まさに、泣きっ面に蜂だった(2)
実質的には不登校に
追い詰められたも
同然なんですけどね、
と自虐とも責任転嫁とも
つかない愚痴を零した。
それを聞いていた雪は
怖いくらいに顔を顰(しか)め、
柳眉を逆立てていた。
彼女のこんな顔は、
見たことがない。
さきほどかなりお怒りのようだと
思っていた高槻へ
向けられたものよりも物々しく、
そして何より痛ましげであった。
「…………あり得ない、話ですね。
雪生くんのおばあさんは
対処してくれなかったんですか?」
「いいえ。
ばぁちゃんには
このことは話してません。
心配、させたくないですから」
「……では、
それでも話していただけたのは、
それが〝終わったこと〟
だから、でしょうか」
「っ……そう、ですね。
諦めてるんだと思います、
自分自身。
でもいいんです。
一時、もう一度学校に
通おうとした時期があって、
登校してみたんです。
そしたら……
僕を犯罪者扱いする人と、
あれは冤罪じゃなかったのか
って信じようとしてくれる人と
意見が二分になっていました。
本当ならそれで戻れたんだと
思うんですけど……
ばぁちゃんのこともあって、
何もかも投げ捨てちゃえって、
もういいやって」
雪生はよく言えばポジティヴだが、
悪く言えば
怠惰的・妥協的になっていた。
「まぁいっか」「もういいや」
そうやって諦めて、
割り切っていれば楽だから、
傷付かないから。
と、それで良かったのに。
「……にも、
なんにも良くありません!!」
突然雪が大声で立ち上がり、
雪生は面食らうも、
彼女はそれでも止まらず……、
「雪生くんは、行き倒れの
三十路を拾ってくれた、
とっても素敵なひとです!
それは誰に何を言われようと、
たとえ雪生くん本人が
否定しようと
わたしの答えは変わりません。
そんな雪生くんが、
下着泥棒なんて
するはずがありません。
ましてや、濡れ衣で
ストーカー呼ばわりされて
いるのも許せませんっ…………」
「そ、雪さん……。
泣かないでよ」
彼女は感情が高ぶるあまり、
真っ赤になった目から
涙をぼろぼろさせていた。
このひとは
間違いなく僕を思って、
怒ってくれている。
そう思うと、
雪生の胸にも熱く
唸るものが湧き上がってきた。
雪生に宥められるようにして
椅子に腰を下ろした彼女は、
やけ食いのように
残りのスイーツを
ぺろりと平らげた。
雪生も釣られて完食する。
すると彼女は
おもむろに立ち上がり、
「行きましょうか」
と言う。
雪生は訳が分からず、
どこへと問い返すと、
彼女は清々しい
顔付きで言い放った。
「勿論、
雪生くんの学校へ、ですよ」
あ、でも、その前に
行くところがありますけどね。
と付け加えた彼女に
先導されるまま、ついていくと、
駅ビルの中でも
淑女が着用するような
高級ブティックばかりが
立ち並ぶフロアへ上がる。
そして彼女はギャルフロアで
見せていた怯みは一切見せずに、
品のいい衣類ばかりが立ち並ぶ
店へと足を踏み入れた。
その後、呆然と立ち尽くす
雪生を他所に彼女は
上品な店員に服を仕立てて貰うと
クレジットカードで支払いを済ませ、
その後もヘアサロンで
髪をセットして貰うなど……
雪生はシンデレラの魔法を
間近で見ているような気分だった。
「さあ、
これから参りましょうか。
謎解きをしに
――確か、
市立の朝日ヶ丘中学でしたよね」
と、彼女は喫茶店へ
誘うかのような気軽さで
雪生を連れ出した。
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