第二話 ドコ ガ イタイノ? 5

 太陽は今日も平等だ。今日を終えようと地平線へ沈んでいく彼は、校舎にも、グラウンドにも、どこもかしこにも、誰に対しても、どこまでも平等に橙色の陽を与える。不平等をしない。それは生徒としてのそれなりの義務も果たさず、学校の敷地から出ようとする明里に対しても平等であった。

 明里がのんびりとした歩みで敷地を出て、「そろそろかななんて」考えていたら、本当に携帯電話が鳴った。「明日は必ず学校へ来るから」と、紅葉からのメッセージが届いた。

 これで、このタイミングで、この内容のメッセージを紅葉から受け取るのは、休日を除いて連続して十一日、と明里は換算した。このメッセージがこのタイミングで来ると感じるようになったのは、六月の初めくらいと覚えている。今は六月下旬、七月に入ったら必須の儀礼になってしまわないか、と心配にさせられてくる。

(あの黄色い惑星が見える前は逆であったのに。わたしが明日は必ず学校くるからって、紅葉へ送って。そして、紅葉は……)

  必ず来てね。会えないの寂しいよ。すごく悲しいよ。

 明里はメッセージを返し終えると、携帯電話を鞄に突っ込む。情けないことに鉄の心が痛く、苦しくなり、無性に強がりたい気分になって、目の前を睨みながら闊歩する。

 学校の最寄であるバス停の横を通り過ぎようとした時、背から告が呼びとめてくる声がした。無視を決行したのに、自転車に乗った告が有菜の横に駆けつけてきた。

「無視するなよ。一緒に帰ろうぜ。お互いの道が別れるまでさ」

 明里は無視を継続して、大股で闊歩する。

「怖い顔しちゃってさ、何か嫌なことでもあったのか。また担任に怒られたとか」

 確かに明里は今日も担任から怒られた。こうして質問され、出来事を思い出させ、既にある嫌な気分を増幅させられる。

「それとも、紅葉が学校に全然来ないから、臍でも曲げているのか?」

 見事に図星をつかれた、と明里は腹立たしく思う。この男は自分をことごとく不愉快にさせる、もはやプロ。

 明里は告を睨み、舌打ちをやる。告は身体をびくつかせ、目を見開かせたが、白い歯をまた見せる。

「俺の予想当たりだな。明里は何でこんなに曲がっちゃっているのだろうな」

 明里は立ち止まる。告も立ち止まった。白い歯を見せたままの告を、明里は睨みながら、凄みをきかせた声をだす。

「いい加減にしろ。わたしに関わってくるな」

「俺は関わるよ。ただ、ただ、好きだから」

「迷惑だ」

 告は口を閉じ、顔から表情を消した。明里の目をまっすぐ見てくる。それに対して、明里は睨み続ける。暫しして、告が鼻で笑った。

「お前はレズだものな。男に興味ないよな。お前は知らないだろうけど、俺らの学年では、お前がレズで、紅葉とできているって有名だぜ」

 瞬時に激しい怒りが頭を支配し、怒りに操られ、明里は告の頬に平手をかました。

「レズだと? 差別用語を使うなよな。紅葉とはできていない」

 告はぶたれた頬を摩ってから、また鼻で笑った。「紅葉の兄は死んで、おもどりになられているとか。あんな天然馬鹿、おもどりになられた兄に喰われてしまえ。あんなやつ、大っ嫌いだ」と小声で呪詛の如く吐いた。

「くそったれ。お前が喰われてしまえ」

 明里はいい捨てて、思いっきり告に顔を背け、早歩きをしだす。告から追いかけられ、謝られ、「お前があまりに冷たいから、頭にきて、おかしなことをいった」とか弁解されだし、全速力で逃げた。


 続

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