第15話 一日の終わり
「ああ。食った、食ったっす!」
「うう。ちょっと天ぷらだということを忘れて食べすぎました。胸やけがします」
テーブルを囲む俺たち。
満足そうにお腹をさするウサギと、胸元に手を当て顔を伏せるマキナさん。
俺も腹が満たされ、皆の間にゆったりとした雰囲気が流れる。
山菜は結局採取した全種類を食べ比べた。
一部渋みが強すぎるもの、辛味が強いものもあったが、おおむねおいしく食べることができた。
特にほのかな甘みを感じるウォータークローバーと、食べた後に鼻に抜ける爽快感のある香りのするスペンシードという山菜はおいしかった。
今度採取する時は積極的に集めよう。
「山菜のテンプラといってもほとんど油の塊ですからね。大丈夫ですか」
「ふふふ。もう年ですかね。多分、少し休憩すれば収まると思います」
「そうですか。ちょっと早い気もしますが、休みましょうか」
外を見ればすでに日は木の影に姿を隠している。
森は暗くなり、先が見通せない。
索敵のスキルがあるため視覚に頼らなくてもモンスターの位置は分かるが、移動するのに足元を取られる危険がある。
ここはおとなしく休むのが正解だろう。
「モンスターが怖いから、交代で見張りは必要だな」
「僕が最初に見張りをやってもいいっすよ」
「私も索敵のスキルは持っていますから見張りはできますよ」
夜の見張りは視覚に頼ることはできないだろう。
頼りになるのは索敵のスキルだ。
俺たちは交代で見張りに就くことにする。
「順番はどうしようか。マキナさんは調子悪いみたいだし、先に休んでもらって最後にお願いしてもいいですか。ウサギも走って疲れただろう。俺が先に見張りをするよ」
「そうなると、オオカミさん、僕、マキナさんの順番っすね」
「そういえば、時間が分からないな。俺のスマホは充電が切れているんだった」
「それでしたら私の時計を使ってください。私はスマホで時間を確認できますから」
「マキナさん、ありがとうございます。今は午後6時か。じゃあ、7時から4時間交代で見張りをしよう」
俺はマキナさんから腕時計を受け取る。
縁取りが薄い赤色でかわいらしい印象の時計だ。
俺は左腕に腕時計を装着する。
見張りのシフトを決めた俺たちはそれぞれ眠るための準備を始める。
寝袋はすでに三人ともショップで交換していた。
洞窟の奥側にマキナさん、手前側に俺とウサギが寝袋を敷く。
そういえば食事の時に集めてきた枝や枯草があったな。
料理にはカセットコンロを使ったから使わなかったが、焚火をしようか。
モンスターが火を避けるのかは知らないが夜は流石に肌寒い。
明日の体調に支障が出てはかなわないし、モンスターは索敵での警戒を密にすれば大丈夫だろう。
「あら、焚火をされるのですか?」
俺が枝をくみ上げ、ライターを取り出そうとしているとマキナさんが近寄ってくる。
「はい。暖をとろうと。少し冷えてきましたからね」
「ふふ。では、着火は私にお任せください」
マキナさんが手のひらを前にかざすと、そこに火が灯る。
そっと手が突き出されると、火は枝へと簡単に燃え移る。
「おお! ありがとうございます。魔法って便利ですね。使うときはどんな感じがするんですか?」
俺は思わず感心し、質問を投げかける。
やはりファンタジーと言えば魔法だ。
マキナさんがカッコよく火をともす姿にはあこがれるものがあった。
「うーん。感覚的なことなので説明が難しいですね。私が使えるのは火の魔法と爆発の魔法なのですが、火の魔法は、こう、自分の中から出した魔力を震わせる感じ? でしょうか。爆発の魔法は魔力をぎゅーーーっと、圧縮してから解放するとバーーーンとはじけるように発動しますね」
「そ、そうですか。参考になりました」
マキナさんは魔法を発動する時の感覚を思い出しながら真剣に説明してくれるが……正直、ぎゅーや、バーンと言われてもイメージできない。
まあ、魔力が見えれば感覚も分かるのかもしれないが、マキナさんにポイントも返さないといけないし、しばらくは魔法は使えないだろう。
「では、オオカミさん。おやすみなさい」
「はい。また明日はよろしくお願いします」
「……ええ。そうですね。また明日」
マキナさんは一瞬表情を曇らせるが、すぐに下の笑顔に戻り寝袋の方へと移動していった。
疲れがあるのだろうか。
マキナさんに心配を掛けないためにも見張りは気を抜かないようにしなきゃな。
俺は焚火の前に移動すると直接地面に腰を降ろす。
ウサギの方を見れば、こちらはすでに寝袋にくるまり、寝息を立てていた。
やはり疲れていたのだろうな。
俺は夜の森に視線を向けながら索敵を発動させる。
モンスターの反応はあるがどれもその場でとどまり移動している様子はない。
夜間はモンスターも眠るのだろうか。
さて、見張りの交代までには時間がある。
スキルの訓練でもしようか。
俺は自分のステータスを表示する。
~~~~~
人族 LV5 名前 オオカミ ロンリ
職業 狩人
ステータス
HP:140/140
MP:140/140
SP:137/140
身体:104
頭脳:100
魔法:0
スキル:
「集中LV10」「弓の才能LV3」「索敵LV3」「短剣の才能LV3」「遠見LV2」「鑑定LV3」
保有ポイント:0
~~~~~
俺の戦闘手段は弓での遠距離攻撃と水を集中させる特殊攻撃だ。
やはりこれからの戦闘を見据え、攻撃手段を強化したい。
関わるスキルは『集中』『弓の才能』『遠見』の三つ。
『集中』はすでにレベルがマックスだ。
これ以上スキルレベルをあげることはできない。
『遠見』は有用なスキルだが、暗闇の中を見通すことはできない。
夜の森は暗い。
これでは遠くを見ることができず、スキルは鍛えられない。
そうなると残るは『弓の才能』のスキルなのだが……でもなあ。
弓の才能のスキルを鍛えるには矢を放つ必要がある。
矢は消耗品だ。
練習なら的に当てた物を回収すればいいのだが、この暗闇だ。
一度的を外した矢の回収は困難だろう。
矢は現状8本あるのみ。
ポイントの無い現状で矢の消費はできない。
よって弓の才能を鍛えることも難しい。
他にあるスキルは『索敵』『短剣の才能』『鑑定』だ。
『索敵』は常に発動させている。
『鑑定』は、体感にはなるが一度鑑定したものを何度も鑑定しても経験にはならない。
上げるとすれば周囲の探索が必要で、現状は見張りの任があるためできない。
そうなると『短剣の才能』か。
このスキルは交換したきり実践では一度も使っていないな。
短剣はウサギに貸し出しているし、このままだと死蔵スキルになりそうだ。
そういえば、初心者調理セットの中にナイフがあったな。
あれも言ったら短剣だよな。
あれを振っていれば短剣の才能のスキル上げをできないだろうか。
~~~~~
ナイフ
鉄製。カトラリー。
~~~~~
ナイフを手に取り鑑定してみる。
カトラリー、つまり食具のことだ。
ちなみに弓を鑑定すると、
~~~~~
木の弓
木製。弓矢カテゴリの武器。
~~~~~
このようにしっかりと武器と表示される。
試しにナイフを振ってみるが特別な補正が掛かっている感じはない。
うーん。どうやらナイフは短剣には分類されないようだ。
これでは振っていてもスキルは上がらないだろう。
スキル上げのためにウサギから短剣を借りるのもな。
しかたない。スキル上げはあきらめて見張りに専念するか。
俺は焚火に枝や枯れ葉を追加で投入すると地面に腰を降ろした。
*
それにしても長い一日だった。
俺は静寂に包まれる森を見ながら今日を振り返る。
襲い来るゴブリンの集団。
索敵を使っていたはずなのに索敵の範囲外からいつの間にか包囲されていた。
ゴブリンたちのいない方に逃げようとするが、ゴブリンたちは統率の取れた動きで俺を追い、遂には追い詰められた。
おそらくあれはゴブリンたちを率いていた“ローブ姿のゴブリン”がスキルで他のゴブリンたちの動きを制御していたのだろう。
ゴブリン達を率いていたローブ姿のゴブリン。
空に浮かび、巨大な火の玉を扱う絶対的な存在。
今の俺では勝てるビジョンすら描けない相手だ。
運よくウサギと合流し、退路を切り開けなければ確実に殺されていただろう。
あいつから逃げることができたのは単なる幸運だ。
新たに出会った仲間であるウサギとマキナさん。
ウサギは臆病で弱腰だが、生き残るために懸命に頑張ってくれた。
マキナさんはまだ出会ってまもないため、まだ距離感が掴めないがその言葉の端々からは俺やウサギを気遣う心が垣間見える。
ウサギは行動速度を上げるスキルを持っていて、マキナさんは魔法を扱うことができる。
戦力としても頼りがいのある存在だ。
そして、手に入れたこの念願の拠点。
これでいろいろな設備を置ける。やっとまともに寝食を取れるのだ。
これからはここを中心に森の中を探っていこう。
俺は洞窟の奥を振り返る。
聞こえてくるのは二人の静かな呼吸音だけ。
先ほどの食卓、そこでの笑い声が頭の中でリフレインする。
皆で生き残るためにも、まずは拠点周囲の安全を確保しなければならないな。
つらつらとそんなことを考えているうちに夜は更けていく。
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皆様、こんばんは。
作者の滝杉こげおと申します。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
楽しんでいただけているでしょうか?
皆様にお報せが二つあります。
今まで毎日更新でお届けしていた本作ですが、これからは火曜、木曜、土曜の週三回更新となる予定です。
最後まで書き続けられるよう頑張りますので、ご理解よろしくお願いします。
これにて第一章は完結です。
これからはオオカミ君たちの活動範囲が広がり、いろいろな敵と戦っていく予定です。
本日はこのまま続けて人物紹介も更新しておりますので、ぜひ確認ください。
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