穢れたナニカ(3)

 

 半時間後。


 鬼ごっこを続けた果てに、

 女は近くの交番に駆け込み、

 後ろから追いかけてきている

 男の子に暴行されかけた

 と警官に泣きついた。



 が、結果から言うと、

 女の思惑通りに

 なることはなかった。



「――お姉さんね、

 いくらなんでもこういう嘘は

 吐いちゃいけないって

 分かるよね?」



 一時は警官に

 取り押さえられた雪生だったが、

 彼がまだ未成年どころか

 中学生であったことや、

 女が自ら彼の家に

 向かっていたという目撃証言や、

 全くと言っていいほど

 下部の興奮が

 見られなかったことから警官らも

 女の証言を怪しんだ。


 その後、

 雪生が持っていた

 スマホのボイスレコーダーに

 女の誘惑発言が残されていたことや、

 潦宅に設置されていた

 お家カメラの映像

(スマホとリンクしている)から

 女による自作自演であることが

 判明したのだった。



 女はやはり前科があるようで

 警察署へ送られることになったが、

 雪生は女に

 説教&事情聴取しているのとは

 別の若い人好きのしそうな

 警官から説教を受けた。



「君もね、お金で家族を雇おう

 となんてしちゃダメだよ。


 そんな募集をかけたら、 

 ああいう悪い大人たちが、

 悪巧みするに決まってるんだから。


 いいかい、分かったね?」



 諭すような物言いでこそあれ、

 若い警官は本気で

 雪生を心配しての言葉らしかった。


 とは言え、

 そういう綺麗事で

 全ての物事が解決するなら、

 彼だってとっくにそうしていた。



「……おまわりさん。

 違うんです、僕は

 雇おうとしたんじゃないんです」


「え、でもさっきの女性はそう言って

 ……どう違うのかい?」



 雪生は若い警官を

 真正面に見据えて、こう宣った。



「僕は家族を……買おうとしたんです。

 いくらでもお金ならあげるから、

 一緒に暮らしてくれる

 家族が欲しいんだ。


 ほんの数時間居てくれたって、

 なんにもなりやしない……!

 そんなのただのまやかしだよ……っ!!」



 一度思いを言葉にすると、

 溜め込んでいた分だけ

 濃密になったそれが溢れ出しては

 とめどなく流れ出していく。


 いつしか嗚咽が込み上げていた

 雪生だったが、

 話を聞いていた若い警官は

 それまでとは打って変わって、

 囚人を見るような

 冷たい表情になっていた。



「……どれだけ

 美しい言葉を重ねても、

 君のやろうとしていることは

 さっきの女性と大差ないよ。


 買う側か

 買われる側かの違いでしかない。


 こんなことを実行するなんて

 親御さんは

 一体どんな教育をして…………」



 ゾクリ、心臓が震えて。



 雪生は彼の言葉に

 血の気が引いていくのを感じ、

 気が付いたときには

 交番から逃げ出していた。


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