とりあえず、ご飯でも(2)
「気に入って
いただけたようで何よりです」
彼女の言葉で
雪生は夢中で料理に
がっついていたことに気付き、
頬を赤らめるが、
「う、うん
すごく美味しかった!
ところで、この料理は
どうやって作られたんですか?
大したものは
なかったはずなのに……」
と話題を逸らすと、
彼女は箸を止めて
やや得意げに弁舌を始めた。
「そうですね……
では、一品ずつ
説明させていただきましょう。
一品目はすいとん汁で、
材料には小麦粉と片栗粉と
味噌などを使用しました。
すいとん汁のすいとんは
戦時中にお米の代用品
とされていたそうですよ。
二品目はポテトサラダで、
材料にはちゃかりこと
水溶きスキムミルクを
使用しました。
こちらに関しては、
以前ネットで話題になっていた
レシピを
利用させていただきました。
三品目は鯖のトマト煮で、
醤油煮の鯖缶と
トマト缶を使用しました。
こちらも時短レシピとして
ネットに掲載されていたものを
拝借させていただきました。
……というわけで、
本当に大したことは
していないんです」
と平身低頭の
姿勢を見せる彼女だが、
大したことないわけがない。
材料を見繕って、調理法を考え、
全て合わせての小一時間で
三品も作ってしまうのは
かなり手際が良い部類のはずだ。
しかもおかわりが
欲しくなるほどの絶品だ。
「大したことないなんて、
そんなことないですよ。
ご飯、とっても
美味しかったです。
ありがとうございました、
お姉さ、」
雪生は言いかけて、
あることにようやく気付いた。
「お姉さんの名前、
まだ、
お聞きしてなかったですね。
それに、僕の名前も。
――僕は、雪生。
潦雪生っていいます。
雪が生きるって書いて、
ゆきなりです」
さあ次はお姉さんの番です
と言わんばかりに手で促すも、
彼女は何やら恥ずかしそうに
もじもじして…………、
「わたしの名前は……鈴生、雪。
字、字は……
その、雪と書いて、そそぐです」
雪生は彼女の恥じらいの
正体に気が付くと、
「なるほど、
じゃあお姉さんと僕の名前は
お揃いなんですね!」
とあけっぴろげに
笑ったのだった。
しかし、彼女の動揺は
収まらないようで
何事かと思っていると、
「あ、あのぉ……
その、お姉さんって呼ぶのは
やめていただけないでしょうか
……三十路前にもなって
〝お姉さん〟は
痛すぎますから…………」
黙っていれば
年齢なんて分からなかったのに、
と雪生。
けれど、彼女のその妙に
ドジなところが
可愛くも思えてしまう。
「じゃあ、お姉さんのことは
そそぐさんってお呼びしますね
……あ、でもこれ、
なんか新婚夫婦みたいで
ドキドキするんで、
やっぱり
お姉さんでもいいですか?」
「っ……!!
うぅ、雪生くん、
それはちょっと…………」
嫌なら対抗して、
自分も名前で
呼ばなければいいのに、
そうしない真面目な彼女に、
雪生は徐々に
気を許し始めていた。
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