第三話 ナニ ニ オモワレタノカ 7
「俺は、ウェルカムの会の一員なんだ」
――が、目覚めた茂樹の第一声であった。次に出たのは、全身を殴打してからであろう生みださせる、聞くからに痛ましい呻きであった。
未だに、太陽は沈みきらない。地平線に顔を半分だして、琥珀に輝きながら、古ぼけたアパートの敷地内で佇む彰人を眺めつづける。彰人が目覚めたカタキにどう出るのかを、彼は見届けたいのか。彼の伝えてくる眩しさにやられ、彰人は彼に一瞥をやってから開口した。
「大丈夫か?」
彰人は怒りを抑えつつ、静かに尋ねた。茂樹は地面でのたうち回りながら、奇声をあげる。
「俺は一員で、活動家なのだ。おもどりになられた人は、死んでなんかいない。人権を与えるべきだ。ああ悔しい。俺もおもどりになられた人となって、処分されるのか」
茂樹は悔しがる口調でいった。
「お前が、山海警部の家におもどりになられた人を侵入させたのか?」
「ああ。そうだ。お前らへの天誅だよ。おもどりになられた人が可哀そう。彼らはお前らに復讐をしたがっている。だから、俺は手助けしてあげた」
怒りが、また優位に立とうとしてくる。彰人はそれを堪えようと、下げた右手の拳を固く握りしめる。
「何で、山海警部を選んだ?」
「警部だから。そこそこに地位があるから。警部なら誰でも良かった」と答え、茂樹は彰人のほうを見れば、泣きながらせせらと笑う。「さぁ。俺を処分しろよ。その拳銃で、俺の頭を撃ち抜け。この人殺し。俺の妹も殺しやがってさ」
彰人は奥歯を噛みしめてから、左手にある拳銃をしまい、手錠を取り出す。茂樹から目を見開かせられる。
「お前は死んでいない。おもどりになっていない。生きる法の裁きを受けろ」
一発ぶん殴ってやりたかったが、彰人は我慢した。理解不能な言語を喚く茂樹に手錠をかけ、何も手をだすこと、罵ることもなく、これ以上彼と会話することなく、霞が関の引き渡すべきところへ彼を送ってやった。彼と別れた後、想われの囚われから解放され、オフィスの屋上へ行けば、太陽は姿を消していた。彼の代わりに、あの金星に似た満月が空で輝いていた。
彰人は彼女を見つめながら、後頭部の毛髪を掻き分け、そこにあった穴――口腔からそこまで撃ち抜かれてできた穴――今は塞がってしまっている穴を弄る。痛いはない、普通に肌を触れているという感覚。
「俺は何に想われたのか。いつ腐っていくのやら」
彼女はどこまでも美しく、つれない。問いかけには、もちろん何も答えてくれやしない。
第三話 終
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