第129話 閑話 周囲の認識

 ※ 今回も先にWBC編15話をお読みください


×××


 ――Q,1 ピッチャーから見た佐藤直史

 真田 「化け物とか怪物って言うよりは、宇宙人とか妖怪。もっとえたいの知れない生き物」

 上杉 「ある意味では、現時点でのピッチャーの完成形」

 岩崎 「才能と努力の幸福な化学反応」

 権藤 「頑張れば出来るような気がするけど、絶対に頑張っても出来そうにないことをしてる人」

 本多 「認めたくないタイプの天才」

 東条 「機械よりも正確な人間。ひょっとしたら人間じゃないかもしれない」

 山田 「ちょっと説明のつかないピッチングをしてる」

 吉村 「存在の根底から何かおかしい」

 大滝 「球速が全てじゃないと言いつつ、球速も上げてる天才」

 細田 「いいピッチャー」

 大原 「トラウマになりそうなピッチャー。バッターにとってもピッチャーにとっても」

 

 ――Q,2 キャッチャーから見た佐藤直史

 大田 「ほぼ全ての天才を凌駕する秀才」

 樋口 「天才と言うよりは職人」

 山下 「なんでプロに来ないんだろうね? 野球以外の自分に、しっかりした価値を持ってるのかな」

 神崎 「私にはとても何も言えませんけど、強いて言うならキャッチャーにとっての理想のピッチャーでしょうか」

 倉田 「絶対的な安心感。こちらが求めた以上のピッチングをしてくれる」

 赤尾 「不動の人。とにかく本当に迷った姿は見たことない」

 武田 「おそらくはキャッチャーの資質を露にさせてしまう恐ろしいピッチャー」

 尾田 「受けてみないと分からないけど、受けてみなくても分かる気がする」

 竹中 「キャッチャーにとっての合法ドラッグ」


 ――Q,3 バッターから見た佐藤直史

 白石 「夢のような存在」

 黒田 「バッターにとっての悪夢」

 井口 「ちょっとコメントしたくない」

 後藤 「頼むからプロには来ないでほしい」

 織田 「あいつから決勝点取ったら超気持ち良さそう」

 西郷 「進んでも進んでも、まださらに先に進んでる」

 実城 「成長の速度が異常。まだ伸び代がありそう」

 

 ――Q,4 チームメイトとしての佐藤直史

 椎名 「奇跡のような存在。本当に、運命に愛されてるような人間」

 北村 「とにかく一家に一台ほしいピッチャー」

 近藤 「意外と普通なところがあって安心したけど、それでもやっぱり普通じゃなかった」

 中村 「守備陣を上手く使う人」

 鬼塚 「努力する才能を持ち、それを努力とも思わず、ごく自然に行える人」

 手塚 「グラウンドでは容赦なく先輩を走らせる鬼」

 星  「すごく親切だし、自分に出来ることはなんでも教えてくれた、野球以外のことも」


 ――Q,5 チームの監督から見た佐藤直史

 高峰 「レベルが高すぎて何も指導できなかった」

 山手 「サンプルを取るための最適な人間。おそらく世界で最もデータを上手く使えるピッチャー」

 木下 「いい意味で手に負えない選手」

 秦野 「暴走したらどうにもならないだろうなと思わせる、ピッチャーというか人間だった」

 辺見 「むしろ教えられることが多く、自分の無力を痛感した」

 島野 「なんかもう、えらいこっちゃとしか言いようがない」


 ――Q,6 対戦相手の監督から見た佐藤直史

 古賀 「勝てたのが不思議でしょうがないが、これも野球なのかと思う。けれど今でも不思議」

 鶴橋 「野球人生で初めて見たというほどの、めんどくさいピッチャー」

 国立 「とてつもない集中力を持っている選手だと思った」

 松平 「あんなレベルのコントロールを高校生が持っていていいのかと思った」

 片森 「何か一つでも弱点があったら、とことんそこを狙ってくるピッチャーだった」

 大庭 「世の中では分かりにくいタイプの天才。秀才とか異才とかではない」

 

 ――Q,7 家族から見た佐藤直史

 武史 「キレたら本当に何をしてもおかしくない人」

 桜椿 「優しいけど絶対に怒らせたらいけない人」

 淳  「練習とかを絶対に真似したらいけない人」


 ――Q,8 後輩から見た佐藤直史

 佐伯 「ちょっとコメントは差し控えたい」

 久留米「勝利のためにとことんチームに尽くす人だった」

 駒井 「普通じゃないんだけど、変な目立ち方をする普通じゃない人じゃなかった」




 色々な人間の言葉を、あるいは直接に、あるいは記事などをスクラップして、瑞希は集めていた。

 まとめて読んでみると、こんな恋人を持っている自分は普通じゃないなと思う。

 全体的に見て、ピッチャーやキャッチャーからは、高い評価を得ている。

 人格者と評判の、慶応の竹中が辛辣なコメントを残しているように思えるが、おそらくキャッチャーにとってはそれほど、得がたい相棒ということなのだろう。


 バッターからは恐れるコメントが多いが、その実力を疑う者はいない。

 既にプロで活躍している選手からも、プロでは対戦したくないと思われているのが、それだけ突出した存在なのかと思わせる。

 家族からの評価が、とにかく厳しい。

 人格などに対して言及されているが、自分はまだ直史の本当に怒ったところなどは見たことがない。

 時々乱暴な扱いを受けたりはするが、あれはちゃんと計算された乱暴さだ。怪我をしたりはしないし、DVとか言われるタイプの暴力でもない。


 瑞希もまた、自分の中の直史についてを色々と考える。

 最初はいいのだが、どうしても連想が進むと、エロい方向の記憶ばかりが刺激される。

 頭を振って妄想を払いのけて、スクラップの新聞記事などを目にする。

 それは日本語のものが多かったが、一時期は英語のものも大変に多くなっていた。

 あとは図書館でコピーした部分や、ネット記事によるもの。

 出来るだけ物体として残しておきたいので、印刷するようにはしている。

 ちゃんとして出版社や新聞社から出ている媒体でも、意外と間違っていることが書かれていたりする。


 英語のものとフランス語のもののうち、英語はなんとか訳したのだが、スラングめいたものや野球独自の使われ方をするものが多く、大変であった。

 フランス語は知り合いのフランス語専攻の人に助けてもらったが、実はほとんど英語と同じ内容なったりもした。

 だがこれは、フランス語の新聞まで記事がなっていたことを証明している。




 女として直史を見た場合。

 直史が女扱いしているのは、ごく普通にサークルの人間とも話すので、他にもいることはいる。

 弟の彼女ということで、恵美理に対してはかなり丁寧に接触していた。

 雑に扱うのは、実の妹たちであろうか。


 ただ本当に女性扱いしているのは瑞希だけで、女性に対応する時も、単に人間に対応するという反応である。

 とにかく瑞希にとってみれば、性欲の強すぎる彼氏ではある。

 それを心地いいと感じてしまうので、もうどうしようもないのだが。

 独占欲は強いと、自分でも正直に言っていた。 

 あと、けっこうダーティなプレイもする。ルール上は間違っていないが、あまりクリーンな人間ではない。

 特に野球のゲームにおいては、相手を騙すことに執念を持っている。

(でもそういうところが好き)

 蓼食う虫も好き好きである。


 今回のWBCの話については、全体的なことを記録しては、注意する人物が多くて散漫になる。

 最終的には活躍した人間は限られているが、それでもまた色々と調べなければいけないことはある。

 英語や他の言語で選手たちにインタビューするのは、今の英語力では不可能だ。

 なのでまた、味方側のチームからの証言や発言だけになってしまうが。


 それもまた、記事やニュースについては、集められるだけのものは集めた。

 試合後の記者会見については、特に問題もなかっただろう。

 半分眠りながらでインタビューを受けていたのは、かなり面白かったが。


 頭の使いすぎで眠くなるというのは、なかなか珍しいものである。

 突発性の失神に似ていて、かなり危険ではと思われたりもする。




 直史も言っていたことだが、この大会はピッチャーにとって制限が大きかった。

 球数制限がなければ、もっと簡単に勝てたとは思う。

 瑞希には教えてくれたが、とにかく序盤はヒットを打たれてでも、粘られないことが大切であった。

 中盤はアメリカもそれに気がついてきたため、ボール球をほとんど使わず、ボール球を投げる時は必ずカウントを稼ぐか、空振りをさせていた。

 本当の意味で全力が出せたのは、二点差のついた残り二イニングだけであったろう。

 それでも瑞希は、直史の勝利を欠片も疑わなかったが。


 直史が負けるとしたら、それは野球においてではない。

 審判の偏ったジャッジか、球数制限によるものである。

 そして直史は前者とは対決せず、後者とも上手く共存した。

 最後の会見で、球数制限については触れたのであるが。


 直史はマスコミなども多かったであろう日本代表のホテルで、部屋を抜け出して選手関係者用の部屋、つまり瑞希の部屋にやってきたわけである。

 そしてシャワーを浴びると、激しい運動なども行わずに、ベッドでぐっすりと眠っている。

 だいたいどんな時でも油断していない直史であるが、さすがに寝ている時は違う。

(う~ん、可愛いな)

 直史に対してそう思うのは、産みの親を除けば、瑞希ぐらいかもしれない。


 明日は参加国のメンバーや大会関係者で、パーティーをして解散である。

 なおその時に、ドレスコードさえ守っているなら、パートナーの同伴なども認められる。

 これが日本だったら奥さんか、婚約者という形でないとだめだったりするのだが、そのあたりはさすがにアメリカは寛容ということだろう。

 直史の場合はツインズと武史が渡米してきている。それと当然ながら瑞希も、ちゃんと準備はしてある。


 翻訳の勉強の意味もあって、瑞希はアメリカの英語の、WBCに対する記事などを読んでいる。

 日本人選手では、やはり大介がワールドカップの時の活躍もあり、この大会でも第一ラウンドからの七戦で六ホームランと、別格の打者成績を残していた。

 だがそれでも直史がMVPに選ばれたのは、アメリカの攻撃をたった一人で、一点も奪われずに防ぎきったからである。

 むしろ一点も取れないという状況が、アメリカ側をあせらせたとも言える。

 その意味ではまさに、あの決勝においては、支配的なピッチャーだった。


 直史、大介、上杉の三人は、MLB基準でもトップレベルである。

 その中でも直史が一人、アマチュアからの参加であったということは話題になっている。

 ただメジャーにおいては、大学からのメジャー入りというのが多いため、それほど特殊なことではない。

 それでも大学からメジャー入りした選手が、その年にいきなり活躍出来る可能性というのは、5%もないのだという。


 この三人をどの球団が取りにいくか。

 気の早すぎる話題が、ネットの世界では氾濫している。

 上杉はMLBには興味ないし、大介も上杉がNPBにいるなら、MLBに来ようとはしないだろう。

 そして直史は、そもそもプロの世界に行かない。


 今回の大会で、直史はMLBレベルでも、間違いなく通じるという確信が得られた。

 元々ピッチャーは日本人でも、メジャーで通用している人間は多かったのだ。

 直史の場合は球速がどうこうと色々言われていたが、問題はそこではないと分かっただろう。


 球種の多さとコントロール。

 ただコースのコントロールだけではなく、緩急差をもコントロールするのだ。

 マウンド上の魔術師などとも言われているが、とにかく決勝のピッチングを評価しているのが多い。

 中にはストライクゾーンと直史の球を比べて、審判のコールがどれだけ間違っているかなどと、検証している番組まであった。

 これはもう審判よりも、直史のコントロールが正しいと言うしかないだろう。




 さて、色々と調べることはまだあるが、それでも時間である。

「直史君、そろそろ着替えに戻らないと」

「う……まだ大丈夫じゃないか?」

 覚醒しかけであったらしく、直史は素直に目を開く。


 直史は、基本的に眠りが浅い。

 早寝早起きが基本であり、眠りから醒めるとすぐに、意識がはっきりとする。

 そんな直史をしっかり把握している瑞希は、その耳元で囁く。

「着替える前に、さっぱりしたいでしょ?」

「……なるほど、一汗かいてからさっぱりしようと」

「どうせこうなると思って、私は準備してました」

 ガウンを脱いだ瑞希は、もう下着姿である。

「慣れてきたなあ……」

 そうは言いつつも、未だに顔を赤らめる恋人のことが、直史は愛おしくてたまらない。

 時折可愛がりすぎて、しばらくおあずけを食らうことはよくあるのだ。

「慣れさせておいて何を」

 そう言いかけた瑞希の手を引いて、ベッドに連れ込む直史である。

 ほぼ全裸の肌同士を密着させると、それだけでもこんなに気持ちいい。

 深くキスをすると応えてきて、そんな様も愛おしい。


 そして二人は、このあと無茶苦茶セックスした。


 おかげで時間に遅れそうになった。


 ラブラブなバカップルは、まだまだお互いの関係が新鮮なようである。

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