念願の(制服)デートに行こう!


 午後。


 二人が玄関から家を出ると、

 白んだ太陽が顔を覗かせて、

 目を眩ませた。


 再び目を開けると、

 梅雨がどこかへ

 連れ去られたかのような

 青空が広がっていた。


 言うまでもないくらいの

 デート日和だ。



「ぁぁ……なんっか、

 落ち着かないなぁ」 



 雪生は学ランの

 襟元を弄びながら、

 そう零した。



 長らく引きこもりDCを

 やっていたせいで、

 制服を着るのに

 抵抗を感じるように

 なっていたのだ。


 と、その隣でさらに

 落ち着かない様子の彼女。



「あ、あの……制服デート、

 していただけるのですよね?


 この格好のままでは、わたし、

 雪生くんの保護者に

 見られてしまいかねませんし」



(ほ、〝保護者〟だなんて……

 お姉さんはつくづく僕を

 子ども扱いしてくれるよなぁ)



 彼だって身体はほぼ大人で

 ……一人の男なのだ。


 雪はその辺りを

 軽く見ているらしく、

 自身の年齢もいたく

 気にしている風だった。


 しかし、雪生はなんとか 

 自分を必死に鼓舞し耐えて、



「初めにそういう服を

 売っているお店に

 向かうつもりですよ。


 なので、ちゃんと

 制服デートできますよ」



 と努めて笑顔を作った。


 彼女はそれで納得したらしく、

 一つ頷くと

「早速そのお店に

 行きましょう?」と

 雪生の服の裾を

 ちょこんと引くのであった。



 彼はそのいじらしい

 仕草に胸をやられて、

 興奮気味に駆けだした。




 そして、例のそういう

 服を売っている

 お店へ到着する。


 店内はピンクやら黄色やらの

 やたらPOP調で

 イケイケなギャルたちが

 愛用しそうな内装だった。


 二人が足を踏み入れるなり、

 雪は赤メッシュの女性店員と

 オネエ口調の男性店長らしき

 人物から見初められて、



「オレに選ばせてほしいっす!!」


「特にこだわりがないのなら、

 アタシに選ばせてちょうだい!?」



 と鼻息を荒くして迫られ、

 勢いに押された二人は断れずに

 従うことにしたのだった。



 直後、雪は二人に

 舐め回すように観察され、

 色んな制服を身体に

 押し当てられては

 試着室へと連れて行かれ

 ――を繰り返すこと数十分。


 お披露目タイムの

 時間がやって来て、

 一人蚊帳の外に

 追い出されていた雪生も

 試着室の前に呼び出された。



「っふふ、まずは

 オレセレクトからっすよ

 ――これでどうだ!


 やっぱり女子制服と

 言ったらこれっしょ!!


 白と紺色の

 コントラストに紅一点。

 清純派セーラー服ぅぅぅ~~」


 派手な掛け声に物怖じするも、

 雪はそろそろと

 試着室から顔を覗かせた。



 白地に紺色の襟、

 紺色無地のフレアスカート。

 真紅のリボン。

 白のハイソックス。


 王道ながら、安定の女子制服。


 若年層よりは

 中年層にかなり受けのいい、

 若さの象徴である

 とも言われるド定番セーラー服。



 それを雪が着ると、

 普段見ていたそれとは

 かなり違った印象を受けた。



 まず二十歳は

 優に超えている彼女。


 それだけで

〝いけないことをしている〟

 という扇情的な感情が

 加味され、そそられる。


 が、彼女の場合、

 その女らしい肉付きが

 さらに目を惹き付ける。


 ゆったりとした大きな胸が

 セーラー服を押し上げ、

 胸の部分だけ布が

 横一直線に持ち上げられて

 腹の部分はゆらゆらと

 布地を持て余している。


 おまけに、ぷっくりと

 臀部(でんぶ)が強調されており、

 涎が止まらない色気を醸していた。



「おぉ~これは

 なかなかありですね。

 こんな同級生いたら、

 男子が黙ってないですよ」


「だろだろ??

 てんちょー、どうすか?」



 鼻高々と店長を煽る

 ちゃらい女性店員に、

 店長は歯噛みしていた。



「んんん……

 あんたもなかなかやるわね。

 でも、彼女に合わせるという

 点ではアタシが上よ」


 さぁ! と彼は

 雪の着替えを促し、

 数分後、ショーが再開した。



「アタシはあえて、

 学生らしく見せるというのを

 排除してみたわ。


 こんな原石、

 無理やり若作りするよりも

 素材を活かした方が、

 コスプレっぽくならないのよ!!」


「うっ!!」



 店長の隣で呻き声を漏らす

 女性店員の声がしたが、

 雪生は試着室のカーテン越しに、

 店長の言葉に肩をビクッと

 振るわせた雪の影を

 見たような気がした。



「さぁ、出ていらっしゃい!

 これが彼女の真髄制服姿よ――」



 もう二人のノリに

 慣れたのか諦めたのか、

 雪はさっと試着室から姿を現した。



「こ、これは……!!

 ちょっと、えーっと……」



 雪生は思わず

 彼女から目を逸らした。


 そうせずにはいられないほど、

 彼女の今の格好は目に毒だった。



 まだ恥じらいが少し抜けないのか、

 両手でギュッと

 押さえ込まれたスカートの裾。



(す、裾、めっちゃ短い……

 しかもタイツ…………)



 さっきとは打って変わって、

 生足でなくなってしまった彼女。


 しかし、

 ロングカーディガンから覗く、

 胸元だけぱつぱつになった

 ブラウスと胸に挟み込まれて

 落ちくぼんだ青とピンクの

 ストライプのリボン。


 おまけに、

 カーディガンで隠されて

 二十センチほどしか

 露出しなくなったスカートは

 危うさを感じさせて、

 しかして生足は見せずに

 薄いタイツ生地の上から

 うっすらと見える足の素肌。



 彼女の年齢だからこそ

 活かせる魅力を

 最大限に引き出せていたため、

 さきほどの比では

 ないくらいエロだった。



「ゆ、雪生くん……??

 に、似合ってませんでしたか?

 お、お見苦しいものを――」



 数瞬のうちに昂ぶってしまった

 己の欲望と戦う姿を見て、

 誤解した雪は

 試着室に戻ろうとするが、



「ま、待ってくださいっす!

 完敗です、店長。

 ――それとお姉さん。


 彼が目を逸らしてるのは、

 お姉さんがあんまりにも

 色っぽくて直視したら、

 色々やばいからだと思うっすよ?」


「ち、ちがっ……」



 まずい展開に慌てて

 訂正しようとするも、


「そうなんですか?」


 と顔を覗き込まれた雪生に

 勝ち目などあるはずもなかった。


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