第119話 閑話 解説を聞きながら
※ WBC編の二話を先に読むことをお勧めします
×××
球場が揺れる。
上杉が投げるたびに、球場が大きく揺れる。
圧倒的なパワー。
それを目の前で見ていて、代理人の表情が変わっていく。
セイバーは涼しい顔をしていたが、今日の上杉の発する力はプレイオフ並だ。
選手を見る目はないが、経験値は豊富な男は、この現象を知っている。
即ち超新星爆発のように、スーパースターが誕生している瞬間。
それはまあ、直接球場で見ないと分からないだろうな、とセイバーは薄く笑う。
「Missヤマテ、あれはなんだ?」
「貴方の見ている通りのものですよ」
意地悪な言い方ではあるが、これを見せればはっきりとする。
選手を見る目はなくても、ビジネスの嗅覚は効く。
ならば球場で見せれば、一発で分かるはずだ。
確かにMLBにおいては、過去にドーピングが蔓延していた時期は確実にあった。
今も合法な範囲のドーピングであれば、サプリメントの摂取などで、問題なく行っている選手の方が多いだろう。
だが大介は間違いなく食事から必要な栄養素を摂っていただろうし、上杉もそのはずである。
名家の人間である上杉は、もしドーピングなどがばれた場合、受けるダメージが強すぎるのだ。
そもそも彼の人柄を知っていれば、そんなアンフェアなことはしない人間だと誰もが確信する。
一番バッターが呆気なく三振した。
そして二番三番と、連続で三球三振である。
バットに当たらないどころか、速すぎて振ることも出来ない。
こんなものは打ちようがないではないか。
思わず途中からは立ち上がっていた代理人は、首を振りつつこめかみを押さえ、どっかりとソファーに座り込む。
「彼の代理人になれと言うのかね?」
「いいえ。上杉君はメジャーには全く興味がありません。元々お金持ちの家の子ですからね。日本での名声にしか興味がないんですよ」
「ならばなぜ私に見せた?」
「あなたに見せたいのは、彼だけではありません」
にっこりと余裕の笑みのセイバーである。
後ろで英語でちょっと不穏な会話がなされているなとは思いつつ、瑞希は時折ペンで自分の感想を記述していく。
メモを取るという行為において、紙は多くの場合、電子よりも優れたところがある。
それは自分の思考を、まとまっていないままに残しておけるということだ。
電子の場合は前のアイデアを、使いきったと思えば消してしまうことがある。
だが瑞希は資料的な価値を考えて、紙のメモは全て保管している。
最初は捨ててしまうこともあったが、直史の一年の秋からは、全て残している。
個人的なことはさすがに日記に書くだけであったが、白富東の野球部の情報は、後世に残しておくべきだと思ったからだ。
そしてそれは、実際に数十年後には評価されるわけである。
イリヤは五線譜ノートを用意してはいるが、とりあえずはペンを取ることはない。
まだ彼女のイマジネーションを刺激するような展開ではないのだ。
地獄から聞こえてくるかのような、爆発の胎動。
こういった破滅的な曲調は、イリヤの好むところではない。
室内にはモニターもあり、テレビ中継も同時に聞こえてくる。
『いや~、これは素晴らしいというか、凄い! まさに日本のエースですね、戸崎さん』
『上杉選手、余力をたっぷり残していますね』
『余力ですか』
『まあ上杉選手はイニングイーターでもありますからね。球数の80制限というのは彼にとっては少なすぎます。プロに入ってからも、150球以上投げて完封とか、普通に何度もしてますからね』
『既に170kmが出ていますが、プレイオフでは最高で173kmという記録が残っています』
『キューバ打線であっても見たことのない球は打てないでしょうから、少なくとも打者一巡は点は入らないでしょうね。問題はリリーフというか、継投をどうしていくかですが』
上杉の場合はリリーフではなく、球数制限によるお役ご免であろう。
一回の表に投げたのは、たったの10球。
そしてボールにバットを当てさせるどころか、スイングすることすら出来なかった。
完全に反応で対処出来るスピードを上回っているのだ。
超人上杉。あるいは鉄人上杉。
上杉は試合では負けない。上杉が負けるとしたら、それは相手ではなく球数制限などのルールに負ける時だ。
『おそらく六回ほどでマウンドは降りるのだと思いますが、その後のピッチャーは気をつけないといけませんね』
『プロのシーズン戦だと、一イニングごとにリリーフをつなげていく感じですが』
『変化球主体の投手、あるいは左を上手く絡めて、的が絞れないようにしていくのだと思いますが』
『福島や島といった若手に、あとはクローザーとしては峠がいますが』
『峠選手は鉄板ですからね。点差がついているようだと、学生の佐藤選手を試してくるかもしれませんね』
『佐藤が投げますか』
『先発の適性もありますが、ワールドカップではクローザーとして完全に機能していましたからね。大学のリーグ戦などでも実績はあります』
『ここでアマチュアの佐藤を持ってきますか』
『アマチュアとかプロとかではなく、甲子園で二度もパーフェクトするようなピッチャーは、早めに試しておくべきなんですよ』
☆ WBC 第一ラウンド 対キューバ戦 part4 ☆
112 名前:どうですか解説のななしさん
三振!
113 名前:どうですか解説のななしさん
当然のように三球三振
114 名前:どうですか解説のななしさん
連続三振
115 名前:どうですか解説のななしさん
て言うかスイングも出来んのか
116 名前:どうですか解説のななしさん
初見やと白石でも全然かなわんかったそうやからしゃーない
117 名前:どうですか解説のななしさん
つまり……白石以上のバッターなら打てる?
118 名前:どうですか解説のななしさん
そんなやついねえw
119 名前:どうですか解説のななしさん
10球でスリーアウトか。これは全打者三振あるな
120 名前:どうですか解説のななしさん
裏は白石に回るで~
121 名前:どうですか解説のななしさん
球数制限考えると次の回は打たせて取りたいな
122 名前:どうですか解説のななしさん
ここから全員三球三振でも球数制限引っかかるんか
123 名前:どうですか解説のななしさん
アマチュアの学生野球ならともかくプロがいるのに球数制限って無粋だな
124 名前:どうですか解説のななしさん
MLB基準だからしゃーない
125 名前:どうですか解説のななしさん
上杉―佐藤のパーフェクト継投クルー?
126 名前:どうですか解説のななしさん
まずは織田だ。織田ダダダダ!
127 名前:どうですか解説のななしさん
ランナー一人置いて白石に回したいな
128 名前:どうですか解説のななしさん
お祭り男www
129 名前:どうですか解説のななしさん
白石大介の日本シリーズ成績
一年目 9打数 7安打 4本塁打 10打点
二年目 16打数 8安打 6本塁打 13打点
130 名前:どうですか解説のななしさん
>>129
何度見てもおかしい
単打よりホームランが多いって
ソーサとホームラン争いしてたときのマグワイアがそうだったか?
131 名前:どうですか解説のななしさん
相手のピッチャーステベンソン
誰か情報モッテルー?
132 名前:どうですか解説のななしさん
3Aで去年プレイしてたみたいやね
奪三振率がえげつないけどフォアボールもあって球速が104マイルとか書いてある
133 名前:どうですか解説のななしさん
上杉兄貴より速いんか?
134 名前:どうですか解説のななしさん
計算せいや
上杉兄貴の方が圧倒的に速い
上杉弟よりは速い
135 名前:どうですか解説のななしさん
まあ世界に上杉兄貴以上のピッチャーがおったら怖いしな
136 名前:どうですか解説のななしさん
織田に打てるかな?
137 名前:どうですか解説のななしさん
何度も言われているが甲子園で上杉から二本以上ヒットを打ったのは織田しかいない
138 名前:どうですか解説のななしさん
あ
139 名前:どうですか解説のななしさん
初球!
140 名前:どうですか解説のななしさん
打ってもたやん
141 名前:どうですか解説のななしさん
165出てるwww
142 名前:どうですか解説のななしさん
織田やなあ
…………
198 名前:どうですか解説のななしさん
出た!
199 名前:どうですか解説のななしさん
キタ━━(゚∀゚)━━ !!
200 名前:どうですか解説のななしさん
やっぱりな
201 名前:どうですか解説のななしさん
葬らん!
202 名前:どうですか解説のななしさん
そらあかんわ。
202 名前:どうですか解説のななしさん
まあ大介なら168は打てるやろ
203 名前:どうですか解説のななしさん
上杉兄貴以来のパワーピッチャー
さぞかし美味かろうて
204 名前:どうですか解説のななしさん
あれは狙ってたな
もうピッチャーストレートは投げられんで
205 名前:どうですか解説のななしさん
白石に投げていいストレートは、バットの届かないストレートだけ
206 名前:どうですか解説のななしさん
これって大会第一号かな?
日本が一番開幕早いんだよな?
207 名前:どうですか解説のななしさん
国際大会の累計ホームラン記録とかないかな
208 名前:どうですか解説のななしさん
世界のホームラン王
209 名前:どうですか解説のななしさん
日本もシーズン試合数増やせよ
白石がボンズの記録抜くところ見たい
210 名前:どうですか解説のななしさん
それはまず60本を打たないと
211 名前:どうですか解説のななしさん
ああ、指立てとる
212 名前:どうですか解説のななしさん
報復死球されるぞ
って白石なら意味ないんかwww
213 名前:どうですか解説のななしさん
DHだからピッチャーにぶつけられることもないしな
214 名前:どうですか解説のななしさん
そういやDH使ってるんか
上杉やからそのまま打たせるか山下に使ったらよかったのに
215 名前:どうですか解説のななしさん
去年は上杉も打率は落としたからな
216 名前:どうですか解説のななしさん
自分で打って自分で投げる上杉最強
217 名前:どうですか解説のななしさん
さて、こっからどうなるか
ネットの海が沸騰しているところに、大介が簡単そうにホームランを打ってしまった。
右腕を高々と上げるが、問題はそれよりも指を一本立てていたことである。
ワールドカップの頃から、大介を見ている者は知っている。
これは「まず一本」の表明であるのだ。
何本のホームランを打つのか。
プロ二年目で既に117本のホームランをシーズンで打っている大介は、このまま行けば究極の記録を塗り替えるかもしれない。
もしもMLBに行っても、間違いなく強大なスラッガーとして活躍出来るだろう。
それも三振をせず、打率も残せるスラッガーだ。
大介に簡単に打たれたことによって動揺してしまったのか、キューバのエースはそこから四球を連発。
まだ球数が少ないうちにと、簡単に交代してしまった。
相手のピッチャーのメンタルを崩す、まさに破壊神と呼ばれる所以である。
もちろん大介としては、ホームランの一本や二本打たれたぐらいで、動揺する方が悪いと思う。
日本の攻撃はそのワンナウト満塁からも続き、さらに二点を追加した。
初回の攻防で既に四点差であるが、相手のピッチャーの自滅という側面はある。
まだ勝ちを確信するような段階ではない。
この回はある程度打たせて取る。
それがキャッチャー山下の考えである。
もちろん上杉が抑えて投げても、三振を取れることは分かる。
だが問題は球数は、疲労度や消耗度とは別に、ピッチャーを制限するのだ。
打たせて取るという意味では、上杉は不器用なピッチャーだ。
それよりも三球で三振を奪ってしまう方が、結果的には確実なので。
だが出来れば80球以内で七回までを終えて、八回と九回の二イニングだけに、他のピッチャーは使いたい。
これは首脳陣の考えと同じである。
上杉という最終兵器は、確かに強力だ。
だが世界最強の戦艦大和であっても、時代に恵まれず補給がなければ、海に漂う棺桶にすぎない。
決勝に向けて上杉をどう温存するか。
これはもう、日本チームの根本的な戦略課題である。
そして二回の表が始まる。
投球練習を軽くするのだが、ボールの伸びがすごすぎる。
上杉のボールを受けるのはこの代表が初めてであるが、確かに他のどのピッチャーでもこんな球は投げられない。
ぐるぐると腕を回す上杉は、マウンドの上の絶対的な支配者だ。
神の投球はまだ続く。
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