第31話2-10シェルの故郷


 そこは僕たちがやって来たゲートの更に奥にあった。



 「これが村への入り口?」


 姉さんはそのツタで出来た門の様なモノを見上げていた。

 僕もその横へ行き一緒に見上げる。


 門にはいろいろな模様の様なモノが有ってとても古めかしい。

 そして扉が向こう側からこちら側へ少し閉じ始めていた。



 「門限には間に合いましたね。それでは行きましょうか。エマ―ジェリアさん、フェンリルさん、ソウマ君。この門に入ったら絶対に話をしない、はぐれない、振り向かないようにしてください。ここは外部からの侵入を防ぐための結界になっています。なのでこの門を抜け切る前に迷うと何百年も森をさまよう事となります」



 ファイナス市長はそう言ってから先頭に立って門に入って行った。


 その後をシェルさんやセキさん、ソルガさんにソルミナさん、エマ―ジェリアさんが続いていく。



 「ソ、ソウマ絶対にお姉ちゃんから離れちゃだめだからね!」

 

 「分かったから抱き着かないでよ、ほらちゃんと手をつなぐから」



 抱き着いたまま門に入ろうとする姉さんから逃げ出し手だけを握る僕。

 

 「ううぅ、ソウマのいけずぅ‥‥‥」


 ぼやく姉さんと手をつないだまま僕たちは門に入っていく。

 


 「「!!」」



 門に入って僕たちは驚いた。

 全てが黄金に輝く金色の森の世界。

 門から見えていた向こう側は普通の草木が生える森のはずだったのに門をくぐったとたんに金色に輝く世界へと変わっていた。


 思わず声が出そうになるのをぐっと我慢して前を見るとシェルさんたちが遠いような近いようなもの凄く変な感じで前にいる。


 はぐれない様に姉さんの手を引っ張って急いでみんなに追い付こうとした。


 と、いきなり視界が元の森の中に戻った。

 周りをちらっと見ると門から出てきたようだった。

 そして遠いような近いようなシェルさんたちの背中が目の前にあった。



 「うわっ!」


 危うくぶつかりそうになる僕。

 慌ててその場に立ち止まる。



 「着いたわよ。ようこそエルフの村へ!」


 くるりと振り返りシェルさんはにっこりと笑う。

 そして僕たちはまた驚く。



 「何て大きな木なんだ!」


 「ソウマあれ見て! 木の上に家が有る!!」



 そこは幻想的な世界だった。



 「ここがエルフの村なのですわね、シェル様の故郷、とてもきれいな所ですわ」


 エマ―ジェリアさんも感嘆の声をあげている。

 木漏れ日の優しい光の中木々につるされているつり橋の様な物の上にシェルさんたちと同じエルフの人たちが歩いていた。



 「さて、これからメル様たちに会いに行きます。今回の『魔王』の件を報告しなければなりませんからね。シェルたちも一緒に来てもらいますよ」



 「「「ぐッ」」」



 シェルさんも姉さんも僕も思わずうなってしまった。


 「魔王」に目覚めたミーニャが世界的にご迷惑をかけている。

 そしてその「魔王」はどうやらエルフの皆さんを恨んでいるという話だ。

 もしミーニャも昔の自分を思い出してその恨みを持ち続けているならばこちら様にも迷惑をかけてしまうかもしれない。


 これ以上皆さんに迷惑かけていたら本当に村の全体責任を問われてしまうかもしれない。

 そんな事になったら真先にミーニャを連れ戻せと言われた僕たちが長老に折檻を喰らう羽目になる。



 そ、それだけは何とか回避しなくちゃ!!



 「ううぅ、ほんと早いところ何とかしなきゃだわね‥‥‥」


 「うん、これ以上ミーニャが皆さんにご迷惑を掛けない様にしなくっちゃ‥‥‥」



 姉さんと僕は顔を見合わせひそひそと話す。

 そしてファイナス市長に連れられて村の奥へと入っていく。




 「シェル? シェルじゃない!! まぁまぁ、どうしたのいきなり帰って来るなんて!」


 いきなり声を掛けられる。

 見ればシェルさんによく似たお姉さんがこちらにやって来ていた。


 「え? 姉さんが帰って来たの?」


 更にシェルさんによく似た別のお姉さんもやって来る。

 シェルさんと三人で一緒にいると姉妹にしか見えない。



 「あら、お母さん、シャル。ただいまと言いたい所だけどごめんちょっとこれからメル様の所へ行かなきゃならないのよ」


 「あらあら、相変わらず忙しいわね? あら? ファイナス長老まで? それとこちらの方は確か赤竜の化身の方でしたね? 他にもたくさんの方がいますね?」


 「こんにちわ。二人とも相変わらずのようですね? 申し訳ないのだけどシェルを連れてメル長老に会いに行かなければならないのです。終わったらシェルをそちらに向かわせますよ」


 「あらあら、ファイナス長老わかりました。シェルがまた何かやらかしたのですね?」


 「お母さん! まるで私がいつも問題起こしているみたいじゃない!?」


 「いや、姉さんが戻ってくる時って何時も問題だらけじゃない? また何かやらかしたのね?」


 シェルさんのお母さんとどうやら妹さんはそう言って笑っている。

 シェルさんは不満顔で怒っているけど戻るたびに問題起こしていたんだ。



 「へぇ、ヒュームの男の子かぁ、君エルフの村は初めて?」


 シャルさんというエルフのお姉さんは僕に気付き話しかけてくる。

 

 「あ、どうも。ソウマって言います」


 「あたしはシャル。よろしくね! 終わったらうちに来てね」


 そう言ってにっこりと笑ってくれる。

 シェルさんに似ていて美人さん。

 思わずぽぉ~っと見とれてしまった。



 「こんにちわ、姉のフェンリルと申します!」



 そんな僕に姉さんはいきなり抱き着いてきて隠すかのようにシャルさんの前に出て挨拶をする。


 「あ、どうも、シャルです。ソウマ君のお姉さん? うん、フェンリルさんも終わったらうちに来てね」


 明るくそう言うシャルさんにフェンリル姉さんは引きつった笑顔で「ありがとうございます」と答える。



 「あ、あの、エマ―ジェリア=ルド・シーナ・ハミルトンと申しますわ! お、お母様でいらっしゃいますの!? あ、あの何時もシェル様にはお世話になっておりましてですわ!! ああっ! こんな事なら結納の品を持ってくればよかったですわぁっ!!」


 「エマ、落ち着きなさいって。シェルにはもう伴侶がいるのだから‥‥‥」


 「いえ、もらっていただけるのならそれは些細な事ですわぁ!! シェル様になら全部あげちゃいますわぁっ!!」


 

 なんかエマ―ジェリアさんが興奮している。

 セキさんはあきれ顔だけどここへは来た事が有るのかぁ。




 「あー、すまんがその辺にしておいてくれ。まずはメル様の所へ行かなければだからな」



 見かねてソルガさんがそう言う。

 ファイナス長老も頷き向こうへと歩き出す。


 僕たちはシェルさんの家族の方に挨拶してファイナス市長たちに付いて行くのだった。



 * * *


 

 「よく来たなシェル、変わりは無いか? と言うかだいぶかわいがってもらえているようじゃな?」



 着いたそこは金色に輝く大きな木の幹の下だった。

 そこには四人の女性のエルフの人たちが座っているのだけど、その中の一人はどう見ても僕と同じくらいかちょっとお姉さん?

 ミーニャと同じくらいの歳にしか見えない。

 ただ、姉さんにも負けないくらい胸が大きい。



 「メル様におかれましてはご健勝の事とお慶び申し上げます」


 「やめいやめい、そんな堅っ苦しい挨拶は抜きじゃ! それでどうしたのじゃ? ファイナスよ、シェルよ? 客人まで一緒とはの」


 どうやらこの人もちゃんと長老さんのようだ。

 僕や姉さん、エマ―ジェリアさんやセキさんはシェルさんの後ろで座って会釈する。


 

 「メル様、『魔王』が復活して世界征服する事を開始いたしました。既に北の大地、ホリゾン公国は魔王軍に占領されその影響を徐々に広げています」



 「「「う”っ!」」」



 ファイナス市長がそう報告すると思わずシェルさん、姉さん、僕は唸ってしまった。



 「ふむ、しかし『魔王』はシェルの『魂の封印』で覚醒できなかったのではないかの? 一体どう言う事じゃ?」


 「今回は出遅れたとの事でした。シェルがジル村に赴いた時には既に『魔王』は覚醒して村を出ておりました。私も渡りのエルフたちから連絡を受けた時には既にホリゾン公国は『魔王』の支配下に置かれておりました」


 ファイナス市長はそう言って深々と頭を下げる。



 「シェルよ、一体何をしていたのじゃ?」


 「よもや情緒に耽っていたのではあるまいな?」


 「まあ、その様子ではやっと女になったという事じゃろうが、ほどほどにせぬか」



 今まで黙っていた他の三人の長老さんのお姉さんたちが一斉にシェルさんに話を始める。



 「あ~、いや、その、これはですねぇ~」


 少し赤くなって額に汗を浮かべているシェルさんは後ろ頭に手を当てて言い淀んでいる。



 「それだけでかくしてもらったのだからさぞかしかわいがってもらっておるのじゃろ? まあそれは良い事じゃが、子供は出来たかの?」



 「ぶっ! メ、メル様言い方っ! い、いや、失礼しました。まだです‥‥‥」



 アワアワと焦りまくるシェルさん。


 でもちょっと待ってよ。

 シェルさんって女神様の奥さんらしいけど、女神様って女の人だよね?

 まさか実はあの悪魔みたいなの!?

 女装した男の神様なの!?



 「こ、子供って‥‥‥ シェルさんはぁ‥‥‥ な、何故かしらもの凄く腹立たしい!?」


 僕が勝手に変なこと考えていたら隣にいた姉さんは何故か苛立っている。

 なんでだろう?



 「まあ、その辺はシェルはコクに先越されちゃったわよね? コクの子も今では立派に成人したし、黒龍の癖にあたしと対等に渡り合えるんだからね!」


 今まで黙っていたセキさんが面白そうに話に割り込んでくる。



 「何っ!? あの黒龍が子供を産んでいたとな!? セキよ、そんへんもちっと詳しく聞かせるのじゃ!!」



 なんかあのちっちゃい長老さんが興奮してのめりだしてきた。



 「母さん、それ所ではないでしょう? ファイナスさん、その『魔王』はその後どうなったのですか?」



 木の幹の奥から一人の男性が出て来た。

 僕は思わずその人を見ると茶色い髪の毛で老人まではいかないけどだいぶ歳をとっている人だった。

 そしてエルフの人たち程ではないけど耳がとがっている。



 「なんじゃロンバか。良いではないか、先にこっちの話の方が面白そうじゃ」




 メル長老さんはにんまりとしてシェルさんを見るのだった。 

 


 

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