第11話 成長

 ウサギは穴の底で倒れるウルフの首筋に短剣を突き立てる。

 ウルフの体からは血が飛び散り、一瞬全身がビクンと跳ねるがすぐに動かなくなる。


「オオカミさん、やりましたよ! レベルアップっす!」


「ああ。おめでとう」


 三体のウルフにとどめを刺し、どうやらウサギのレベルが上がったようだ。

 ウルフには爪など武器に加工できそうな部位があるが、死体はそのままにしておくことにした。

 拠点が無い現状では荷物の量はなるべく少なくしたい。


 ウルフとの戦いは予想外……もとい、予想通りの展開で勝利したが、結果良ければ全てよしだ。

 いい機会だし、俺とウサギのステータスを確認しておくか。


~~~~~


人族 LV5 名前 オオカミ ロンリ

職業 狩人

ステータス

HP:118/140

MP:140/140

SP:45/140


身体:104

頭脳:100

魔法:0


スキル:

「集中LV10」「弓の才能LV3」「索敵LV3」「短剣の才能LV1」「遠見LV2」「鑑定LV2」

保有ポイント:3


~~~~~


~~~~~


人族 LV2 名前 ウサギ ユウト

職業 忍者

ステータス

HP:110/110

MP:110/110

SP:96/110


身体:101

頭脳:100

魔法:0


スキル:

「脱兎LV10」「索敵LV1」「気配遮断LV1」「短剣の才能LV1」


保有ポイント:2


~~~~~


 ちなみに他人のステータスは見れないためウサギのステータスは自己申告値だ。

 初お披露目となるウサギの方は後にとっておいて、まずは俺の方から確認しよう。


 ゴブリンとの戦闘でレベルは5になった。

 入手したポイントで「鑑定」を取得。

 あれから使い続けていたためすでにスキルレベルは2になっている。


 あいかわらず魔法の数値は0のまま。

 まあ、いきなり100とかになっても理由が分からずビビるだけだからこれで良し。

 ただし早いところ上げる手段は見つけておきたいところだ。

 それ以外のステータスは順調にのびている。


 そろそろスキルの方もレベル4になる物が出てくるかと思ったがまだのようだ。

 数の方は職業関連のスキルが充実してきたが、質はまだまだだ。

 索敵なんかはだいぶ使っているからそろそろ上がってもおかしくないと思うのだが。

 レベル4からはレベルアップに必要な熟練度が一気に高くなるのだろうか。


 


 続いてウサギのステータスを確認しよう。

 

 ウサギの職業は忍者。

 職業スキルを聞いたところ、取得可能な武器スキルは『短剣の才能』と『暗器の才能』。

 暗器は手のひらで隠せるサイズの小型の武器の総称だとスキル説明にあるようだ。


 他に『索敵』などの感知系スキル、『気配遮断』『偽装』などの隠密系スキルがあり、魔法カテゴリに当たるスキルには忍者特有のものと思われる『火遁の術』『水遁の術』といった忍術スキルが表示されているそうだ。


 スキルを見る限り正面から戦うよりも気配を消し背後から奇襲したり、忍術で遠距離から攻撃するアタッカータイプの職業のようだ。


「そういえば所持ポイントがやけに少ないがどうしてだ」


 俺はウサギから聞いた情報に疑問を挟む。


「ああ……それなら20ポイントする『鉄の短剣』を交換したからっすよ。初戦でゴブリンと戦って逃げる際におとしちゃったっすから今は持っていないっすけどね。お恥ずかしい限りっす」


「なっ!? 20ポイントの武器を落とすなよ。もったいねえ」


「うう。申し訳ないっす」


 萎縮するウサギに俺は苦笑い。

 20ポイントもあればスキルの一つも取得できるのだが。

 まあ、落としてしまった物はしかないか。


 俺の攻撃手段は弓と集中だ。

 ゴブリンからドロップした短剣は現状使っていないから、このままウサギには短剣を使ってもらおう。


「それにしてもレベルアップはすごいっすね。体が軽いっすよ」


 ウルフとの戦闘でウサギのレベルが上がり2になっている。

 ステータスは数値も上昇幅も俺と同じようだ。


 それにしても身体の数値が俺とウサギでほとんど同じ数値か。

 俺は首を傾げる。


 自慢じゃないが俺は運動が得意だ。

 父親は武闘家で、実家は父の道場だ。

 幼少の頃より父やその門下生に鍛えられてきたせいで俺は体の動かし方には自信がある。


 一方ウサギは学校で文化部に所属していた。

 身軽なため運動も苦手というわけでは無いだろうが、それでも俺と同じ身体スペックがあるとは思えない。


 やはりステータスの数値はLV1の時の自身のスペックを基準とした数値なのだろうか。

 そうなるとステータスの数値も自分のものはともかく人のものはあまり参考にならないな。

 一人納得する俺を見て、ウサギは不思議そうに首を傾げる。




「さあ、情報の共有もしたし、まずは今後の方針を決めようか。これから俺たちがこの異世界でどう動き、何を目指すのか」


「目標決めっすね。やっぱり作戦はいのちだいじに、っすよ」


「ああ。身の安全は大事だな。この世界で生き残る。それが俺たちの最重要課題だ」


 この世界には俺たちの命を狙うモンスターが、ごまんといる

 それでなくても病気や怪我をする可能性もあるし、最低限の衣食住の準備だけでも大変だ。

 生き残るだけでも非常に困難なことだ。




「あとは、前にオオカミさんが言ってましたけど他の転生者とも合流したいっすよね」


「ああ。そうだな。俺たちが言えた義理じゃないが他の転生者、特にクラスメイトがこの世界で生き残っていられるのか。それも心配だ」


 俺のクラスメイト達がこの世界に転移させられているのは間違いないだろう。

 いままで平和な日本で暮らしてきた者がこの世界で外敵から身を守れるのだろうか。

 正直、難しいと俺は思う。


 俺たちに余裕があるわけではないが合流できるならクラスメイトと早く合流したいというのが本心だ。

 集団で集まれば力になる。

 この困難な世界だってきっと生き抜いていけるはずだ。




「やっぱり元の世界には帰りたいっす」


「ああ。それが俺たちの最終目標だな」


「うう。でもそれには魔王を倒さなきゃなんないっすよね。怖いっすよ」


 招き猫は俺たちが魔王を倒せば元の世界に戻れると言っていた。

 これだけの大人数が消えたのだ。

 元の世界では大問題になっているだろう。


 俺の頭に父や、仲良くしていただいていた皆の顔が浮かぶ。

 きっと俺のことを心配してくれているだろう。

 なんとしても元の世界に帰らなければ。




「まずはこの世界で生き残る。そのうえで他の転生者たちと合流を目指す。そして最終的には魔王と呼ばれる存在を倒し、元の世界へ帰る。それが俺たちの目標だ」


「うーん。ゴブリンですら現状苦戦しているっすのに、なかなか厳しい目標っすね」


「ああ。今魔王に出会ったら一瞬でやられてしまうだろうな。だからこそ俺たちは強くならなければならない」


 生き残るために、仲間を守るために、元の世界に帰るために。

 自分の身を守れるのはやはり自分自身だけだ。

 

「そのためにもまずは安定してモンスターと戦える体制を整えなきゃな」


「そうっすね。野ざらしの環境じゃ、おちおち寝ていられないっすよ。早くちゃんとした寝床が欲しいっす」


「ああ。荷物も今は全部もって移動しているが、それらの保管場所や各種設備も無いからな。調理器具なんかはポイントで交換できるが、常に持ち歩くわけにもいかないからな」


「そうなればおいしい料理も作れるっすね」


「あとは俺たちのいるこの森の情報が欲しいな」


「食料の分布の調査っすね!」


「……それもそうなんだが、周辺のモンスターの情報や、できれば森がどこまで広がっているか手がかりが欲しいな。いつまでも森の中で生活するのは限界がある」


「やわらかいベッドに、暖かい食事。元の世界が恋しいっす」


「こうやって話していると、当たり前だが足りない物だらけだな」


 俺たちはまだこの世界に来たばかりだ。

 この世界のことは何も知らないし、何も持ってはいない。

 情報も、衣食住も、安全ですら足りていないのだ。


「まずは拠点の確保からだな」


「そうっすね。洞窟みたいなところがあるといいっす」


「ああ。テントはあるが近くで戦闘になればまず壊れてしまう。拠点とするなら頑丈な壁に囲まれた空間がいいな」


「それなら僕がひとっ走り行って探してくるっすよ」


「おい。その……大丈夫か?」


 俺はウサギの言葉に疑問を挟む。

 こいつに自信満々で何かを言われると嫌な予感がするんだよな。


「なんすかその信用ならない者を見る目! 僕だって今まで自力で生き残ってきたんすから大丈夫っすよ」


「いや、ゴブリンに殺されかけてたじゃねえか」


「うっ! あれは特別っすよ。『気配遮断』と『索敵』も持ってますし、オオカミさんから貸していただいた武器もあるっす。モンスターの接近が分かっていれば僕の『脱兎』で振り切れるっすよ」


 ウサギはその場で足を動かして見せる。

 まあ、逃走するだけならウサギのスキルがあれば何とかなるか。


「分かった。拠点探しは任せるが、無茶はするなよ」


「言われなくっても当たり前っす! それでオオカミさんはその間、何をするんすか」


「俺は鑑定で食べられる物を探しておくかな」


「それはぜひお願いしたいっす! ご飯があるだけで元気100倍っすよ」


「おい。あんまりハードルを上げるなよ。鑑定で見れるのは食べられるかどうかだけだからな。味は保証できん」


「それでも『完全栄養食』よりはマシっすよ。それじゃあ、行ってくるっす」


「おう……って、おい。ちょっと待て!」


 いきなり駆けて行こうとするウサギを慌てて引き止める。


「なんすか、いきなり止めて」


「まじかお前!? 危ねえ。ちょっとは物事を考えろ。まずは集合場所は決めなきゃいかんだろ」


「ああ。確かにそうっすね! でも、どうしましょう。この辺りは同じ高さの木ばかりで離れたら戻ってこれる自信ないっすよ」


「そうだよな。のろしでも上げればいいのかもしれないが、それだとモンスターの恰好の的になるしな」


「何か互いに連絡を取れるようなアイテムは無いんすかね。あっ! なんすか、これ!」


「うん? どうかしたのか?」


「はい。アイテムを探そうと思ってメニュー画面を開いたら、新しく項目が増えてるんす」


「それ、本当か!?」


 ウサギに言われ俺はメニュー画面を開く。




~~~~~


メニュー


 ステータス

 スキル

 ショップ

 チーム

 メール

 ???


~~~~~


 おっ。なんか『チーム』って項目が増えている。

 俺は『チーム』を選択する。


~~~~~


現在、チームメンバーがいません。


 メンバー一覧

 メンバー申請

 通信

 ポイント管理


~~~~~


 なんで急に項目が増えた?

 チームというからには他の転生者とチーム?に成れるのだろうか。

 そうなると追加条件は他の転生者と行動を共にすることか?


 俺はいきなり現れたシステムの新要素に困惑するのだった。

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