第10話 オオカミ VS ウルフ
「おっ、さっそくモンスターの反応だ。まずは様子を見るぞ」
休憩を終え、森の探索を開始した俺たち。
探索を初めてすぐ、タイミングよく俺の索敵が敵の影を捉えた。
反応は三つ。
今まで出会ったことが無いモンスターだ。
「えっ。僕の索敵の方には何も映ってないっすよ」
「スキルレベルが違うからな。俺もレベル1の時は索敵の範囲は狭かった」
「なるほど。確かスキルの成長は熟練度性でしたよね。じゃあ、どんどん使っていかなきゃっすね」
「ああ。夜は交代で周囲の警戒をするんだからな。頼むぞ」
スキルレベルが上がるとスキルの効果は上がる。
俺はこの世界に来てから索敵を繰り返し使っており、レベルは3だ。
レベル1の時は周囲100メートル程が限界だったが今では300メートル程まで索敵できる範囲が伸びている。
また、対象の強さもある程度感じ取れるようになっていた。
反応を感知したのはゴブリンと同格か多少強い程度のモンスターだ。
それが三匹群れている。
負けるとは思わないが失敗すれば怪我をするかもしれない相手だ。
気を引き締めていかないと。
モンスター達の進行方向を探るとこちら方面に向かっているようだった。
風向きを確認すれば俺たち側が風下だ。
絶好の位置取り。俺たちはその場にとどまりモンスターを待ち受けることにする。
モンスターが遠見で視認可能な範囲に入る。
木々が視界を遮るが姿を確認することができた。
モンスターは黒い毛をした大型犬のような姿のモンスターだった。
~~~~~
名前:ニュームーンウルフ
狼型のモンスター
~~~~~
遠見と鑑定は併用可能だ。
俺は鑑定の結果を確認する。
「どうやら敵はウルフのようだ」
「えっ。それじゃあオオカミさん。共食いになるんじゃ」
「なんで俺がモンスター扱いなんだよ! あと、食う前提で話を進めるな」
「ひええ。そんな怒らないでくださいよ」
「うん。今のは普通に怒ったわ。だけど、いちいち怖がるな」
ウサギと軽いやり取りを交わしながらも俺はモンスターの動きを観察する。
ウルフ達は互いに一定の距離を保ちながら森の中を移動している。
時折鼻を引くつかせて周りの様子を伺っているようだ。
こちらに気づいている様子はない。
「オオカミさん。どうするっすか?」
「俺が奴らの動きを止める。ウサギにはとどめを任せる」
「了解っす! ウルフなら芋虫みたいに刃が通らないってことは無いっすよね。頑張るっすよ」
ウサギは短剣を構え決意を述べる。
ウルフとこちらの距離は300メートル程。
ゴブリン基準で考えればすぐに詰められるような距離ではない。
しかしウルフは明らかに素早い見た目のモンスターだ。
元の世界の犬を基準に考えても、こちらの位置を気取られればすぐに距離を詰め寄られると考えた方がいい。
理想は俺が二体を倒し、さらに残りの一体を弱体化させたところでウサギにとどめを譲ることだ。
この場所は川から多少距離がある。攻撃に水は使えない。
だが、もちろん勝算はある。
俺には二つの武器があるのだ。
まず一つ目は弓での攻撃。
これは『遠見』のスキルを入手したことで強化されている。
スキルの検証の結果、『遠見』は『集中』の効果を強化することが分かった。
集中は、対象とした物体の『運動の向きを集中先へと変え』、『引き付ける』スキルだ。
そして遠見はこの『引き付ける』力を強化できる。
静止物体に集中を発動した場合、物体は5秒かけて集中先へと移動する。
そしてこの5秒という時間は集中先への距離が変化しても変わらない。
つまり集中先が遠いほど、引き付ける力は増すわけだ。
集中先に指定できるのは視認できる範囲のみ。
だが、遠見を使えば集中先をより遠くに設定できる。
この『遠見』と『集中』のコンボを矢に乗せるのが俺の武器だ。
もちろん、放った矢の運動は空気抵抗により減衰するから、結果的には近距離から弓を射たのと同じぐらいの出力になる。
しかし、遠距離から威力の減衰なしに攻撃できると考えればこれは十分な効果と言えるだろう。
狩人のスキルには『遠射』というものがある。
これは矢を遠くに飛ばすためのスキルだ。
これを取得すればさらに威力の向上が望めるかもしれない。
今はポイントが無いため検証はまたの機会だ。
俺はポイントで交換した手袋を嵌めると腰に下げた矢筒から矢を取り出す。
その矢の先は緑色に変色していた。
この『緑色』こそ俺の二つ目の武器だ。
俺が手に入れた『鑑定』のスキル。
それにより野草の判別が可能なった。
その中にはこういったものもある。
~~~~~
雑草
有毒
~~~~~
有毒と書かれている野草。
使わない手は無いだろう。
狩人のスキルには『毒矢』という物があるが、あいにく俺はまだ取得できていない。
これはすりつぶした毒草を矢先に塗りつけたもの。
効果の程は使ってみるまで分からないが、下手な弓矢も数うちゃ(毒に)当たるの精神だ。
矢を構える。
射線上には木々があるためすぐには狙えない。
しばらく待つとウルフたちは開けた場所に出た。
今だ!
遠見の射程ギリギリから矢を放つ。
矢は狙った通り一体のウルフの体にヒットする。
射られたウルフは「キャウン」と犬のような鳴き声を上げるが倒れる様子はない。
くそ。ダメージはあるようだが流石に一射じゃ倒せないか。
ウルフたちは鼻を引くつかせ三体で寄り集まる。
周囲を警戒している様子だ。
俺は続けて矢を放つ。
狙うは最初に矢を当てたウルフ。
二射目も命中。ウルフのふらつきが大きくなる。
三射目で矢がウルフの目を捉える。一体目のウルフはその場に崩れ落ちる。
一体目は倒した。
続けて二体目を狙おうとしたところで残るウルフたちはこちらに向けて走り出す。
さすがに気づかれたか。
距離はまだ離れている。
俺は矢を次々に射ていく。
まずは向かってくる二体にそれぞれ一射ずつ。
ウルフは矢を避けるような動きをするが二射ともウルフの体を捉える。
矢を射かけられれば野生の動物なら逃げ出すだろうが、ウルフたちは構わずにこちらに向かってくる。
もう一射したところで矢が尽きる。
放った矢は運悪く途中の木に当たりウルフに届かない。
俺は慌ててショップで矢を交換し補充する。
ウルフとの距離が迫る。
俺は狙いもほどほどにウルフに向け矢を射る。
その矢は運よく一体のウルフの足の付け根に命中。
バランスを崩したウルフは走る勢いのまま木に頭から激突。
これで残るは一体。
しかしもう距離が無い。
矢を射る。
しかしウルフはその場で大きく跳躍。
矢は地面に突き刺さる。
跳躍したウルフの体が目前に迫る。
俺の顔目掛け振り下ろされるウルフの爪。
俺はそれを倒れこむようにして避ける。
頭上を通り過ぎる風圧。
ウルフが俺を飛び越していく。
背中に感じる死の予感に俺は反射的に後ろを振り向いた。
しかし、そこにウルフの姿は無い。
そんな! 一瞬で消えるとかありえないだろ!
俺は慌ててウルフの反応を探る。
上にはいない。
横も、後ろにも。
下だ!
俺は矢を構える。
緊張の一瞬。
そして見つける。
穴に落ちてのびたウルフの姿を!
……へ?
どうやらウルフは、ウサギが茸を探すために掘った穴に落ちたようだ。
頭を打ったようで今は気絶している。
……よし! 計画通り。
こうして俺たちは三つ目の武器であるウサギの掘った穴に落とし、無事ウルフたちに勝利したのだった。
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