卒業宣言(4)

 駅前のお店で、菜奈と一緒にリボンを見た。そのお店は、私達の高校の女子の御用達のお店で、リボンやネクタイ、靴下、カバンなどの、小物たちが売られている。


 校則の緩い私達の高校では、ベースのスカートやブレザーにプラスして、それぞれ好きなリボンやネクタイをつけている女子が多い。ブレザーの下に着るカーディガンやセーターも、好きな色の物を着る。


 いわゆる、なんちゃって制服、というやつだ。私も日替わりで、何種類かのリボンやネクタイを選んで着けている。


「わあー可愛いのがいっぱいある!」


 菜奈は目をキラキラさせながら、リボンを選んでいる。私はこの間買ったばかりだから、とりあえず見るだけだけど、来るたびに新しいデザインのものが入荷されていて、見ていて飽きない。


「これにしよう。私、買ってきますね!」


 菜奈が選んだのは、グリーンにストライプの模様が入ったリボン。よく見ると、私の赤いリボンと色違いの模様だ。


「ふふ。美冬先輩のと色違い♪」


 こんな風に真似されるのも、何だか悪くない気分だ。


 お店を出て、駅の改札を通ったところで、菜奈と別れて、私はいつものローカルな電車に乗り込む。

 化学の宿題をするべく教科書を開いた。


 ……『親友』かあ。


 ふと、菜奈の言葉が気になる。私と真雪は『親友』、なんだよね。

 確認するように、自分の頭の中で反芻する。


 親友、つまり、一番親しい友達。

 恋人のいない私にとって、つまりそれは、家族以外で一番大事な相手、ってことなんだろうか。


 考え出したら止まらなくて、教科書の化学反応式は目で追うだけで、ちっとも頭には入ってこない。

 この間から考えないようにしていた言葉まで、浮かんでくる。


 ……私は、真雪の恋愛対象に入っているのだろうか。


 家族以外で一番親しい相手、で、且つ、その相手が恋愛対象の相手なら、それは。

 でも、今、真雪の薬指には、指輪がある。


 『婚約』なんていう不穏な言葉と共に。

 『フルートとの』っていう但し書きがついていても、不穏なものは不穏なのだ。


 『親友』と『恋人』、きっと大きく違うはずなのに、最近の私にはその違いがわからない。わかるようで、わからない。


 恋を知らない私の頭は、想像だけがたっぷり詰まった思考をやめてはくれないのだ。


 『恋人』なんてキーワードを頭に浮かべてしまったら、もう駄目だった。


 わからないけれど、急に真雪の顔が見たくなった。だけど同時に、恥ずかしくて、見られたくない気持ちにもなっていた。


 もう先輩になったというのに、私はまだまだ真雪から卒業できずにいるみたいだった。

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