第108話5-9モルンの町


 僕たちは急いで馬車に乗りエリモアの街を離れていた。



 「流石に門ごと奇麗に吹き飛ばしちまえば目立つからな。早いところずらかるに越したことは無い!!」



 リュードさんはそう言いながら馭者の席に座り手綱を握っている。

 アイミもすぐに姉さんのポーチにしまわれみんなして荷台に座っている。


 遠くからギグナスさんたちが見送っていたのは気づいていたけど何故かほっとした感じでいた。


 無事エリモアから出発できたので安心しているのかな?

 でもなんで遠目でもわかる程額に汗をびっしりと浮かべていたんだろうか?



 「フェンリル、あの力は使わないでと言っていたのに」


 「でもシェル、ソウマが危機だったのよ? 仕方ないじゃない‥‥‥」


 シェルさんに指摘されいまだに僕に抱き着いている姉さんは声を小さく答える。

 そんな姉さんにシェルさんはため息をついて「まあ、あの時はお陰様で助かったけど」とか言いながら周りの様子を見る。


 既に門が有った所を抜け、東に向かう街道にいた。

 この街道を行けばモルンという町に着くそうだ。

 そしてモルンをさらに東に進むと元ルド王国という場所があるらしい。

 話に聞くところによるとミーニャのいる魔王城はそこにあるらしい。


 僕は黙ったままの姉さんに言う。



 「姉さん、僕はもう大丈夫だから。それより聞いたよ、あの『赤の騎士』の力を何度も使うと姉さんの命が危ないって。命を削る程のものだって聞いたよ? 姉さん、僕だって強くなっている。だから無理をしないで‥‥‥」


 「ソウマ‥‥‥」



 姉さんは抱き着く力を一瞬強くしてから僕から離れる。



 「ソウマもちゃんと強くなっているのね。お姉ちゃんちょっと驚いた」


 「なんだよそれ? 僕だって毎日姉さんたちに鍛えられているんだもの、ちゃんと強くなっているよ!」


 僕がそう言うと姉さんは優しく笑った。

 そして頭に手を載せ撫でる。


 「うん、分かってる。ソウマはお姉ちゃんが立派な男にするんだもの」



 「フェ、フェンリルさん! 姉弟ですわよ? 禁断ですわよ!?」



 何故か今まで黙っていたエマ―ジェリアさんが真っ赤になってバタバタと両手を振る。

 


 「エマ、そんなに気になるならエマがソウマを男にしちゃえば?」



 セキさんは何処からか取り出した骨付き肉を食べながらエマ―ジェリアさんにそう言う。

 途端に姉さんが髪の毛逆立て僕にまた抱き着いてくる。



 「だめっ! ソウマは私が男にするのだから、エマ―ジェリアさんにはソウマの初めては渡さないわ!!」



 「わ、私はそんなことしませんわぁっ! わ、私がソウマ君を男にするだなんて! 私だってまだ乙女ですのよ!? そ、そんな事良く分からないですわよ!!」



 慌てふためき更に顔を真っ赤にして手をバタバタ振るエマ―ジェリアさんを見てセキさんはカラカラと笑う。



 「なんだ、ソウマってまだなんか‥‥‥ だったら俺が初めてでも良いよな?」


 「あんたは余計な事言ってないでちゃんと馬車を走らせなさいってば。それにフェンリルがそんなこと許すと思って?」



 なんかリュードさんもシェルさんと変な話をしている?

 僕はため息をつきながら後ろを振り返り、もう見えなくなってしまったエリモアを思い出す。


 あの後の処理って大変だろうなぁ~とか思いながら。



 * * * * *



 「ソウマ、ちょっといい?」


 「はい? 大丈夫ですけど何ですセキさん?」



 夕暮れ時になり野宿の準備をしているとセキさんが僕の所に来た。

 薪を置いてセキさんに呼ばれシェルさんと姉さんが稽古をつけている様子を見る。

 シェルさんが作り上げる岩の巨人を姉さんはスパスパと切り刻んでいたり、精霊魔法の竜巻をガレント流剣技で切り飛ばしたりと‥‥‥



 「母さんは‥‥‥ いや、フェンリルはティアナ姫だった頃の記憶を完全に思い出している。だからあの『赤い騎士』になって悪魔王を倒した。でもソウマも知ってのとおりあの力はフェンリルにとってとても危険だわ」


 「それはエマ―ジェリアさんやシェルさんからも聞いています」



 びたんっ!



 セキさんは尻尾を地面にたたきつける。



 「だからソウマにはもっと強くなってもらわなきゃいけない。フェンリルがもうあの力を使わないように」


 「セキさん?」



 セキさんはそう言いながら僕を見る。

 そして僕の頬に手を添える。



 「ふふっ、前の時とは全然違うね? あの時は私に求婚して来たって言うのに‥‥‥」


 「ぜ、前世の僕がですか? まったく、恥ずかしいな、僕ってやつは!」


 するとセキさんは笑いながら言う。


 「そんなことは無いよ? 前世のソウマは立派な男性だった。ずっと神殿で一人でつまらなかった私に何度も求婚してきたんだよ? でもね、その時の男性がジルの魂を持っているって知っていてもあの時はうれしかったんだ。そしてまた会えたソウマは今度はこんなちっちゃな男の子なんだもんね‥‥‥」


 「セキさん?」


 セキさんは僕の頬から手を放してぐっと強く握る。



 「あたしソウマのこと好きよ。だからソウマにはもっと強くなってもらう。あたしが『同調』を教えてあげる!」



 セキさんはそう言って僕に手を差し伸べる。

 僕はハッとなる。

 リュードさんも姉さんも使える技「同調」。


 魂と体の結びつきを完璧にして魂からくる力をダイレクトに発揮する技。

 もし僕にもそれが出来れば姉さんにこれ以上迷惑をかける事無く自分の身くらい自分でちゃんと守れる。

 それにもしかしたらガレント流剣技の最終型まで使えるようになるかもしれない。

 

 僕はセキさんの手を取ってお願いをする。



 「お願いします!」


 

 そして姉さんとシェルさんの稽古が終わったその場に向かうのだった。 


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