第6話 ゴブリン襲来
周囲を警戒しながら森を進む。
川沿いを歩いていると索敵にゴブリンとは違うモンスターの反応が引っかかる。
あれは、芋虫か?
発見したのは体長が2メートル程もある巨大な芋虫に似た姿のモンスターだった。
のそのそと、上下に体をうねらせて森の中を這うように移動している。
見るからに機動力は低そうだ。
しかし表面は硬質な皮膚に覆われているようで物理攻撃は効果が薄いだろう。
しばらく後をつけ様子を伺うが、芋虫はスピードを変えることなくゆっくりと森を行く。
スピードの遅い個体。これは奇襲のチャンスだ。
「水集中!」
俺は集中を発動させ水を集める。
川から芋虫までは多少距離があったが、芋虫は水が迫ってきてもスピードを変えない。
そのまま芋虫の顔を水が覆う。
苦しそうに身をゆするがもう遅い。
ゴブリンよりは索敵の反応がなくなるまでに時間が掛かるが、それでも2分後には動かなくなる。
よし! 勝利!
やけにあっさり倒せたな。
ステータス画面で取得ポイントを確認すると2増えていた。
もらえるポイントが多いということはゴブリンよりも強いモンスター、ということなのだろうか。
近寄って触ってみると見た目通りその表皮は岩のように硬かった。
これでは弓は刺さらないだろう。
窒息という手段をとらなければ倒すのは難しそうだ。
俺は強敵を倒せたことで意気揚々と森を進む。
*
この森のモンスターはゴブリンが多いらしい。
出会う反応の半数以上が今のところゴブリンのものだった。
もちろんゴブリン以外の反応もあるのだが、そのほとんどは複数体で行動しており今のところはスルーしている。
ゴブリンも基本は集団で行動しているようだが、時折単独行動をするゴブリンを見かける。
そういったゴブリンを見かけたらチャンスだ。
俺は着実に弓矢で機動力を削ぎ、水で窒息させ倒していく。
おっ、レベルアップだ。
芋虫の後、ゴブリンを三体、芋虫をもう一体倒したところでレベルが3に上がった。
また索敵しながら進んでいたことで索敵のスキルレベルも3に上がる。
うん。順調だ。
最初にゴブリンに苦戦して以来、大きな失敗も無くここまで来れている。
とはいえ気を抜くわけにはいかない。
直近の目標である雨風がしのげるような場所は見つかっていないのだ。
まだ太陽は空にあるが、そろそろ西へと傾き始めている。
暗くなる前に何とかしなくては。
ステータスを確認するとスキルポイントは33になっていた。
えっ、計算が合わないって?
理由は倒したゴブリンの内の一体がゴブリンの上位種だったらしく、一体で3ポイントを入手できたからだ。
多くのポイントを入手できる分、そのゴブリンのステータスは通常の固体よりも強化されていた。
水で窒息を狙ったがなかなか死なず、遂には俺のSPが先に切れてしまったのだ。
とはいえ相当弱らせることには成功したため、弓を射て何とかしとめることができた。
それでも倒すまでに矢を五本も消費したため新しくポイントで交換している。
そういえばその際に、ゴブリンからは鉄製の短剣を入手することができたのだった。
どうやらゴブリンも強い個体ほど強い武器を所持しているらしい。
刃こぼれが目立ち、手入れはされていなかったが俺の武器が全て木製であることを考えると十分に使える武器だ。
ありがたく拝借させていただいた。
現在の所持ポイントは33。
そろそろスキルの交換を考えてもいいだろう。
俺はスキル交換画面を開くと、気になっている二つのスキルを表示する。
~~~~~
『鑑定』 30ポイント
指定した対象に関する情報を得ることができる。
LV1は対象の名称と簡単な解説が得られる
『短剣の才能』 20ポイント
短剣を扱う技術が向上する。
~~~~~
一つは『鑑定』。
異世界転生ものでは言わずと知れた有用スキルだ。
これがあれば食料となる山菜などを探せるかもしれないし、敵の強さを見極めることができる可能性もある。
もう一つは『短剣の才能』。
先ほどゴブリンから手にした短剣を上手く扱えるようになるスキル。
初戦で露見した俺の近接戦の弱さを補ってくれる可能性のあるスキルだ。
当初は『鑑定』の取得を考えていたが、俺が取得を迷っているのは日が暮れ始めてきたからだ。
あたりが暗くなれば見通せる距離は減り、俺の生命線である弓矢や集中が機能しなくなる。
仮に夜にモンスターに襲われれば現状の俺ではほとんど反撃の手段がないのだ。
夜は暗闇という環境に近接での戦闘を強要される。
そんなタイミングで手に入った短剣。
これは、使わない手は無いだろう。
正直『鑑定』は捨てがたいのだが、夜までもう時間が無い。
鑑定を取得してしまえば、今日の内に他のスキルを交換することは不可能になるだろう。
この世界で一番優先させなければならないのは間違いなく、俺の命だ。
俺は迷った末に、今回は『短剣の才能』を交換することにした。
~~~~~
人族 LV3 名前 オオカミ ロンリ
職業 狩人
ステータス
HP:120/120
MP:120/120
SP:108/120
身体:102
頭脳:100
魔法:0
スキル:
「集中LV10」「弓の才能LV2」「索敵LV3」「短剣の才能LV1」
保有ポイント:8
~~~~~
というわけで『短剣の才能』を無事取得!
さらに、ショップで見つけた『携帯テント』も5ポイントで交換した。
これで残るポイントは8。
ポイントって貯めてる時は使いたく無いけど、一度使い始めると抵抗なく使ってしまう。
これがニュートン大先生の発見した
……うん。今日はいろいろあったせいでテンションがおかしくなってるな。
日はすでに木の陰に隠れるほどに沈んできている。
日没までに拠点となる場所を発見できる可能性は低い。
テントを交換したのは正解だった、そういうことにしよう。
今日はもうここでテントを張り、寝る準備をするか。
異世界で迎える初めての夜。
不慣れながら何とかテントを張り終えた俺は近くの岩に腰かける。
昼から何も食べていないが不思議とお腹は空いていない。
流石、完全栄養食の名は伊達ではないということだ。
まあ、もう一度食べたいかと聞かれれば答えはノーだけどな。
一日中動き回ったせいで体が重たい。
動いている最中はアドレナリンが出ていたのだろうが、落ち着いた今ならすぐにでも眠れてしまうだろう。
だが、寝る前にもう少しだけ頑張らねば。
まずは交換したスキル、『短剣の才能』の確認だ。
俺はゴブリンから入手した袋から短剣を取り出すと構える。
弓の時と同じように手に短剣がしっくりとなじむのが分かる。
何度か振ってみる。
ビュンビュンと風切り音をたて、短剣が空間を踊るが正直これだけでは戦えるのかどうかは分からない。
俺はテントから離れた手ごろな木に近づくと短剣をふるう。
木の表面を切り裂くようにふるうと、木にすっと筋が入る。
手入れされていないこの短剣の切れ味は悪いはずだが切り裂くにはあまり抵抗を感じない。
今度は木に向け短剣を突き出す。
刃先が木へと食い込むがあまり深い傷にはならない。
俺はそれから何度か恰好を変えながら木を切りつけていった。
やはり短剣の才能の効果は出ているようで切ろうと思ったところへ自然と手が動いていく。
5分程そうしていただろうか。
なんと短剣の才能がLV2になった。
まだ取得したばかりなのにもう弓の才能のレベルに追いついた形だ。
まあ、弓は矢を消費する関係で連射できないから当然かもしれない。
だが、そう考えるとふるった数で言えば短剣の方が弓よりも圧倒的に多いはずだ。
もっと早く短剣の才能のレベルが上がっていてもおかしくないように思う。
もしかすると実践の方が経験値の入りがいいのかもしれないな。
弓の才能のレベルが上がったのもゴブリンと戦った時だし。
とはいえ実践で短剣の訓練をするつもりは毛頭ない。
接近戦とか、よほど自信をつけてからでないとごめんこうむりたいところだ。
短剣はあくまで保険。俺の主の武器は弓矢と集中だ。
とはいえ、戦わなくてもスキルレベルを鍛えられるというのはいい情報だ。
俺はそれからさらに30分程短剣をふるい、短剣の才能のスキルレベルを3まで上げた。
やはりスキルレベルが高くなるほど、レベルアップに必要な経験値は上がるようだ。
近接戦になっても短剣の才能のレベルがこれだけあれば集中と組み合わせて敵の急所も狙うことができそうだ。
ああ、つかれた。腕がパンパンだ。
俺が短剣をふるい続けた木はもう少しで切断してしまうところまで切り込みが入っている。
……さすがにちょっとやりすぎたか?
これを自分がやったのかと思うと少し自分にあきれてしまう。
10メートル以上はある大木の幹に短剣で穴を開けるとか我ながらどんだけだよ。
木は少し力をかければ倒れてしまいそうだ。
うん。テントから離れたところで練習していてよかった。
寝床に自分で傷つけた木が倒れてきて死亡とかカッコ悪すぎるからな。
俺は訓練を切り上げ暗い夜の森の中、テントに向かう。
夜の森で灯りをつけるわけにもいかない。
ショップにはライターや携帯ランプもあるが、使えばモンスターに見つかるリスクが上がる。
動物なら火を怖がるだろうが、モンスターがそうである保証はない。
モンスターが人間を積極的に襲うという習性を考えれば、むしろ寄ってきそうなものだ。
俺はテントに入り、索敵を発動させる。
あたりにモンスターの反応はないようだ。
……うん。寝るか。
正直不安はあるが、眠らなければパフォーマンスが低下する。
熟睡はできないだろうが、少しでも今は睡眠をとるべきだ。
俺はテントの中に寝転がると目を閉じた。
*
「……!」
はっと目を覚ましてテントの外を見るとすでに太陽は昇っていた。
すっかり眠り込んでしまった。
慌てて索敵を発動……ふう。とりあえず直近の危険はなさそうだ。
うん。しっかり熟睡してしまった。
相当疲れていたのは知っていたが、俺の神経も案外図太いみたいだ。
まあその分休めたし結果オーライということにしておこう。
……せめて警戒しやすいよう何とか今日中に拠点は見つけなきゃな。
川まで出ると、そのまま川下へと移動する。
昨日と合わせて結構な距離を歩いているはずだが、一向に森の切れ目は見えてこない。
相当な広さがあるようだ。
今日もモンスター狩りに精を出す。
「水集中!」
索敵で芋虫の反応を発見。水での奇襲でサクッと倒す。
うん。順調だ。
その後も出会ったモンスターを次々に倒していく。
ステータスを確認すると弓の才能のスキルレベルが3に上がっていた。
時折弓を補充しつつ、さらに歩行距離を伸ばす。
……何かがおかしい。
太陽も昇りきり流石にそろそろお腹が空いてきた頃、俺はある異変に気付く。
索敵で返ってくる反応に異常を見つけたのだ。
俺は今までモンスターの集団と会わないように移動していた。
だが、索敵の反応を見ると現在俺のどの方面にもモンスターの集団の反応があるのだ。
まるでモンスターが俺を囲んでいるようだ。
「……」
嫌な予感に俺は速足で歩き出す。
周りのモンスターの反応のほとんどはゴブリンだ。
「っ!?」
俺が移動するのに合わせてゴブリン達の反応も移動する。
移動方向を変え後戻りしても結果は同じ。
やばい。囲まれている。
まだ視認できる距離にゴブリンはいないが、どうやってかゴブリンたちは俺の動きを察知しているようだ。
考えられるのはゴブリンの中に探知系スキル持ちがいて、他のゴブリンに指示を出しているという可能性。
だがなぜ俺を狙う? 狩りやすいモンスターなら他にもいるだろう。
まさか、仇討ちじゃないよな。
俺はすでに少なくない数のゴブリンを倒している。
そんな俺を敵と認識したゴブリンたちが俺を殺しに来ているとしたら。
嫌な汗が背中を伝う。
思考を巡らせる間にもゴブリンたちの包囲網は徐々に俺を中心に狭まってきている。
数は索敵で確認できるだけで三十体以上。
おそらく索敵範囲の外にはそれ以上の数がいるはずだ。
なんだよこれ。
ゴブリンの軍隊があるとか聞いてないぞ。
こんなん、どうしろっていうんだよ!
どうする? 考えるまでもなく、こんなもの逃げの一択だ。
この数を相手にまともに戦って勝ち目があるはずがない。
ただし、無事逃げられるかどうかはまた別の問題だ。
索敵で包囲が薄いところを探る。
しかしどう探しても、どの方向に行っても包囲を抜けるためには同時に五体以上のゴブリンと戦うことになってしまう。
ゴブリンたちとの距離はまだ300メートル程は離れているだろうか。
こうなったら近づかれる前に殺るしかない。
包囲の一部を破り、逃げ切るのだ!
俺は生き残るための闘争を始めた。
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