第2話


高校の昼休み、春輝は同じクラスの大地だいち、キコと一緒に購買に行き、ラスクをひとつ買って彼らと教室に戻った。

「キコは弁当プラス、メロンパンとカツサンド」

大地は自分も焼きそばパンを頬張りながら言う。

「お腹減るからね、卓球部は身体が資本だよ」

「いや身体が資本なのは卓球部だけじゃないだろ。あれ、秀一しゅういちはどこ行ったんだろ?」

春輝は秀一に借りていたCDを返さなきゃと思い出した。

「多分あいつのことだから図書室だよ」


大地の勘はだいたい当たる。春輝がCDを持ってひとりで図書室へ行くと、彼は机で本を読んでいた。

「あ、忘れてたよ。ありがとう」

そう言って彼はまた読書に戻った。

春輝は秀一の読んでいる本の表紙を覗き込んだ。


科学の法則と原理    

ノイマンのゲーム理論 ピタゴラスの原理……。

「ゲーム理論のとこ読んだか?」

春輝は自分が日頃親しんでいるゲームの理論とはどんなものかと思い、彼に訊いた。

「パソコンのプログラムの根本になってるらしいよ」

「へえ、それでどんな?」

「社会とか自然における複数主体が関わる意思決定の問題や……の相互依存的状況を数学的な数理モデルを使って研究する……の学問で……」

「ああ、そういうことね。オーケー、なるほど、そっち系の話なわけね。ありがとう」

 自分の脳みそでは到底理解できない話だとわかり、あきらめて自分も本を探そうと席を立った。

 そういえば、「スタンド・バイ・ミー」って映画あったけど原作が読みたいな。


洋書の棚へ行き、目当ての小説を手に取ろうとすると、同じ本を取ろうとする誰かの手と彼の手がぶつかりそうになった。


あっ


と声にならない声を出して右手を胸のあたりにあわててひっこめ、横をみると彼と同じく引っ込めた左手を彼女は左手で握るように結んで春輝を見ていた。

おどろいて大きくなった瞳は光を受けて輝くように見え、真っ白い肌が唇のきれいな薄桃色を強調していた。

束ねて肩にかけ、鎖骨くらいの位置にある髪はしっとりとして触れてはいけない高貴な価値のあるものに見えた。





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