第29話 決意
「お願いしますう! レイブンちゃんを助けてください!」
真剣な顔で俺たちに頭を下げるのは、儚げな雰囲気を纏う女性だった。
スキルでゴブリンの姿に変身し、俺たちの前に現れた彼女の名は、
俺たちと同じ転生者だ。
スキルによる変身の解除と共に現れた身に着けている服はボロボロで、体のあちこちには痣があった。
表情を見ればは憔悴しきっており、状況が切迫しているのが窺われる。
「レイブンちゃんはゴブリンの集団から私を逃がすために、囮になってくれたんですう」
キツネさんから詳しく事情を聴いた俺たち。
「つまり、キツネさんの友人はゴブリンの集落に捕えられていて、その救出を俺たちに手伝ってほしいという訳だな」
「そ、その通りですう」
涙ながらに話すキツネさん。
時折感情があふれてしまい、つっかえながらの説明であるが、話しなれているのか要点は分かりやすかった。
彼女の話をまとめるとこうだ。
キツネさんは友人であるレイブンさんと共にこの異世界に転生した。
昨日まではこの世界の『村』に身を寄せていたそうだが、その村は突然襲来した魔族に襲われた。
キツネさんたちは森に逃げ込み難を逃れたが、今度は森の中でゴブリンに包囲されてしまった。
キツネさんはユニークスキルを使い自身の姿をゴブリンに変えその場から逃げ出すことに成功したが、その際に友人は囮となってその場に残ったそうだ。
友人はユニークスキルを使いゴブリンの攻撃から身を守っているが、スキルの制約でその場から動くことはできない。
その友人は現在、ゴブリンたちの住まう集落に連れていかれており、身を守るユニークスキルの効果が切れれば襲われてしまう危険な状況にあるらしい。
「友人のスキルが切れるまで猶予はどのくらいあるんだ?」
「え、えっとお、今確認しますねえ……レイブンちゃんの話だと、あと、二日ぐらいなら発動し続けられるそうですう」
キツネさんはその友人とチームを結成しているそうで、通信機能でいつでも連絡を取り合うことができる。
キツネさんの友人のスキルは『金纏』というもの。
金銭的な価値がある物品を消費することで、それに見合っただけの耐久力を持つバリアを展開することができるスキルだそうだ。
バリアは攻撃を受けるたびに損傷し、バリアを維持するには追加で金品の消費が必要だ。
ゴブリンたちは最初バリアに攻撃を加えていたようだが、バリアがびくともしないのを見て現在は攻撃を止めているそうだ。
しかしゴブリンたちはそれであきらめず、なんとバリアごと友人を持ち上げて自分たちの集落に連れて行ったそうだ。
バリアは外からの衝撃を中に伝えない効果があるが、バリアに触れることまでは阻害しないらしい。
友人は、今ゴブリンたちの集落で檻のような場所に監禁されているそうだ。
「二日か。ゆっくりはしていられないが、まだ猶予はあるな」
「どうかお願いしますう。レイブンちゃんは私の親友なんですう。力を貸してください」
キツネさんは必死に俺たちに懇願する。
「ゴブリンの集団ということはおそらくあの魔法を使うゴブリンのいる所っすよね。キツネさんの友人を助けるにはあのゴブリンと相まみえることになるっすけど、オオカミさん、どうするっすか?」
ウサギの問いかけに俺は思考する。
辺りを囲まれて、集団で襲われ、逃げることしかできなかったゴブリン軍団。
それを率いるローブ姿のゴブリンは巨大な火の玉を生成し俺たちを殺そうとしてきた。
あれからレベルが上がり、仲間が増えたとはいえゴブリン軍団とぶつかれば勝てる保証はない。
仲間の身を危険にさらすことになるし、負ければ全滅は免れない。
「当然、助ける方向で動くぞ」
だが、俺は力強くゴブリンと戦うことを宣言する。
俺は弱い人間だ。
助けを求めてきた人間を見殺しにし生きていけるほど強い人間ではないことは、俺自身が良く知っている。
ここで戦わない選択をすれば、俺はこの先後悔を引きずることになる。
だから俺は戦う道を選んだ。
「それでこそロンリだよ! 私も一緒に戦うよ!」
「正直怖いっすけど、やってやるっすよ!」
「ええ。僕もオオカミ君の意見に賛同します」
「当然ウチも戦うよっ! ゴブリンなんてボコボコにしてやろうよっ!」
そして、俺の仲間から返ってきたのは頼もしい言葉だった。
俺が顔を向けると皆が顔に決意の色を浮かべ、俺を見返してくる。
「み、みなさん、ありがとうございますう」
キツネさんは涙に声をうるませ頭を下げる。
「まだ礼を言うのは早いぞ。キツネさんには友人を通じてゴブリンたちの拠点の位置や規模、個体数など情報を伝えてもらわなければならない。頼めるか?」
「はっ。はい」
キツネさんが通信を始めたのを確認し、俺は仲間に向き直る。
「さあ、俺たちは戦いの準備だ。この森の探索をするのにゴブリンたちとはいつか決着を付けなければならなかった。それが今だ。それにキツネさんは森の出口を知っている。この戦いが終われば森から出られるんだ!」
「そうか。キツネさんは森の外から来たんすもんね。これで森の中での生活ともおさらばっす!」
「うん。余計にやる気出てきちゃった」
「はっ。ウチは最初からやる気十分だ」
「皆さん。気持ちが逸るのは分かりますがゴブリンは強敵です。全力で向かいましょう」
皆があげるのは明るい声。
正直俺の中には恐怖がある。
おそらくそれは皆も同じだろう。
「いくつか準備したいものがある。みんな手伝ってくれ」
「「「「おお!」」」」
だが、俺たちはあえて力強く声を上げる。
やると決めたからには、誰も傷つくことなく、戦いを勝利で飾ってやろう。
俺たちはゴブリン軍団との戦いに向け、準備を始めるのだった。
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