第114話5-15お部屋


 「納得いかないっ!」



 姉さんはくじ引きのそれを見ながらわなわなと震える。


 「そ、それで誰がソウマ君と一緒ですの?」


 エマ―ジェリアさんも外れのくじを見ながらほっとしたような残念そうな複雑な顔をしている。


 「なんだよこりゃぁ」


 リュードさんも外れのくじだった。


 「ありゃ? じゃあ残ったこれが当たりか? あたしがソウマと一緒の部屋になるって事?」


 そう言って最後のくじを見ると‥‥‥



 「あれ?」



 そこには何の印も無いくじが有った。



 「セキなんですのこれは!」


 「これじゃあ無効よ、無効!!」


 「なんだよ、じゃあさ、やっぱりシェルの言った通りで良いじゃん?」



 みんなほっとすると同時に一斉に文句を言い始める。

 そんな中セキさんだけは頭の後ろをポリポリと掻いている。


 「ん~、色落ちたかな? でもさ、くじの先に傷つけてあるからそれでペアになるようにしたんだよね~」


 そう言って自分のくじを見せると確かに下の方に傷が二本線入っている。

 それを見るとみんなも慌てて自分のくじを見る。



 「一本千ですわ」


 「こっちも一本千ね?」


 「なんだこりゃ二本線か?」



 「ん~という事は、ソウマはシェルと一緒って事か?」



 自分のくじをつまみあげて目線でくるくると遊んでいるセキさんは当たり前のように言う。




 「「「!?」」」




 途端に驚くみんな。



 「あの、姉さんがシェルさんと一緒なんじゃないんですか?」


 「良いじゃない、ソウマがシェルと一緒で。どうせ寝るだけだし。それよりリュード、いい機会だから飲み比べでもしない?」



 セキさんはカラカラと笑っている。


 「冗談じゃねえ、どうせあんたもシェル同様底なしなんだろう!? それに俺は女なんぞに興味はねえ!」


 脂汗をかくリュードさん。



 「そうすると私がフェンリルさんと一緒という事ですの?」


 「そんなっ! ソウマがお姉ちゃんから離れるだなんて!!」



 エマ―ジェリアさんが姉さんを見ながら軽いため息をつく。

 しかし姉さんは僕に抱き付きその胸に顔を押し付ける。



 「ぶっ! やめて姉さん苦しい!!」


 「もう、ソウマはお姉ちゃんと離れても良いの!? ソウマのいけずぅっ!」



 食事中という事もあり僕は何とか姉さんから逃げ出す。

 そしてセキさんを見ると楽しそうに骨付き肉にかじりついて僕たちを見ている。


 と、暗くなった町に鐘の音が鳴りひびく。

 すると周りにいたこの町の住民は一斉に立ち上がりお代をテーブルにおいてすたすたと出口に向かう。



 「なんだこりゃ? 住民が一斉に」



 『ああ、お客さんは初めてだから知らないか? 俺たちモルンの住民は鐘の音で時間を決めて行動するんだ。もう帰宅しろって合図の鐘だな。うちもそろそろ片付け始めるからオーダーストップだよ』


 リュードさんの疑問にそう言って店の悪魔融合している人たちは黙々とテーブルのお皿を片付け始める。

 その光景は異様で、まるで機械人形のようだった。



 「やっぱり普通じゃ無いわね‥‥‥」


 「まるで鐘の音に操られているみたいですわ」


 「人に近いとは言えこれじゃなぁ‥‥‥」



 ぱきっ!



 セキさんは骨付き肉の骨をかじり噛み砕く。


 「捕らわれた者の気持ちはそうなってみなければわからない。結局ここの連中は籠の中の鳥って事ね‥‥‥」


 そう言って席を立ちあがる。



 「お開きね。部屋に戻りましょう」


 セキさんはそう言うのだった。




 * * * * *



 「ソウマぁ~」


 「ん、お休み姉さん」



 パタン。



 僕は何だかんだ言ってセキさんに無理矢理シェルさんの部屋で寝るように言われた。

 エマ―ジェリアさんも姉さんも文句言いながらもセキさんに同じ部屋に押し込められ、涙目のリュードさんはお酒の瓶を持ち込んだセキさんに連れられて「ソウマぁーっ!!」とか叫び声を放ちながら扉の向こうへと行く。


 みんなが部屋に入っていき僕は仕方なくシェルさんの眠る部屋に行く。


 

 「お邪魔します」


 一応そう言って部屋に入るとシェルさんが気持ちよさそうに寝ている。

 が、上掛けがはがれて床に落ちている。

 


 思っていたより寝相が悪いのかな?



 僕はそう思いながらとりあえずシェルさんの上掛けを床から持ち上げかけ直してあげる。



 「ぅうぅぅ~ん‥‥‥」


 「シェルさんかなり疲れているんだろうなぁ‥‥‥ って! ぶっ!?」



 僕が上掛けをかけてあげるとシェルさんはいきなり僕をその両手で引き寄せ大きな胸に頭を押さえつける。



 「むぐぐぐぅっ! シェ、シェルさん!?」


 「ぅうぅぅ~ん、あなたぁ~早く子作りしようよぉ~♡ コクだけ子供産むなんてずるいぃ~ 私も子供欲しいぃ~♡」



 寝ぼけてる?

 まるで姉さんに抱きしめられているかのようにシェルさんの胸でもがく僕。



 「ぶはっ! シェルさん、僕ですソウマです! 放してぇ!」 


 「うぅ~ん、にがさなぁぃ~」


 「わぁっ!?」



 むちゅぅ~っ!



 シェルさんは逃げ出そうと僕を更にしっかりと押さえたかと思ったらベッドに引き寄せ押し倒し口づけをしてくる。



 「むぐぐぅううぅっ!」



 なにこれ?

 シェルさんが僕にキスしてきた!

 それになんか甘い匂いと清々しい味がする‥‥‥



 「ぅうぅ~ん、あなたぁ~♡」



 ぷはっ!



 やっとキスから解放される。

 でも何なんだろう?

 ものすごくうれしくて、そして森の香りに甘い味。

 姉さんとは全く違う、姉さん意外と初めてしたキス。



 僕はその驚きに頭がくらくらしてきた。



 「‥‥‥ん? あ、あれ? ソウマ??」


 「はぁはぁ、シェ、シェルさぁ~んッ!!」



 何故か涙目になってしまう僕。

 そんな僕にシェルさんは瞳をぱちくりとさせしばし硬直。



 「え、ええぇとぉぉ‥‥‥」


 「シェルさん、僕です、ソウマですぅ~。ね、姉さんじゃ無いんだからいきなりキスとかしないでぇ~」



 何故か押し倒された勢いで胸元の服もはだけている。



 

 ばんっ!




 「ソウマ、お姉ちゃんやっぱりソウマが良い!」


 「フェンリルさん、だからシェル様に限ってソウマ君を襲うよ う なぁ‥‥‥ こと、無いですわよねぇっ!!!?」


 

 いきなり姉さんとエマ―ジェリアさんが部屋に入って来た。

 そしてベッドに押し倒され服がはだけている僕の上でシェルさんが覆いかぶさっているのを見て硬直する二人。




 「シェ、シェル‥‥‥ 私のソウマに何しているのよ?」




 「シェル様!? ソウマ君のお姉さんキラーがとうとうシェル様にまで!? ソウマ君の裏切り者ぉ! 酷いですわぁっ!!」




 ゆっくりとなぎなたソードを引き抜く姉さん。

 真赤になって涙をぼろぼろと流して僕だけ罵倒するエマ―ジェリアさん。



 「ちょっ! これは誤解よ!! なんでソウマが私のベッドに!?」


 「だ、だってぇ~、シェルさんがいきなり抱き着いて来て僕を押し倒してキスしてくるからぁ~」



 ちょっと涙目になってしまう僕。

 驚いたのでまだ混乱している。




 「お、押し倒したのですのぉ!?」




 「キ、キスぅ~!? シェルぅっ!!」




 「わっ! 違う、誤解よ誤解!! わっ! フェンリルそれ危ないっ!!」



 

 僕の胸下を引っ張てベッドの上に半身おこして揺さぶるエマ―ジェリアさん。

 シェルさんになぎなたソードで切り掛かる姉さん。



 「なに? 騒がしいわね?」


 「うっぷっ、もう飲めねぇ‥‥‥」


 

 騒ぎにセキさんやリュードさんまで来た。




 「シェルそこに直れぇ! その首叩き切ってくれる!!」



 「ちょっ! 危ないっ! 落ち着けフェンリルぅっ!!」






 この狭い宿の部屋で僕たちは大騒ぎを起こすのだった。


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