知られたくなかったのに(2)
「――っあれ? 潦じゃん」
聞き覚えのある少年の声に、
雪生は肩を震わせて
すぐ硬直してしまう。
(ダ、メ、だ、今、
振り向いちゃあ……
反応したら…………)
終わってしまうと知覚した
雪生は押し黙って目を瞑り、
災難が通り過ぎるのを待った。
が、
「あら、雪生くんの
お知り合いですか?」
と律儀な彼女の方が反応してしまい、
問い掛けられた
雪生に逃げ場はなかった。
「ぶっっ。
こいつがw
ゆきなりくん、とかww
マジ笑えるwwww」
眼前には雪生の
元クラスメート:高槻が
立っていた。
クラスでは二軍に当たる
くらいの男子だが、
そんなことは
どうでもよかった。
「やめ、やめてくれよ……」
「雪生くん……?
どうかされましたか?」
雪に異変は伝わるも、
高槻に嘆きは届くこともなく、
彼は調子気味に
問わず語りを始めた。
「聞いてくださいよーお姉さんー。
実はこいつ……
とんでもない勘違い
ストーカー野郎で、
同級生の女子に無理やり
言い寄ってたらしくてー」
「やめろ、やめ……」
当然スイッチが入った彼に、
そんな言葉が通じるはずもなく、
彼は続けた。
「それでも大概な奴なんすけどー
…………こいつ、
ついにやらかしちまってー。
去年の今頃?
そのストーカーしてた
女子の下着盗んだんすよ。
しかも、鞄の中から
証拠が出てきたっていうのに、
『僕はやってない』とか必死に
言い訳するもんだから
呆れちゃって、
みんなで無視し始めたんすよー。
したら、マジで
不登校になっちまって、
ホントキモいっすよね~」
一人ゲラゲラと大笑いする高槻。
雪生は何も言い返せず、
きっとお姉さんにも引かれて、
離れていってしまうのだろう
と諦めかけていた。
「…………本当に、そうですね」
と、口火を切ったのは
他でもない雪だった。
不自然なくらいに
綺麗な顔をしていた。
「でしょでしょ??
だからそんな奴は
放っておいて俺と――」
調子づく高槻。
それも仕方ないと
諦めきっていた雪生だったが、
次の刹那、彼女は
とんでもないことを言い出した。
「何を誤解なさって
いられるのですか?
わたしは、
誤解で他人を貶めておいて、
尚もそれを武勇伝かの
如く語られる、
童子のことを
申し上げているのですよ?」
うふふ。
と昼ドラ女優も真っ青な
真っ黒い笑みを浮かべて。
「あら、お子様の方が
よろしかったでしょうか?
とは言え何にせよ、
他人を蹴落として
女と寝ようなんていう
浅ましい考えを実行に
移してしまう粗末な
頭をお持ちの方ですから、
まともな教育も受けて
こなかったのでしょうね。
はぁ、義務教育では
この方の品性や人間性というものを
教育できませんでしたのね……
なんと、嘆かわしいことです」
さきほど高槻が大声でべらべらと
無駄口を叩いていたお陰か、
周囲にはかなりの
野次馬が集っていた。
そのため、大勢の前で上品に、
恥をかかされた
下劣な彼は吠え面をかいて、
とっとと逃げ去っていく。
それと同じくして、
観衆も散っていった。
その様を目の前で見ていた雪生は、
丁寧ながらも
失礼極まりない罵倒を
さらりと言えてしまう
雪に畏怖を感じたが、
それ以上に自分を
助けてくれたことに対する
感謝を覚えた。
「あ、その、雪さん。
ありがとう……
機転、利くんですね。
凄い圧倒振りでしたね」
平静を装って彼女に
話し掛けてみるが、
今の話を流せて
貰えるわけもなく。
「彼が言っていた
お話がどういうことか、
雪生くんの口から
説明していただけますか?」
「…………はい。
そうですよね、分かりました。
今から、お話します」
雪生は静かに頭を垂れた。
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