穢れたナニカ(2)
「な、なにするのよ!」
女は一度も
拒まれたことがないのか、
顔に色をなして、
怒鳴り声を上げた。
雪生は焦る
素振りすら見せず、
冷ややかに続ける。
「女性というのはどうして、
自分に都合の良いように
話を解釈する
きらいがあるんでしょう。
僕はまだ一度も
条件について
話していないっていうのに……」
もう手に入るのは
確定だと思っていたためか、
女は「どういうことよ?」と
露骨に眉を顰(ひそ)めた。
対照的に、
雪生はにっこりと笑みを浮かべる。
「僕が家族を募集しているというのは
さすがに承知の上で、
ここまでいらしたんですよね?」
彼の声音は数秒前よりも
ワントーンは高かった。
「そんなの当たり前でしょ」
女は馬鹿にしないでよと
言わんばかりに鼻を鳴らす。
つい先刻まで、
女優も真っ青な猫撫で声を
披露していた人物とは
とても思えない。
「では、僕がただの一度も、
バイトという単語を
口にしていないのも
ご存知ですかね?」
「は?
意味分かんない、
バイトじゃなきゃ何よ、パート?
まさかフルタイム!?
さすがにそれはちょっと……」
女は自己中心的に考えるあまり、
大事なことを忘れている。
雪生はそのことで、
静かに失望していたのだ。
「……色々な形がありますが、
少なくとも家族というのは
時間制ではないと、
僕は思います。
だから、最初から
あなたは間違えているんですよ。
――ただ愛想笑いして
お喋りするだけの、
高時給バイトだとでも思われました?
そんな軽い気持ちで
来られても困るんです。
僕が求めているのは、
これからも先、
切れない糸で結ばれた
ずっと傍に
居てくれる存在なんですから」
間違っても、
すぐに男を誘惑するような
ひとはあり得ません。
安易に男の腿に跨がるような
安い女は願い下げですね、
と付け加えた。
見た目の割に、
プライドが高かったらしい女は、
「こんのっ……
金があるからって
つけあがってん
じゃないわよ!!!!!!!!」
と甲高い奇声を上げると同時に、
女は自分の服に
手を掛けたかと思うと、
ブラウスのボタンが引き千切られて、
胸元が露わになった。
「は……?? 何して……」
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!
だれかっだれか
助けてぇぇぇぇぇええ!!!!」
女は騒音レベルの悲鳴で
雪生の虚を突くと、
素早く自分の鞄とスマホを手に取り、
雪生の家を飛び出していった。
傍から見れば、
雪生が婦女暴行未遂の現行犯。
「……っくそ!!」
してやられた、と彼は項垂れるが、
このまま放って置いても
事態が悪化するだけだと
女を追いかけることにした……。
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