第14話 食事会
洞窟の奥でゴブリンに襲われていた女性を助けた俺たち。
女性は名をマキナさんと言い、俺たちと同じ転生者であった。
時刻はちょうど夕食時。
俺たちは食事をしながら情報交換することにした。
「よし。料理するのはこの辺でいいかな」
ようやく手に入れた拠点となる洞窟。
これで嵩張る調理器具も持ち運びを気にせず設置することができる。
まともな料理ができるのだ。
「私は乾燥した枝や枯れ葉など、燃えやすい物を集めてきますね」
「その、お体の方は大丈夫ですか?」
「ええ。平気ですよ。傷は塞がっています。それに多少体を動かした方が気分転換できますから」
「そうですか。それならお願いします」
「なら、僕もご一緒するっすよ」
マキナさんが積極的に手伝いを申し出てくれて、マキナさんとウサギで焚き火用の枝を集めてきてもらうこととなった。
マキナさん、俺たちに心配させまいと気丈にふるまっているだけかもしれないが、ひとまずは体の状態は大丈夫なのだろう。
二人が枝を集めてくる間、俺は大量の山菜の仕分けをすることにする。
適当な岩の上に山菜を広げる。
小さな袋3つに満杯まで詰め込んだ山菜だ。
合わせれば小さな山が出来上がる。
とりあえず種類ごとに分けないと味の食べ比べができないからな。
俺は鑑定を駆使して山菜を仕分けていく。
~~~~~
ロージア
食用
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~~~~~
ウォータークローバー
食用
~~~~~
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バーベイン
食用
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実は探索中に鑑定のレベルが上がり、アイテムの名称が分かるようになったのだ。
相変わらず詳細情報は食用としか表示されないが、これで山菜ごとに見分けがつくようになった。
俺は種類ごとに山菜を分けていく。
岩の上で分類された山菜は計13種類。
どれも見た目は似たようなものだ。
まだまだ未分類のものはあるが、とりあえず今回食べる分はこのぐらいでいいだろう。
さあ、調理方法はどうしようか。
山菜の食べ方と言えば、やはり天ぷらか?
俺はショップ画面を開く。
てんぷら粉は……流石に無いか。
小麦粉はあるな。これを山菜にまぶして揚げればいいか?
料理なんてやったことないから分からないな。
……とりあえず料理の準備はウサギたちが戻ってきてからにするか。
「ただいま戻りました」
「オオカミさん、ただいまっす!」
やることもないため、山菜の仕分けを続けていると二人が枝や落ち葉を抱えて戻ってくる。
「おかえり。結構集めてくれたな。じゃあ、料理を始めるか」
「はいっす! 料理なら僕が作るっすよ」
「えっ、ウサギ。料理できるのか」
ウサギの言葉に俺は動かしていた手を止める。
「趣味なんすよ。朝食と、休みの日は夕食を作ってるっすよ」
「へえ。意外だな。俺は料理はさっぱりだ。じゃあ、任せていいか?」
「はいっす!」
「あっ。それなら私もお手伝いしますね。私も料理は好きなんですよ」
「マキナさんも。ありがとうございます」
ウサギの意外な趣味に驚くと、マキナさんも料理の手伝いを申し出てくれる。
「調理器具はどうする?」
「あっ、それならチームのショップにいいのがあったっすよ!」
「チームの、ショップ?」
「はいっす。チームショップには『設備』という項目があって、そこに調理器具と調味料一式がセットになった『初心者調理セット』ってアイテムがあったっすよ」
ウサギの発言を受け、俺はチーム画面からショップを開く。
~~~~~
初心者調理セット 30P 交換制限 0 / 1
調理器具、調味料がセットになったお得なセット。
カセットコンロ × 1
調理器具一式(包丁、まな板、フライパン、片手鍋、やかん、ボウル)
食器一式(大皿×5、小皿×5、簡易テーブル、スプーン、フォーク、箸)
調味料一式(砂糖、塩、食用油、醤油)
~~~~~
これだな。
俺は目当てのアイテムセットを見つける。
「うお。なんだこれ。30ポイントで10点以上のアイテムが交換できるのか」
「はい。すごいお得っすよね」
調理器具に加えて、調味料もついている。
これなら『完全栄養食』のように、最悪の食事は回避できるだろう。
「でも30ポイントかあ……今の俺たちの手持ちじゃあ交換できないぞ」
「うう。そうなんすよね。僕は今、7ポイントです」
「俺は3ポイントだ」
「二人合わせて10ポイントっすか……絶望っすね」
「それなら……私が残る分のポイント出しましょうか?」
俺らが意気消沈しているとマキナさんから提案がある。
「私の保有ポイントは28ポイントです。それだけあれば他の足りない物を交換しても足りますよね」
「いや、マキナさん。それは悪いですよ」
「そうっす。いくら何でもマキナさんの負担が大きすぎるっすよ」
「いえ。私は命を救ってもらった身です。むしろこのぐらいしかできないのが申し訳ないぐらいです」
「いや。それは違うだろ。同じ人間だ。助け合うのは当然だ。恩に着る必要はない」
「ええ。こんなものの無い異世界で助け合うのは当然です。ですから私の好意、ぜひ受け取ってください」
マキナさんからのポイント提供の提案。
うーん。ありがたい提案ではあるのだが、流石にそのままもらうわけには行かないよな。
ポイントは俺たちを強化する糧で、生命線だ。
それを20ポイントも見返りなく受け取るというのは道理が合わない。
とはいえ、マキナさんの口調からポイントの提供を取り下げる気はなさそうだ。
「なら、一時的に借りるという形でどうでしょうか」
「そんな。返す必要なんてありませんよ」
「いえ。流石に受け取れませんよ」
「……わかりました。期限は決めませんので返すのはいつでもいいですからね」
結局俺たちはマキナさんからポイントを受け取りアイテムを交換することで話がまとまった。
「そういえば俺たち、チームじゃ無かったですよね。マキナさんが良ければ俺たちのチームに入りませんか?」
「チーム、ですか。私は所属したことが無いので仕様が分かりませんが、どのような機能があるのですか?」
「ああ。転生者同士でグループを作れる機能ですよ。同じチームに所属しているメンバー同士なら通信機能が使えます」
「なるほど。それは便利ですね。ぜひ加入させてください」
チームの勧誘申請を承諾し、マキナさんは晴れて俺たちのチームメンバーになった。
そのままポイントでアイテムを交換することにする。
『初心者調理セット』の30ポイント、『小麦粉』3ポイントで、使用するのは計33ポイントだ。
3人で割ると一人11ポイント。
俺が3ポイント、ウサギが7ポイント出したので、不足分はそのままマキナさんから借りている形となる。
「よし! これで料理ができるっす!」
「これもマキナさんのおかげだな。ありがとうございます!」
「いえ。食材はオオカミさん、この洞窟はウサギさんが見つけてくれたのですよね。私はポイントを出しただけです。感謝すべきは私の方ですよ。それよりも私、お腹が空きました。早く料理してしまいましょう」
「僕もお腹ペコペコっすよ。料理、頑張るっす!」
俺たちは手ごろな岩をテーブルに調理の準備を始める。
カセットコンロは傾きがあると危ないので簡易テーブルの上に設置する。
「じゃあ、揚げるっすよ」
ウサギは小麦粉に水を混ぜたものを山菜にまぶし、油の中に投入。
パチパチといい音を立て、山菜が揚がっていく。
「本当はつなぎに卵を使いたいっすけど、無理っすよね」
「ああ。ショップを見ても載っていなかったな」
「あっ。山菜が浮いてきましたね。揚がったみたいですよ」
山菜は一枚一枚が薄いだけあってすぐに揚がる。
箸を使い油から上げるとほんのりと油の食欲をそそられる匂いが漂ってくる。
20分もすると大皿3枚に山盛りに盛られた山菜の天ぷらが出来上がる。
「できたっす!」
「これで味が良ければ最高だな」
「そうですね。いただきましょう」
目の前に山と積まれた山菜。
俺はそのうちの一枚に鑑定をかける。
~~~~~
ロージアの天ぷら
食用
~~~~~
うん。調理後も問題なく鑑定は山菜の名前を表示してくれる。
というか、こっちの世界に天ぷらって概念があるのだろうか。
天ぷらと書かれた鑑定結果に俺は頭をひねる。
考えられるのは俺の認識が鑑定結果に反映されている可能性だ。
「オオカミさん。どうしたんですか早く食べましょうよ」
「……ああ。そうだな。じゃあ、まずはその葉先がギザギザしたやつから食べるぞ」
……まあ、考えるのは後にしよう。
俺は二人に俺と同じ山菜を指定し、食べることにする。
「おっ。おいしいっす!」
口にすると広がる山菜の独特な苦み。
サクッとまではいかないものの、衣を歯が破る食感。
「うん。うまいな」
俺は感想をもらす。
苦みも味が味のアクセントになっていておいしい。
俺は次の山菜に手を伸ばす。
「あっ! オオカミさん。何、ノータイムで次の山菜に手を伸ばしてるんすか」
「あっ、すまん。みんなで同じのを食べなきゃ味比べにならんよな」
「じゃあ、次はこれにするっすよ!」
「幅の広い、赤みがかったやつだな」
「わかりました。これですね」
その後、俺たちは順々に山菜を選び、食事を進めていく。
久しぶりの温かな食事。
そして、仲間との談笑に俺はついつい笑みを浮かべる。
「えっ、オオカミさん今のそんなに不味かったでしょうか? すごい怖い顔をされていますよ」
「違うっすよ。多分っすけど今オオカミさん、笑ってるんすよ」
「……ああ。よく顔が怖いと言われるんだ。マキナさん、すみません」
「えっ。そうなのですか。こちらこそ失礼を」
「流石に何度も見たっすから、僕は違いが分かるようになってきたっす!」
俺はウサギの頭を軽くはたく。
「って!? なんでオオカミさん、叩くんすか!」
「いや、ウサギの言い方がムカついたからな」
「それはひどいっすよ! 横暴っす」
話が弾めば、食もどんどん進んでいく。
俺たちはワイワイと楽しい食事会を続けたのだった。
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