第149話7-4ミーニャとエマ―ジェリア
「うふっ、ソウマ君の寝顔可愛い‥‥‥」
その声で僕は目が覚める。
いつもと違って姉さんに抱き着かれる事も無く、あの大きな胸で顔を押さえられる事んも無いのでよく眠れた。
目を開けると僕を覗き込むようにミーニャが見下ろしている。
「んぁ、ふぁああぁぁぁぁ、おはようミーニャ‥‥‥」
「おはよ、ソウマ君。お目覚めのキスしよう~」
「朝から何やろうとしているのですの! ほら、ソウマ君顔洗って食事ですわ!!」
起き上がってまだ少しぼうっとしている僕にキスしてこようとするミーニャの首根っこ掴んでエマ―ジェリアさんが僕にハンカチを渡して来る。
「それ使って良いですからちゃんと顔洗ってきなさいですわ。リュードさんから教わった木の枝の歯ブラシで歯磨きも忘れないでですわ」
「あ、ありがとうございます‥‥‥」
なんか姉さんとは違いてきぱきと指示しながらもエマ―ジェリアさんはミーニャを引っ張っていく。
うん、うちの姉さんもこの位落ち着いてくれると助かるのになぁ。
起き上がり【水生成魔法】で顔を洗い歯を磨く。
エマ―ジェリアさんに渡されたハンカチで顔を拭いて気付く。
なんか好い匂いがするハンカチだな。
「ソウマ、起きたか? 近くに果物が有ったぜ」
リュードさんはそう言ってどこかで取ってきた果物をかかげて見せる。
「あら、美味しそうな果物ですわね?」
「おっ、それって美味しいやつだわね。でかしたおっさん!」
エマ―ジェリアさんもミーニャもリュードさんの掲げる果物に反応する。
そう言えば姉さんも果物好きだったな。
「ふあぁ、おはよ。うーん、やっぱシェルいなといろいろ不足するわね」
セキさんも伸びをして起き上がるけど頭の毛がぼさぼさになっている。
「セキも早く顔洗って朝ごはんですわよ」
「ういぃ~」
なんか色々と取り仕切るエマ―ジェリアさん。
うーん、うちの姉さんにも見習ってもらいたいな。
「ちっ、なによせっかくフェンリルさんがいなくなってソウマ君といちゃいちゃできると思ったのに! このエマージェリアってのが姉役?」
「私があなたやソウマ君より年長者なのですからしっかりとさせなければなりませんわ。さあご飯お前にお祈りを‥‥‥」
エマ―ジェリアさんはそこまで言って言葉を失う。
「エルハイミ母さんの事気にしてるなら大丈夫よ? 母さんを崇める気持ちだって決して悪い事じゃないし、フェンリルを返してもらいに行くのだって最後はフェンリル自身が決める事だしね」
頭をポリポリと掻くセキさんにそう言われエマ―ジェリアさんはハッとなり顔を上げる。
「でも、でも私は女神様の意向に背くことをしようとしているのですわよ?」
「エマ―ジェリアさん、エルハミねーちゃんはそんな心の狭い人じゃないはずですよ。確かにティアナねーちゃん‥‥‥姉さんが最後は決めるかもしれないけど、フェンリル姉さんの嫌がる事を無理やり押し付ける人じゃないはず‥‥‥ だから天界に行ってちゃんと話したいんです!」
僕がそうエマ―ジェリアさんに言うとエマ―ジェリアさんは僕の方を見て涙を浮かべた。
「私は、女神様に、セキに、そしてシェル様に命を助けられましたわ。そして女神様を崇拝し神殿にとどまりセキと共に聖女として女神様を信仰していくつもりでしたのに‥‥‥」
「あー、かったるいわね。お姉さまはあんたの信仰が有ろうがなかろうが絶対神としてこの世界に君臨する人よ? フェンリルさんを返してもらいたいってお願いするのはあたしらの勝手だし、それを聞いてくれるかどうかなんてお姉さま次第じゃ無いの? あんた馬鹿? そんな事も分からずお姉さまを崇拝するですって? あたしなんかお姉さまに振り向いてもらえなかったけどお姉さまは私にそれ相応の力を残して行ってくれたわ!!」
どんっ!
言いながらミーニャは魔力を放出する。
「確かに『魔王』の時に比べれば比じゃないけど、ソウマ君を守れるくらいの力は残っているわ!!」
「ちょ、ちょっとミーニャ!」
何を苛立っているのかミーニャのその魔力放出に慌てる僕。
リリスさんたちなんか驚いて木の陰に逃げてっちゃうし!
「女神様を信仰する私の気持ちが馬鹿扱いですの? 許せない、あなたこそそんなのだからソウマ君にも女神様にも振り向いてもらえないのですわ!!」
どんっ!
えっ!?
何それ!?
エマ―ジェリアさんからも大きな魔力があふれ出す!?
「ちょ、ちょっと、エマ何それ!?」
「お、おい嬢ちゃん!? なんなんだよこれ!?」
セキさんもリュードさんもエマ―ジェリアさんの放出する魔力に驚く。
それもそのはず、ミーニャが放っている魔力にだって劣らない程凄い。
「ふん、お姉さまに新しい心臓をもらって魔力と力が底上げされたか‥‥‥ まったく、これじゃぁソウマ君を簡単に奪えないじゃ無いの!!」
「やっぱりまだそんなこと考えていたのですの!? ソウマ君は、ソウマ君は渡しませんわ!!」
ミーニャもエマ―ジェリアさんも拳に魔力を載せて輝かせながら二人して今にも飛び掛かりそうになっている。
「最初っからフェンリルさん以上に気に入らなかったのよあんた! なにお姉さまの姿してソウマ君に言い寄ってるのよ!?」
「あなたこそ女神様に逆らうような事ばかり! ソウマ君の気持ちだって無視してなに好き勝手やっているのですの!!」
言いながら二人はとうとう拳を振り上げ殴り合いになる。
「駄目だぁ! 二人とも喧嘩なんかしちゃだめなんだぁ!!」
きんっ!
なんだろう?
今僕の中で何かが繋がった。
それは魂の奥底とこの体が繋がったような感覚。
そう思った瞬間目に映る光景が変わった。
全てのモノがボヤっと光り輝いてそしてわずかながらにそれらがずれている。
いや、光っている方に光っていない方がついてきている様だ。
まるでスローモーションの様なその光景に拳と拳で今にも殴り合いそうになるミーニャとエマ―ジェリアさんが見える。
僕は二人の喧嘩をやめさせたい一心で殴り合う二人の手首を掴む。
しかしそれは二重に見える光る方の手。
ぱしっ!
ぱしっ!!
「えっ!? ソウマ君!!!?」
「なんなのですの!?」
ばんっ!
僕はとにかく二人の喧嘩をやめさせたい一心で二人の手首を掴んだけど本来の僕にそんなことが出来るはずはなかった。
でも今この手に掴む二人の手首は間違いなくミーニャとエマ―ジェリアさんのそれだった。
「ソウマ、お前同調を!?」
「あー、そう言う事か。エルハイミ母さんってばソウマの心臓作り替えた時に力を与えていったんだ」
ぴこぴこ~。
二人の手を押さえ、二人の間に立つ僕は瞳の色を金色にして二人の喧嘩を止めた。
そしてセキさんの言う通り僕にも心臓からあふれ出る魔力の波動が感じられる。
「二人とも喧嘩なんかしちゃだめだよ! 今は一刻も早く天界に行ってエルハイミねーちゃんを説得して姉さんを返してもらわなきゃなんだから!!」
僕のその言葉にミーニャもエマ―ジェリアさんも拳の光を消していつの間にか変わっていた金色の瞳の色を元の色に戻す。
それを見て僕も安心したら急に体から力が抜けた。
よろっとしゃがんでしまいながら二人の手を離す。
「ソウマ君!」
「ソウマ君ですわ!」
僕がよろけて座り込んでしまうとミーニャもエマ―ジェリアさんも慌てて僕を支えようとする。
「だ、大丈夫ですよ。ちょっと立ち眩みがしただけで‥‥‥」
そう言う僕に慌ててリュードさんがやって来てガシッと頬を掴み僕の瞳を見る。
「どうやら同調が出来るようになったようだが、ソウマ自分の魂を感じられるか?」
「はい? えーと、今は何も感じないですね‥‥‥」
僕がそう答えるとリュードさんはセキさんを見る。
セキさんは頷いてからぼさぼさの髪の毛を手ぐしで整えながらこちらにやって来る。
そして瞳を金色に輝かせ僕を覗き込む。
「うん、大丈夫みたい。暴走はしてないようね? まあエルハイミ母さんが与えていった心臓が有るから大丈夫でしょう?」
「なら、いいんだがな‥‥‥」
リュードさんはほっとして僕から手を離す。
「ちょっとおっさんどう言う事よ?」
「ソウマ君がどうかしたのですのセキ?」
ミーニャもエマ―ジェリアさんも首を傾げリュードさんとセキさんに聞く。
リュードさんはセキさんを見てから頷く。
するとセキさんはゆっくりと話し始める。
「いい事ソウマ。「同調」ってのは自分の魂と体の結びつきを強くすることによって破格の力を発揮できる技って事は理解しているわよね? もしその魂が女神様由来や大きな器を持っているとそこからあふれ出す魔力が体を構成しているマナに作用して物理的にも魔力的にも絶大な力を発揮するわ」
そこまで言ってセキさんはエマ―ジェリアさんやミーニャを見る。
「もともと魔法を使う者や魔王なんて魂に覚醒した者は魔力の根源である魂と現世での肉体とのつながりが明確になり無意識にそれを制御できるわ。でもソウマみたいに魂はそこそこ鍛えられていても同調してその魂からくる魔力がそれほどでもないと英雄の様な爆発的な力が発揮できない。そういう人はやってることは同じでも『心眼』と言う状態でマナに連なる魔力の流れを見ることが出来る。だからそれを先読みしたりその流れの弱い所を断ち切ったりして英雄に準じる力を発揮できるの」
「つまり、ソウマ君ってその『同調』ってのが出来てもあたしたち程力が出せないって事? そうなのセキちゃん?」
「私も『同調』が出来ていたと言うのですの?」
「まあ、そう言う事ね。で、問題は今のソウマなんだけど。本来は修練で獲得できる『同調』もしくは『心眼』だけど十分に修練されてその感覚がつかめないままいきなり『同調』すると暴走を起こし魂から全ての魔素を吐き出し魔力にして体であるマナに吹き出し魂ごと破滅する場合が有るらしいのよ」
セキさんのその言葉に僕もミーニャもエマ―ジェリアさんも思わず絶句する。
「え”っ!? じゃ、じゃあ僕ってもしかしたら死んじゃうところだったんですか!?」
「うーん、ただエルハイミ母さんの置き土産、その新しい心臓のお陰でそれは問題無いみたいね。爆発的に魔力を発揮できるみたいだから魂からの魔力が不足してもそれが補っている。逆に魂から吐き出す魔力を制御出来ているみたいね」
言いながらエマ―ジェリアさんもみる。
「エマは普通に魔法を使う時に今まで以上に早く、そして強力に出来るでしょうね。その心臓は更に魔力の供給を手伝っているわ」
「私の新しい心臓が‥‥‥」
「ちっ、お姉さまったら余計な事を。どうせならあたしの魔王の魂のつながりも切らないでもらいたかったのに!」
セキさんの言葉にエマ―ジェリアさんは自分の胸に手を当て瞳を閉じて感謝のお祈りをしている。
ミーニャは心底不機嫌そうだったけど僕を見て安心した表情になる。
「あー、なんかソウマたちといるとほんと俺が目立たなくなるなぁ。結局ここにいる全員『同調』が出来るようになっちまったし」
リュードさんがそう言って腕を組んでため息をついているとアイミがやって来てリュードさんの肩を叩く。
ぴこぴこ~。
「何言ってるか分かんねえが、慰めならよしてくれ!」
「あ~、アイミは向こうにもっと果物有るから取り行こうって言ってるのよ?」
セキさんがアイミの通訳をするとリュードさんはさらに肩を落として文句を言う。
「俺の存在そんなモノかよ!? はぁ~‥‥‥」
そんなリュードさんの様子を見て思わず笑ってしまう僕。
でも僕にも『同調』が出来るようになった。
「なんかソウマ君ちょっとたくましくなったよね?」
そう言ってミーニャが腕に抱き着いてくる。
「当たりあえですわ! ソウマ君は私たちとずっと鍛錬をして来たのですからね!」
さらにそう言いながらエマ―ジェリアさんも僕の腕に抱き着いてくる。
「まあ、直接鍛えてたのはあたしたちだけどね?」
最後にセキさんまで後ろから僕に抱き着いて来てその大きな胸を頭の上に載せて来る。
そして始まるミーニャとエマ―ジェリアさんの口喧嘩。
そんな様子をカラカラと楽しそうに笑っているセキさん。
姉さんやシェルさんがいなくなっちゃったけどまだまだ騒がしい旅は続きそうだ。
僕はセキさんの重い胸を頭に載せながらそう思うのだった。
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