第29話2-8ソルミナ
「ん? ゲートが起動しているか? 誰が来たのだ?」
その声を聴いた僕は光のカーテンが足元へ完全に消える前に森の中に風景が変わり声の主を探す。
「兄さん!」
一緒について来ていたソルミナさんがその声の主に抱き着いて行った。
「ソルミナ? それにシェルか!? 他にもアイミまでいる!? どうした、何が有った!?」
「義姉さんと別れると聞き急ぎやってきました!」
「はぁ? お前何言ってるんだ??」
ソルミナさんはエルフの男性に抱き着いている。
何処と無くソルミナさんにも似ているような感じの奇麗な男性。
エルフって話のとおり美男美女が多いんだ。
「ソルミナ姉さん、今はそれどころじゃないわよ? ファイナス長老がお呼びだって事らしいわよ‥‥‥ ソルガ兄さん、久しぶり」
げんなりしたシェルさんはそれでもエルフの男性には挨拶をする。
ソルミナさんに抱き着かれたままのそのエルフの男性はソルミナさんの顔に手を当てどかしながらシェルさんに聞く。
「一体どうしたというのだ? お前やソルミナ、そしてアイミまでいるではないか? ん? そちらは赤竜殿か? という事は隣にいるあの方に似ている少女は聖女殿か!? それとこちらの赤髪の女性と少年は誰なんだ?」
「ああ、セキの隣はエマ―ジェリア。ソルガ兄さんは初めてだったわね? 赤髪の娘はフェンリル、そして弟のソウマよ。ジルの村から来たわ」
シェルさんの説明にそのエルフの男性は僕たちに向かって挨拶をする。
「私はソルガ、エルフの戦士長を務めている」
「お初にお目にかかりますわ。エマ―ジェリアと申しますわ」
「あ、フェンリルです」
「ソウマです、よろしくお願いします」
ぴこっ!
ソルガさんというエルフの男性は優雅に挨拶してきてくれる。
エマ―ジェリアさんも同じような挨拶をするけど姉さんと僕は思わず手を差し出し握手を求める。
ソルガさんはすぐに握手してくれたけど、ああいった優雅な挨拶の方が良かったのかな?
アイミはいつも通り片手をしゅたっとあげて挨拶している。
「それでシェルよ、どうしたというのだ?」
「エリリアのお告げよ。エルフの村に災いが起こるかもしれないって言うから様子を見に来たの。もう知っていると思うけど『魔王』が復活したわ」
「「ぐっ!」」
改めて初めて会う人にそう話されると僕も姉さんも思わず言葉に詰まる。
うん、早く何とかしなきゃいけないのは分かるけど今回はシェルさんの頼みだから聞かない訳には行かない。
「あの話は本当だったのか? 道理でファイナス長老も動き出していたわけだ」
「それでそのファイナス長老に呼び出し喰らっているのよ」
シェルさんはため息交じりにそう言っている。
するとソルガさんは頷いてついて来るように言う。
「状況は分かった、ファイナス長老に合わせよう。みんなついて来てくれ」
「あの、ソルガ兄さん義姉さんとはどうなったのです?」
ソルミナさんがおずおずと言って来る。
それをソルガさんは一瞥してニヤリと笑い言い放つ。
「いたって良好だ。先日の喧嘩も既に仲直りしている」
「はうっ!」
ソルミナさんはその場で崩れ落ちた。
「せっかくの機会だと思ったのにぃ~」
「だから言ったのに、ソルガ兄さんがマニー義姉さんと別れるはず無いって」
シェルさんに肩をポンと叩かれソルミナさんはうなだれたまま僕たちについてくるのだった。
* * * * *
まるで壁の様な大木の中を通り過ぎると眼下に緑で覆われた美しい街並みが見えて来た。
そしてその街の真ん中に立っているあちこちに緑の葉を生やしている塔に僕たちはやって来た。
「凄いですわね、これが噂に聞く『緑樹の塔』ですわね? 奇麗ですわぁ」
「そうか、エマは初めてだっけ?」
「ほんと凄いね。あんな上にまでツタが覆っている」
「うーん、何故だろう。初めて見るのに何度も来た事が有るような‥‥‥」
ぴこっ!
入ろうとしてアイミが扉につかえてじたばたしている。
「ああ、フェンリルあなたエルフのポーチ持っているでしょう? アイミをその中に入れてあげて。アイミならあの中大丈夫だから」
ぴこぴこ~
「だめだめ、ここの建物壊したらあたしが大変な目に合うから。大人しくポーチの中で待っていてね」
ぴこぉ~
耳が垂れたアイミってどことなく可愛そう。
でも入れないのじゃ仕方ない。
姉さんは自分のポーチを開いてアイミに手をつく。
「ごめんねちょっと我慢してこの中で待っててね」
ぴこ。
相槌を打ちながらアイミは大人しく姉さんのポーチに入る。
毎回思うのだけど、あの中ってほんとにどうなっているのだろうね?
アイミをポーチに入れて僕たちは塔の中に入っていく。
そしてソルガさんは受付の所で何やら話していてこちらに戻って来た。
「上で直接お会いになるそうだ。ついて来てくれ」
そう言って塔の上の階に登っていく。
僕たちもそれに付いて行く。
そして結構の階を登った頃にソルガさんは大きめの扉の前に行く。
ノックして僕たちを連れて来た事を言う。
「お入りなさい」
中から女性の声がする。
襟元を治したシェルさんがソルガさんに続いて入っていく。
僕たちも中に入ると応接間のようになっていてエルフの女性が立っていた。
「よく来ましたシェル。それと他の皆さん。私は精霊都市ユグリアの市長を務めるファイナスと言います」
シェルさんと同じくらいの年齢の女性のエルフだった。
長老と聞いていたけどずいぶんと若い人だなぁ。
そんな事を思いながら手招きされるソファーへと僕らは行くのだった。
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