第147話7-2東へ
「さてと、流石にもう『魔王』の力が無いからなぁ。この城はこのままでも良いか」
ミーニャはそう言って僕たちと城を出る。
そしてこの魔族の町には解放された魔族の人たちが動きだしいていた。
「お、おいソウマ。これってまずく無いか?」
「ソウマ君‥‥‥」
城を出て真っ先にリュードさんやエマ―ジェリアさんが唸る。
魔族の人たちは魔王城から出てきた僕たちを見ているからだ。
特にその先頭にいるミーニャを。
「ふん、なに? あたしに仕返しでもするつもり?」
『あ、あのミーニャ様、もう軍隊いない事ですし‥‥‥』
『あんなにいたんじゃ相手できないわよ?』
ソーシャさんもリリスさんも一応はミーニャの前に出るけど、そう言えばもう魔王軍の人たちってエルハイミねーちゃんに強制的に元の世界に返されちゃっていないんだっけ?
「だとしてもこんな連中あたし一人で十分よ! さあ誰からかかって来るの!?」
「ミーニャ! 駄目だよ!!」
がしっ!
慌てて魔族の皆さんを威嚇するミーニャを後ろから羽交い絞めにする。
「ちょっと、ソウマ君!? これじゃぁ、あいつらの相手できないじゃ無いの!?」
「そうじゃなくて、ああ、魔族の皆さんごめんなさい! もうミーニャにはよく言い聞かせておくので勘弁してやってください!!」
僕は羽交い絞めしながらも皆さんにぺこぺこと頭を下げ謝っていると、徐々に魔族の人たちは踵を返してこの場からいなくなっていった。
「何あれ? 魔族って結構聞き分けが有るのかしら?」
「どうでしょう? シェル様の話ですと何世代も過ぎて穏便な性格になっていると言っていましたが‥‥‥」
セキさんも一応は構えていたけどそれを解いて首をかしげる。
エマ―ジェリアさんが言う様に魔族の皆さんって穏便なのだろうか?
「ふん、相変わらずね。あんな覇気のない連中『世界の壁』で動けなくしてやったけどもうそれも出来ないかぁ‥‥‥」
「どう言う事、ミーニャ?」
羽交い絞めにされているミーニャはふんっと鼻を鳴らして話始める。
「魔族って言うのがいるって聞いたから配下にでもしようと思ってここへ来たのは良いけど、どいつもこいつも覇気がなくて温和すぎて全然役に立ちそうになかったのよ。だから『世界の壁』で動きを止めてたのよ」
「えーと、つまり魔族の人ってミーニャに動き止められていて今まで何が起こっていたか良く分かっていないと?」
僕に言われミーニャはしばし沈黙。
リリスさんたちを見て首をかしげる。
『魔王様‥‥‥じゃ無かった、ミーニャ‥‥‥様はここへ来てすぐにあいつらとろくに交渉せずに『覇気がないから子分にしてもつまらない』とか言って一気にあいつら固めちゃったじゃないですか。そんでもってあたしらに邪魔だから一所へ片づけとけって‥‥‥』
「えーと、そうだっけ?」
あー、ミーニャったらまたやらかしたか。
昔っからそうだけど言い出したはいいもののあっさりと自分のやった事忘れたりしてたもんなぁ。
かくれんぼで遊んでても自分が鬼になって面倒だと先に帰っちゃうし。
「だが面倒事は少ない方が助かる。とにかくこの町を出ようぜソウマ!」
「そうね、ソウマ。まずは東に向かおう。確か此処を東に進めば港町が有ってそこから船でイージム大陸に渡れたはずだから」
リュードさんもセキさんもそう言って歩き出す。
確かに魔族の皆さんがこれ以上ミーニャに対して何も言わないのであればこれ幸い。
僕はみんなに付いて行って壁まで来てからもう一度魔族の皆さんに対してぺこりと頭を下げてからここを後にするのだった。
* * * * *
「ところでセキさん、その黒龍さんってエルハイミねーちゃんの子供産んだんですよね?」
「ええ、そうよ。そう聞いてる」
東に向かって馬車に乗ってその先を見ながら僕はふとその黒龍さんの事を思い出す。
確かシェルさんやセキさんの話だとセキさんと同じく太古の竜なんだけどエルハイミねーちゃんの伴侶になっているとか。
昔の記憶は戻ってないけど、なんかぴんと来ない。
「相手はこの赤竜と同じなんだろ? 女神様ってのはホント幅広く手ぇ出してるなぁ」
リュードさんはそう言いながら馭者の席からすぐ後ろにいた僕の肩に腕を回して来る。
「ちょっとあんた、あたしのソウマ君に何なれなれしくしているのよ!?」
「誰があなたのですの! ソウマ君には私の事、責任とってもらうんですからね!!」
ぴこぴこ~?
「うん、エマもとうとう自分の気持ちに正直になったって事よ、アイミもそう言ってたじゃない?」
ミーニャがリュードさんの手を払い除け文句を言うとなぜかエマ―ジェリアさんもミーニャに絡む。
僕が責任とるってどう言う事か良く分からないけど、後ろではアイミとセキさんが何やら話し込んでいる様だった。
「でもその黒龍さんって僕たちに協力してくれるのかな‥‥‥」
「ん? 大丈夫じゃないの? コクってああ見えても困っていると結構手助けしてくれるからね。それにコクの分のエルハイミ母さんはちゃんとコクと一緒にいるはずだし、本体の母さんの件は別問題になっていると思うからね」
あっけらかんとそう言いながらセキさんは自分の胸元とか腰回りをまさぐり始める。
「あ、あれ? ああ、そうか干し肉とかはもう食べきっちゃって後はフェンリルのポーチに‥‥‥」
「そう言えば、私たちの物資もシェル様のポーチにでしたわね‥‥‥」
「え? と言う事は‥‥‥」
セキさんもエマ―ジェリアさんも僕も顔を見合わせる。
そして大事な事を思い出す。
「しまったぁ! 重要なものは全部姉さんとシェルさんの手元だったぁ!!」
「え、ええっ! じゃあ骨付き肉とかすぐに食べられないの!?」
「シェル様に今まで全て頼っていましたが、神殿からは持ち合わせもほとんど持って来ていませんわ!」
思わず頭を抱える僕たち。
「ん? どうしたってんだよ?」
「リュードさん! どうしよう!? 姉さんとシェルさんがいきなりいなくなったから旅に必要な物とかほとんどなくなっちゃったよ!!」
慌ててリュードさんにそう言うモノの、リュードさんは顎に手を当てしばし考える。
「ソウマだけなら俺が何とかするけどな。その代わり‥‥‥ぐへへへへ」
「何良からぬこと考えてんのよこのおっさんは! ソウマ君の分はあたしが何とかするわ! リリス、ソーシャ! 何とかしなさい!!」
『ええっ!? ミーニャ‥‥‥様、そんな無茶な事言われても!』
『そうですねぇ、人の多い所でしたら好い夢見せた対価に少し都合してもらうんですけど、今の私たちの能力ですとミーニャ様を気持ちよくする事くらいしか出来ませんねぇ~、はぁはぁ』
リリスさんはミーニャの命令にげんなりしてるし、ソーシャさんはなぜか赤い顔してミーニャを見ながらはぁはぁ言ってる。
「狩りよ‥‥‥ 骨付き肉食べる為には狩りよ!!」
セキさんはそう言ってリュードさんの首根っこを掴んで揺さぶる。
「うわっ! 何しやがる!? あぶねえじゃねーか!!」
「いいから馬車止めて! ソウマ、とにかく今日はすぐにでもここで狩りよ!! 骨付き肉ぅ!!」
言いながら馬車を止めたセキさんはその場から飛び出して森の中に姿を消して行った。
「とにかく、今あるモノを再確認とこれからの路銀をどうするか考えましょうですわ‥‥‥」
セキさんの後姿を見ながらエマ―ジェリアさんがそうぽつりと言うのだった。
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