第二話 ドコ ガ イタイノ? 3

 明里は職員室の扉を後ろ手で音を立てて閉め切ってから、口パクで「ばーか」と職員室に留まる生活指導担当の須藤へいってやった。けれど腹の虫がおさまらなかった。

 目をつけてやがる、と明里は不服に思う。登校時間までに校門をくぐったのに、ぎりぎりだの、服装がなんだの、いちゃもんつけて。校門前で叱ったくせに、さらにまた一時間目の授業後に呼びだす。

 明里は自分の教室へ向かいつつ、「須藤は男だから、わたしに気でもあるのか」と疑りだす。須藤はやたらに自分を呼びとめ、呼びだす。須藤が独身で恋人がいない、三十路と知る。たまに「俺は本気でお前のことをおもっているから」とか、受け取り方次第では誤解できる発言もある。

(だとしたら、気持ち悪いわ……)

 明里は鳥肌がたち、肌を摩る。トイレの前を横切った時、後ろから告の呼び声がして、また鳥肌がたった。聞こえなかった振りをしようとしたが、告が自分を追い越して、自分の前へ歩きでる。

「なぁ。また須藤に呼び出されたけど、大丈夫だったか?」

 告は目を細め、白い歯を見せた。明里は耳を疑い、告を気持ち悪く思う。

「あんた、何でわたしが呼び出されたのを知っているのよ?」

「朝練が終わって、校舎へ行こうとする途中で、お前が校門前で須藤に怒られているのを見かけたから。予想した」いって、告はガッツポーズをする。「よしっ。的中だったのか」

「あっ、そう」

 明里は告の顔から目を逸らし、少し歩調を早める。告から自分の視界に入られようとしながら前を歩かれ、ついてこられる。

「笑わせようとしているのに、明里は笑わないな」

「笑えない。呼び捨てしないで。苗字の筒井さんと呼びなよ」

「冷たいな。昨年は同じクラスメイトで、二人っきりで学校に夜遅くまで残って、文化祭の準備をしたのに」

 クラスメイトだった、一緒に準備をしたとか。いい加減にこだわるのをやめてもらいたい、と明里は切実に望む。この佐久間告という男に対して、特別な感情を抱いたこともない。二人っきりで準備したのは、望む望まないとか関係ない、そういう成り行きであったから。

 もう何度も説明しているが、また説明しようか、と明里は歩きながら考え、どうしようかと迷って、告を見やる。彼と目が合い、笑まれた。

「今日もお前は可愛い」

 廊下には同学年の生徒たちが横行している。その最中で告から声を潜める配慮なければ、躊躇いもなくいわれ、明里は背筋に寒気が走り、閉口させられる。

「腕に怪我しているけど、どうかしたのか? 大丈夫か?」

 明里は告から目を背け、口を堅く締め、さらに歩調を早める。執拗についてきて、腕の怪我について質問してくるが、答える気にもならない。しつこいだけで迷惑なのに、余計に迷惑にも彼の声によって頭と耳まで痛くなってきた。


 続

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る