剣の代わりにキツネさんはゴブリンからドロップした短剣を手にしている。
三人はアルマが対峙するゴブリンファイターの背後に回ると攻撃を仕掛けた。
「ゴブブッ!!」
四方から攻撃され、それでもゴブリンファイターは抵抗する。
人間に比べれば小柄なその体躯からは信じられない膂力で手にする剣を大きく振り回す。
「ちっ」
「うわわっ。危ねっす」
その鋭い剣筋に攻撃を仕掛けた三人はたまらずに引き下がった。
ゴブリンファイターは素早く剣を構えると、次の標的をキツツキに定め、飛び掛かろうとする。
「みんな離れろ! 石集中!」
俺の相手していたホブゴブリンは、10秒ほど火で焼くとようやく倒れる。
俺はすぐに視線をゴブリンファイターに向けると、スキルを発動させる。
皆が俺の声に反応しその場から飛びのくのと同時に生じる衝撃音。
『集中』により飛来した石が頭部に命中したゴブリンファイターの体が後方へと吹き飛んだ。
「よしっ。命中だ……って、嘘だろ?」
勝利の宣言を口にしようとしたその前で、信じられない事態が起こる。
ゴブリンファイターがゆっくりとではあるが起き上がってきたのだ。
ふらふらとよろつきながら、しかしその眼はしっかりと俺たちの方を向いている。
「ちっ。あの攻撃をくらって、なんでまだ息があるんだよ!」
「僕がやるっす! 『火遁の術』!」
「ゴ、ブブッ……」
ゴブリンファイターから最も近くにいたウサギがスキルで攻撃を仕掛ける。
ゴブリンファイターはもう攻撃を避ける余力がないのか火柱による攻撃を受け、今度こそうつぶせに倒れ動かなくなる。
「倒したんだよな?」
「索敵には反応が無いっすよ」
俺たちは倒れるゴブリンファイターに慎重に近づく。
俺たちが近づいてもゴブリンファイターはピクリとも反応しない。
「ふう。びっくりした」
「ゴブリンなのにこいつ頑丈すぎるっすよお」
ゴブリンファイターの死を確認し、一気に周囲の空気が弛緩する。
しかし石集中を受けて立ち上がってくる耐久力を持つゴブリンか。
これからこんなのを何体も相手にするのかよ。
俺たちはひとまずの勝利に胸をなでおろしながら、これから控える戦いを思い表情を暗くするのだった。
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