第134話 最低の話
※ この作品史上間違いなく一番正直で最低な話
×××
「男は皆、処女が好きだ」
とんでもない発言をした樋口に対し、反射的に直史は頷いていた。
「と言うか、好きな女の子が自分以外にも体を開いていたとか想像するだけで気分が悪くなる」
処女厨直史の台詞である。
「あ、俺も処女じゃないとか言われたらショックは受けると思う」
似たような感想を洩らす武史である。
佐藤家の男は処女が好き。これはテストに出るかもしれないし、出ないかもしれない。
こいつらいったいなんの話をしたいんだ、という視線をしているのは、なぜか武史の部屋に集められた星や西、そして女にモテるのに慣れた、近藤、土方、沖田あたりである。
山口は話がつまらなさそうなので来ていないが、あいつもモテることはモテる。
特待生なので広い部屋ではあるのだが、それでもゴツイ男どもが集まると狭い。
「お前ら、彼女がいるか、彼女がいたやつ手を上げろ」
樋口の言葉に、普通に手を上げる全員。武史も手を上げているが、今はお前の彼女について話をしているのだ。
「じゃあまだ童貞のやつ手を上げろ」
反応のないのが大半であったが、おずおずと手を上げた武史に続いて、星も手を上げた。素直でよろしい。
「西はもう瞳ちゃんとやってたのか」
「いや、俺普通に高校時代も彼女いたし」
同じ学校だったはずの星が、パチパチと目を瞬かせる。
「野球にかまけてて、他の男に走ったけどな……。まあ俺の話はいいじゃないか」
確かに今回の話には関係ない。ただNTRを実際に経験して、変な性癖を発揮してはいないらしい。
「それで、だ。お前らに一つ訊きたい」
樋口が真剣な顔をしているが、本当にどうでもいい話だから聞き流していいぞ~。
「処女とギャル、どっちが好きだ?」
その分け方は違うだろう。
「処女でギャルが最強じゃないか?」
土方の発想は確かに天才の一種だ。
「じゃあもっと単純に、好きな子が処女か開通済み、どっちがいい?」
樋口、お前は本当に下衆い言い方が上手いな。
そんな樋口に対して、哀れみの目を向ける者、真剣に考える者、呆れた顔をする者、それぞれである。
男というのは色々な方向にバカな生き物なのである。
「結局は好きになったら関係ないから、好きなほうに分類しろ」
「OK、近藤は非処女でもいける、と」
「俺もどっちでもいいかなあ」
「お、沖田もか。土方は処女派じゃないか?」
「う~ん……結婚するなら処女かなあ」
想定がきつい。
もじもじしている星に対して、ほとんどの男どもが上から目線であり、武史と謎の団結を果たしそうだが、そこをぶった切る樋口。
「童貞二人、お前らキスぐらいはしたか?」
体育会系の童貞いじり、直史は嫌いである。
「俺はした」
マウントを取る武史。お前はサル山のサルか。
「……まだ」
星は正直であるが、まあいいだろう。
「俺も今の彼女とはまだって言うか……本当に付き合ってるのか怪しい」
なんだか西の方も怪しい状況のようである。
西と付き合っている鷹野瞳は、身長が176cmもある高身長女子である。
ただ西は現在182cmあるので、釣りあわないということもない。
身長差のあるカップルというなら、意外と直史と瑞希がそうである。
179cmの直史と、女子の平均である瑞希は、丁度頭一つ分ほどの身長差がある。
「そういや樋口の彼女はどんな人なんだ?」
近藤がまた脱線する話題を出してくるが、確かにそれは直史も知らないことだ。
14歳だった樋口を押し倒した、淫行教育実習生だということは聞いているが。
「身長は163cmあったはずだけどな」
「写真とかはないのかよ」
「誰かの目に触れるところには置いてない」
今なら別に大手を振って付き合えるだろうに、樋口は秘密主義者である。
さて、強烈に話は脱線したが、元はそんなことは目的ではなかったはずだ。
とんでもなくヘタレな武史に、正しい女性の誘い方を教えるというものなのだ。
「つまり処女をスムーズにベッドに誘うにはどうするかということなんだが、ある程度人数をこなしている人間の方がいいな」
「待て待て。相手のタイプによって全然違うだろ」
そういう土方はやはり、それなりの数を食っているらしい。
「清純系? 純朴系? ぶりっ子系?」
土方の中では処女とはそういう分類になるらしい。
「どれでもないな、お嬢様だ」
おお、と尊敬の目で何か見られる武史である。なぜだ。
「お嬢様っていうか、両親が音楽家で、そういう環境に育っているというか」
「これ、写真」
星が聖ミカエルの女の子の集合写真を携帯で見せる。
「おお」
「つーかこれアイドルグループか何かか? 全員顔面偏差値高いんだけど」
「でかい子が一人いるから、アイドルグループじゃないと思うけどな」
「そのでかいのが俺の彼女だよ」
「で、星は?」
「星はこの子。めっちゃお嬢様で、高級ホテル関西で幾つも経営してる」
「ほほ~。じゃあお嬢様っていうと……あれ? 権藤明日美がいるじゃん」
「聖ミカエルだからな」
「この子は神崎恵美理だよな。で、タケのお相手は?」
「その神崎さんなんですけど」
「半分芸能人みたいなもんじゃねーか!」
キレた近藤と沖田が去っていく中、本気で役に立ちそうな土方をどうにか引き止める。
「俺だってお嬢様のエスコートなんて知らねえよ」
「そうは言ってもな。俺は遊びつーか、セフレは作っても、処女とやったことないからイマイチ分からんのだ」
樋口は素人さんには手を出さないらしい。
いや、そもそも愛人やセフレを作るなという話でもあるが。
「処女、処女かあ……。まあ童貞と処女だと、初めてじゃ上手くいかないんじゃないかなあ」
土方の言葉に、うんうんと頷いている西である。どうやらこいつもそうだったようだ。
そもそも処女の扱いなら、直史はどうなのか。
「兄貴は瑞希さん処女だったろ?」
直史の場合は、事前の綿密な準備があったのだ。それも長期間に渡る。
「お前、家族の性事情とか聞きたいのか?」
「いや、聞きたくないけどさ」
まあそうだろう。瑞希と顔を合わせたら、この人が兄とあんなことをと、微妙な気分になってしまいかねない。
「そうは言っても処女だろ? 色々と事前の準備はしとかないとな」
土方はそう言うが、西の意見は違う。
「いや、一回目はどうせ失敗すると考えておいた方がいいだろ。処女と童貞では一回で合体完了なんてありえないし」
どうやらそういう経験があったらしい。
「面倒というか難しいのは、避妊をどうするかだよな。あれも下手すると萎える原因になるし」
避妊具の装着は、意外と難しい。
スムーズにこなすために、陰毛をある程度切っている人も多いのだ。
などと直史が説明すると、なんだその知識は、という視線を向けられる。
「いや、初めての時のために、試しに使ってみたことは誰だってあるだろ?」
「俺はあるけど、誰だってそうなのか?」
西はなんとなく、星の方を見つめてしまう。
童貞はコンドーム装着の訓練をするのか。
「まあ俺は相手がピル飲んでるから、実戦では使ったことないんだが」
「死ねよお前」
直史の告白に、樋口は遠慮のないことを言った。
バカどもが色々と話しているが、話はちっとも建設的にならない。
いや、そもそも建設的に話そうとしているのかさえ疑問だが。
「とりあえず注意点をまとめてみると」
直史がノートPCを開いて、まとめてみる。
・あせるな。最初のベッドインでは上手く行かなくても当然である
・避妊は男の仕事である。ちゃんと付けられるか事前に練習をしろ
・とにかくあせるな。女性の入れる場所は案外分かりにくいため、お尻の方に手が伸びることもある
・シャワーは浴びろ。お前が気にしなくても、相手が気にする
・入れるよりもその前の行為が大事。だいたい処女は緊張して上手く入らないことが多いので、最初は裸で抱き合うぐらいでもいいと考えろ
・重ねてあせるな。入れる前に出てしまっても、それは想定内である。若いんだからそのまま二回目にいける
こんなことをちゃんとまとめる、頭のいいバカがいる。
「場所はどうするんだ? 相手は実家で、タケは寮だろ? 相手の家の親がいない時を狙うとか?」
「ハウスキーパーの人と、あと権藤さんが下宿してるから、そんな機会はないと思う」
「まあシャワー浴びてる最中に親が戻ってきた時の気まずさは、果てしのないものだしな」
西の実感のこもった言葉である。
しかしどいつもこいつも「あせるな」とは。
ヤリチンであっても最初は、失敗から始まることもあるというわけだ。
「まあ痛がってるのを無理矢理やるのも、それはそれで興奮するけどな」
意外な西の言葉に、軽蔑の視線が向かう。
「ないわ~。痛いのを必死で我慢してくれるのは嬉しいけど、それで興奮するってないわ~」
土方が煽るように言うので、西との間の空気が険悪になる。
十人十色というか、それぞれがそれぞれの経験を持っている。
だから正解などというのは、男女交際の間ではないのだろう。
「大変そうだっていうのは分かってきた」
武史と共に、星もコクコクと頷いている。
なおここには女子の意見が一切反映されていないので、あまり参考にはしない方がいい。
「それであとはラブホ選びか」
「お前はどのあたり使ってるの?」
「俺は基本相手の家とかがいいんだけど、実家だったらご休憩だよな」
「まあ今じゃ普通に内装とかも調べられるし、面白いとこにネタで誘ってみるのもいいかもしれないけど」
樋口と土方は、仲良くラブホの話題へと移行していたりした。
そんなことがあってから、直史は計画書をまとめて、女子の意見を求めに来た。
つまるところ瑞希に。
男の子って本当にバカだなあ、と直史と付き合ってからは久しぶりに思った瑞希である。
ただここまで真剣にバカなことをしていると、こちらもバカになった方がいいのかとも思う。
「女の子の立場から……」
う~んと腕を組んで悩む瑞希である。
「色々な意味で、最初はゆっくり、かなあ」
それが直史との付き合いにおいて、ああ自分は大丈夫だと感じられたことである。
「キスから始まって、最初は胸とかに触られたりとか、服の上からゆっくり触ってもらってたの、あれは気持ち良かった」
気持ちよかったのか、と今さらホッとする直史である。
「最初はやっぱり緊張して、上手く出来なかったでしょ?」
「そうだったなあ」
遠い目をする直史である。今のかなりエロエロになった瑞希も可愛いが、あの頃の初心な瑞希も可愛かった。
「だから本当に、最初は裸になって抱き合うぐらいから始めたほうがいいと思うの。あとはデートの始まりから雰囲気作りで、リラックスさせてほしいとか」
「俺はあんまりそのへん出来ていなかったような」
「あのね、女の子は自分の部屋に入ってもらったりして、自分のスペースを相手に見てもらうことでも、段々とリラックスして相手が出来るようになるの」
へえ、と今さら知った直史であるが、彼は瑞希に対し、偶然にもそのようにしていた。
瑞希曰く、セックスはその日の最初に顔を合わせた瞬間からの、ムード作りが大切なのだという。
変にロマンティックなことはしなくていいが、肩を抱いたり手をつないでみたりして、お互いの体の密着の緊張感をなくす。
それが女性にとっては重要らしい。
「まあ私も、そんなに経験豊富な人と話すわけじゃないけど、直史君はすごく上手だと思う」
処女の嫌いな男がいないように、彼女にセックスが上手いと言われて嬉しくない男もいない。
「あ、でもホテル使うなら問題があるかも」
瑞希は女性だけの感覚を、当然ながら持っている。
「初めての後だと、けっこう歩くのとかも辛かったから、出来るだけ家に近いところでした方がいいと思う」
なるほど、実家で経験したのは、悪いことではなかったわけか。
最初は冷たい目で見ていた瑞希だが、バカな内容でも当人たちには重要だと分かると、しっかりと企画書に目を通してくれる。
「シャワーは必須かなあ。うがいとかもしたいし。あとは直史君は大丈夫だけど、触られる時に痛くないように、爪の手入れはしていてほしいかな」
「ああ、そういえばキスも……最近はけっこう、いきなりしてるような」
「慣れてきたら平気になるから」
そういうものらしい。もちろん事前にシャワーを浴びたいというのは本当らしいが。
「外でやっちゃった話とか聞いたこともあるけど、ちょっと私には無理」
直史も無理である。自分の陣地以外で裸を晒すのは、どうしても危険だと考える。
「女の子の立場からすると、ちゃんと自分のことが好きで、だから抱き合いたいって言ってもらうのが一番かなあ」
「なるほど、ちなみに瑞希、今は夜で俺は明日が午前の授業は遅くて、もちろん隣には最愛の恋人がいるわけだが」
そう言われると瑞希は、少し顔を赤らめながらも、くいっと顔を上げて目を閉じたのであった。
この後めちゃくちゃセックスした。
恋愛の形と言うよりは、その中の一つの肉体関係の形であったが、やはり肝心なのはセックス自体が目的化しないことだろう。
樋口のように性欲の解消として使うならともかく、将来をある程度考える相手との交渉であるのだから、ゆっくりと着実に行っていくべきだ。
直史としての結論はそういうものである。
まあこいつらは一度やってしまうと、もうずっと色々とやりっぱなしだったわけであるが。
お互いに相性が良くて気持ちがいいのだから仕方がない。
しかし女性側の意見としても、とにかくあせるなと言われたのは笑う。
なお樋口はこの話題を電話で彼女と話し、遠距離プレイを楽しんだらしい。
本当に、下衆いことも平気で行える男である。
まあ電話での遠距離プレイとは、それほど面倒な性癖とは言えないが。
樋口の場合はむしろそういった性癖があるのではなく、特定の相手には色々と試さなくては抑えられないらしい。
それは相手の愛情を試すために、色々な自傷行為をするヤンデレと変わらないぞ、と直史に言われてショックを受けたらしいが。
武史は、あせらなくても大丈夫と言われて、ようやくホッとしたらしい。
こいつにももちろん性欲はあるのだが、プレッシャーの方が大きかったらしい。
しかし初体験後の移動という問題は、全く解決していないのだが。
「今年の夏は、皆で海にでも行くか」
「私も恵美理ちゃんにはまた会ってみたいな」
武史が義弟になった場合、その配偶者も当然義妹になる。
女同士の性格の相性は、早めに確認しておいた方がいい。
まああちらのカップルは、今後まだどうなるか分からないのだが。
佐藤兄弟の次男の恋愛は、まだまだゆっくり進んでいくようだ。
×××
なおこの夏に直史は白富東で、バッピなどをしたようである。
本日の第四部Aのお話です。
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