第二話 ドコ ガ イタイノ? 6
「C組の佐久間告君が昨日から家に帰ってきていないようです。誰か佐久間君に関することを知っていたら、ぜひ教えてください」
と、教卓から教頭が怖い顔で訴えてきた。教頭の隣には告の母がいて、訴えが終わった途端に、顔を両手で覆い泣きだす。
明里は視線を落とし、机の下で隠し広げる、四つ折りの跡が残る小さな白い紙の手紙を読む。
こんなに無視されて、冷たくされ、もう生きていけない。俺が死んで、もしもおもどりになれたら、一番にお前のところへ会いに行くから。 告
――確か、と明里は思い起こしてみる。
この手紙が下駄箱に入っていたのは、先週の火曜、いや木曜だっけ。この手紙が入っていた後も、あいつはわたしに執拗に好きだの、付き合おうだの言ってきた。確か今週も、会ったっけ。
明里は前を向きなおし、黒板から今日の日付を確認する。黒板の右端に縦並びで、七月二日水曜日と白いチョークで書かれてある。
(水曜か。昨日は会っていないから、一昨日の月曜に会ったのかな)
水曜日と書かれた文字を明里は平然と見つめながら、片手で手紙を握り丸めて、引き出しへ押し込む。
教頭が煩く話しだし、明里は興味ないのだが、勝手に耳に入ってくる。告の家に自殺を仄めかす内容の手紙があった、昨日の朝から告は様子がおかしかったとか、と。
明里は教頭と告の母親が教室から退場するまで、水曜日をずっと見つめた。担任が中断になっていた朝礼を再開して、見つめるのをやめた。
やっとか。つまらない、いつもの一日が始まった、と明里は誰にも聞こえないように愚痴る。
明里は担任の視線に気を配りつつ、机の引き出しの中にある携帯電話を手にして、机の下で隠しながらアプリゲームで遊びだす。ワンステージのクリアを目指す最中に、突然横から強風が襲い掛かってきて、髪をかき乱された。
「今日は風が強いみたいね。窓を閉めてください」と担任がいって、窓際に座る生徒に指示をだす。窓がひとつ開けっぱなしであった。
あんなやつ、大っ嫌いだ。
告が吐いた言葉が、唐突に頭の中で再現されて明里は聞こえた。開けっぱなしの窓から、咄嗟に空いている前の席を見る。今日もそこの席の主である紅葉は実家にいて、学校へ来ていなかった。
続
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