第148話7-3野営


 姉さんとシェルさんがいなくなったことで僕たちはいきなり窮地に立たされていた。



 「ったく、何だよセキの奴いきなり飛び出して行って!」


 「でもリュードさん、姉さんたちがいなくなっちゃったから食料も何もなくなっちゃって僕たちだってこの先どうしたらいいか‥‥‥」


 やはり姉さんの存在は偉大だった。

 なんだかんだ言いながら姉さんは僕の面倒を見てくれていた。

 食事だって、寝袋だって、着替えだって。


 「とにかく今持ち合わせている物を確認ですわ。何が有って何が不足かを把握しなければこの先旅を続ける事は難しいですわ」


 エマ―ジェリアさんはそう言いながら自分の持っている物を引っ張り出す。

 しかし小銭が少しとエマ―ジェリアさんが使っている香りのよいコロンとかそう言ったものくらいしかない。


 僕も同じく手持ちの物を引っ張り出してみるけど、小銭の入った袋やすぐに使うようなモノばかり。


 ミーニャに至ってはあのぴちぴちの皮で出来たやたらと肌があらわになった服にマントを羽織ったままだから何か持っているとは思えない。



 「これだけですの‥‥‥ 鍋や他の物まで全部シェル様のポーチの中でしたのね‥‥‥」



 うーん、エマ―ジェリアさんの言う通りこれじゃぁ料理すらできない。



 「ったく、しょうがねえなぁ。お前ら馬車降りて手伝え。野宿する準備するからよ」


 リュードさんはそう言って馬車を街道の端の方へ行かせて野宿できそうな木の下まで行く。


 馬を馬車から離し、木の幹に縛って積んでいた桶に【水生成魔法】で水を汲んでやって与える。

 近くの草を剣で切って馬の為の食事を準備してから僕たちに手ごろな石を探すように指示をする。



 僕たちは言われた通りに石とかを探して来てリュードさんに手渡すとてきぱきと焚火の準備をしながら近くの木の枝を切り落とす。



 「何も無い時はこうして暖を取りながら木の枝を切り落として寝床を作るんだよ。木の葉を見て虫喰われが少なかったり、匂いの強いやつは大抵虫よけにもなる。そいつを地面に敷いてそのうえで寝れば下からの寒さも何とかなるからな」



 言いながらまた近くの草木を見渡す。

 そして大きなはっぱを見つけるとそれを採って来てまた【水生成魔法】で奇麗にしてから乾かす。



 「こう言った葉っぱは皿にもなるし、肉とか包んで焚火の下の土に埋めると熱で蒸し焼きになる。この岩塩を砕いて振りかければとりあえず食える味にはなるだろう」


 そう言って懐からピンク色の石を引っ張り出して、少しそれを割ったかと思うと奇麗にした石と石ですりつぶす。

 

 「んで、後は食いモンだが肉はセキが取って来るだろうな。だから俺たちは薬草や木の実、果物なんかあればそれを取って来るか」


 言いながらリュードさんはまた近くの茂みを見渡す。

 そしていくつかの木の葉っぱや草を摘んできて見せてくれる。


 「こいつとこいつは香りが強いから肉と一緒に使うと良いだろう。 この草は湯がいてあく抜きすれば癖も少なく喰いやすい。煮物に入れてもいいかもな」


 「リュードさん、よくいろいろ知ってますね?」


 思わず感嘆してそう言うとちょっとうれしそうにリュードさんは言う。


 「まあ、主を探してあちこち放浪しているとな、こう言った野宿も多い。それ相応には出来ないと悲惨だからな」


 言いながら今度は同調をして近くに有った石を剣で切り裂く。


 

 ざんっ!

 

 かっ、かかかかかかかかかかっ!!


 

 ある程度の大きさに外周を切り刻んでから真ん中に目にも止まらない速さで突きを入れる。

 まるで啄木鳥のように。



 「うっし、こんなもんかな?」

 

 そう言って持ってきたその石は何と石の器になっていた。

 リュードさんはこれも水で奇麗に洗ってから焚火の側に持って行ってその中に【水生成魔法】を唱えていれる。

 

 「これでお湯も沸かせるだろ? 後はこの岩塩と薬草を入れて煮込めばちょっとしたスープにもなる。その辺の木の枝から器とかスプーンでも作ればいいだろう」


 「ふん、おっさんの割にはまあまあ役に立つわね。木で器とスプーンを作ればいいのね?」


 そう言ってミーニャは目の前の木の枝を睨む。

 片手を上げてちょっと光らせるといきなりその木の枝が落ちて来て輪切りになる。

 ミーニャはそれを片手に取りもう一度手を光らせるとえぐるかのように真ん中がつるりとはがれて落ちて来る。


 「こんなモノかな? 空間をずらしてぶった切ったけどまあまあの出来ね」


 ミーニャはそれを僕に手渡してくれる。

 見れば輪切りの真ん中にくぼみが出来ていて確かにこれならスープとか入れられる。


 ミーニャは何だかんだ言ってみんなの分も作ってからふとそのくぼみを眺め動きが止まる。



 「えーと、リリス、ソーシャ。食べれる物なんか作って!」


 『ええっ!? あたしら人間の食い物なんか作れないですよ?』


 『確かにお酌程度は出来ますが人間の食べ物は作った事が有りませんね』



 そう言えばミーニャって料理できなかったよな?

 じゃあ今までは食事どうしていたんだろう??



 「ここは私の出番ですわね! リュードさんその岩塩をすりつぶしたものをくださいですわ」



 エマ―ジェリアさんはそう言って腰からナイフを取り出し手際よく薬草とか岩塩を入れながらスープを作り始める。



 「おおっ! もうご飯の準備始めているの? よっし、こいつも早いところ解体しちゃおうか!!」



 声のした方を見ればセキさんが自分より大きなイノシシを担いで戻って来ていた。

 セキさんはそれを向こうで爪を伸ばしスパスパと切り刻んで解体していく。


 ちょっとビジュアル的にはあれだけど、流石にセキさんは捌き慣れているようでどんどんと解体をして行く。



 「ああ、セキ少しその辺のお肉とかもくださいですわ。スープに入れて出汁にしますわ」


 「了解、こんなもんで良いかな?」

 

 セキさんは言いながら骨のついた肉の塊をよこして来る。

 エマ―ジェリアさんは器用にそれを細かくして石の器に入れていく。

 やがてそれはぐつぐつと煮えだし、エマ―ジェリアさんはあくを取りながら香りの強い薬草も刻んで入れていく。

 しばらくするといい匂いが漂い始める。



 「んじゃ、セキよその肉は蒸し焼きにでもするか?」


 「ん? いいけど骨付き肉で焼いたのも食べたい!」


 セキさんは何だかんだ言ってあの大きなイノシシをあっさりと解体していくつもの肉塊を持って来ている。

 リュードさんはいくつかの肉をあの葉っぱに入れて塩を振り包み焼にする。

 セキさんは焚火の上に骨付き肉を木の枝で作った台に乗せて廻し焼きを始める。


 いい匂いがし始め僕のお腹が鳴る。



 「さあ出来た。とりあえずは飯だ。あとのことは喰ってから考えようか!」



 リュードさんはそう言いながらみんなに出来上がった包み焼の肉を切り分けていくのだった。 

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