第30話2-9エルフの村


 「ようこそ、私は精霊都市ユグリアの市長を務めるファイナスと言います」



 そのエルフの女性はそう言って優しげな微笑みをする。

 見た感じシェルさんと大して変わらないような年齢に見える。


 「お初にお目にかかりますわ。女神教総本山のエマ―ジェリアと申しますわ」


 エマ―ジェリアさんはそう言って優雅にお辞儀をする。

 それを見て僕たちも慌てて挨拶をする。


 「フェンリルと言います」


 「ぼ、僕はソウマと言います。よろしくお願いします」


 今度は姉さんも僕も手を出さずに軽くお辞儀をする。

 するとファイナス市長はにっこりとほほ笑んで頷く。



 「女神教のエマ―ジェリアさんに、フェンリルさん、ソウマ君ですね? ようこそユグリアへ。まずはお掛けなさい」



 そう言って僕たちにソファーに座るように勧めてくれる。


 「シェルにセキ、あなたたちも久しぶりです。変わりは有りませんか?」


 「はい、ファイナス長老」


 「久しぶり、あたしも元気だよ」


 シェルさんにしては何となくおしとやかにしているけどセキさんは相変わらずだな。

 それでもファイナス市長は特に気にしたようでも無く僕たちにお茶を進める。



 あ、このお茶ボヘーミャのとは違ってまた変わった味だな。

 一緒に出されたお茶請けのお菓子も食べた事の無いようなものだった。



 「さて、シェル。どう言う事か説明してもらえますか?」


 「ぎくっ! い、いや、そのほら、あれですよあれ! 気付いたらもう覚醒していて慌てて行ったら北で被害がもう出ちゃって‥‥‥」


 脂汗をだらだらと流しながらシェルさんはファイナス市長に説明を始める。

 そしてその話を聞いていたファイナス市長に変化が訪れた。



 ギロッ!



 笑っているけど目だけは笑っていない。

 僕でもはっきりと分かるほどお怒りのご様子。


 シェルさんは更に汗をだらだらと流してフェンリル姉さんを引っ張る。



 「だ、だから早い所『魔王』を封じ込める為に彼女を探していたんです! 彼女ならアイミも使えるし記憶は戻っていないけど既に同調出来る所までユカに鍛えてもらってます!!」



 ファイナス市長は姉さんを見てシェルさんを見てから聞く。


 「すると彼女が転生者なのですか?」


 シェルさんはこくこくと頷く。


 「あの、前から気になっているんですが思い出していないとか転生者とか一体何の話なんですか?」


 姉さんは眉間にしわを寄せながら聞く。

 ファイナス市長はシェルさんとセキさんを見てから頷き姉さんに向かい合う。



 「フェンリルさんでしたね。実はあなたは今の女神と深いかかわりのある人物なのです。あなたは彼女の大切な人の転生者なのですよ」



 「はい??」



 いきなりそんな事を言われて姉さんは目をぱちくりとする。


 「正直なところ、今はまだはっきりとは言えないのですが今言った事は心の片隅にでも覚えておいてください。もしあなたが思い出したとすればその時には以前の貴女として今の人生を過ごすか、それとも今の貴女としてこの人生を過ごすかは自由です。ただ、決して無理はしないでくださいね」


 そこまで言ってファイナス市長はお茶を一口飲む。



 「私が転生者? 思い出していない?? シェ、シェルさん、一体どう言う事ですか!?」


 姉さんに言われてシェルさんは目線を合わさない様にしながら言いにくそうに話し始める。


 「あ~、うーん、あなたは私の大切な人の伴侶だったのよ。今は女神になっちゃったけどずっと昔からあなたは何度も転生しながら彼女のもとにいたのよ。だけど今のあなたは昔を思い出していない。無理に思い出させると精神に影響が出ちゃうし最終的には今のあなたが判断してもらわなきゃいけないのよ」


 「あー、せっかく黙っていたのに言っちゃった。じゃあたしも少しはいいよね?」


 「セキ、本当にフェンリルさんがそうなのですわ?」



 セキさんもエマ―ジェリアさんも何か知っていたようだ。

 僕は姉さんを見る。



 姉さんは周りをきょろきょろ見ながら考え込んでいる。


 「いきなりそう言われても、なにも思い出せないわ‥‥‥ シェルさんの話だと女神様と私が‥‥‥ そ、その、そう言う仲って事ですか!?」


 姉さんは青ざめながらひくひくとしてシェルさんから距離を取る。

 そしていきなり僕を抱きしめる。



 「ぶっ! ね、姉さん何いきなり抱き着いているんだよ!!」


 「だ、だってぇっ! 私はソウマが好きなの! そんな、お、女の子同士で何て!!」



 姉さんが弟離れできないのは何となく分かっていたけど、女の子同士って何っ!?

 更にぎゅ~っと抱きしめられる僕。

 姉さんの容赦ない抱擁に更に顔が姉さんの胸に埋まる。

 

 ちょっ、ちょとぉっ!!



 「むぐぐぐぐぅっ」


 「いやいやぁっ! わ、私はソウマが良いの!! そ、そんな女の子同士で何て考えられない! やだ、女神様に私って食べられちゃうの!? 操を捧げなきゃだめなの!? 初めても奪われちゃうの!? ヤダヤダぁっ!」


 

 ぐっ! 

 やばい、本気で姉さんが抱き着いている!?

 どんなにもがいてもギブアップで腕を叩いても興奮した姉さんは絶対に僕を放さない。


 あ、やばい、息が‥‥‥

 だんだんと意識も遠のいていく。



 僕は姉さんにきつく抱きしめられながら気を失うのだった。 



 * * * * *


 

 「あら、気付いたようですわ」



 僕を見下ろすかのようにエマ―ジェリアさんが見ている。

 金髪碧眼の美人さんだけどあのこめかみの横についているトゲの様な髪の毛って一体どうなっているのだろう?

 どんなに動き回ってもその癖っ毛が崩れることは無い。

 まさか骨とか入っていないよね??


 そんな事をぼうっと考えていると姉さんたちが覗き込んできた。



 「よかったぁ、ソウマ、お姉ちゃんが分かる?」


 「ソウマが気絶するなんてよっぽどね?」


 「ソウマ、まだまだ鍛え方が足らないわね、今度はあたしが稽古つけてあげるからね!」



 姉さんもシェルさんもセキさんも上からのぞき込みそう言っている。



 「ソウマ君、もう大丈夫なのですから降りてくださいですわ。全く、私に膝枕をしてもらえるなんて果報者ですわ」


 「へっ?」



 そう言えばエマ―ジェリアさんだけやたらと僕と近かった。そしてこの後頭部に感じるやわらかい温かい感触は‥‥‥



 「うわっ! ご、ごめんなさい!」



 慌てて起き上がる僕。

 どうやらエマ―ジェリアさんに膝枕してもらっていたらしい。


 「ふん、まあいいですわ。あのままでは本当にソウマ君が死んでしまう所でしたから今回は特別ですわ! シェル様、ちゃんとソウマ君を治したのですからご褒美をくださいですわ!!」


 そう言ってエマ―ジェリアさんはシェルさんに抱き着く。



 コンコン。


 ドアをノックする音がする。

 そして部屋に誰か入って来た。



 「どうだ? おお、気付いたようだな。大丈夫かソウマ君?」


 見ればあのエルフの男性でソルガさんとか言う人だった。

 そしてその後ろにソルミナさんもくっついている。



 「ソウマも大丈夫のようだし、このままエルフの村に行きましょう。まだ門限には間に合う時間だしね」


 シェルさんはそう言って僕を見る。

 確かにもう何ともない。


 「ううぅ、ソウマごめん~」


 ちょっと涙目の姉さん。

 まあいつもの事だからなぁ。


 僕は立ち上がってみる。

 うん、問題無いみたい。



 「ふむ、大丈夫のようだな。ならば行くか? 案内するぞ。ああ、それとシェル、ファイナス長老も一緒に行くと言っているからな」


 「はぁ~、仕方ないわね、分かった、分かりました!」


 大きくため息をつくシェルさん。

 どうやら僕が気絶している間に色々と話が決まったようだ。



 「それじゃ行きましょう、私たちエルフの村へ」




 そう言ってシェルさんは僕に向かって手を差し伸べるのだった。



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