プロローグ(2)

 雪生が彼女のストーカーで

 前からこういうことを

 していただとか、

 彼女を襲おうとしたことが

 あるだとか、


 聞くに堪えない

 悪意なき噂が

 学年中で飛び交う頃には

 ……雪生に居場所はなく、

 クラス内でいじめと

 呼べるか分からない

 迫害を受けていた。



 学年中の多くの生徒が、

 彼を避けるようになった

 ……そして彼は

 学校を休みがちに。



 けれど、それで

 終わりではなく続きがあった。



 昨年の十二月中頃。


 それまで冷たかった

 雪生への風当たりが弱まり出し、

 味方する友達も

 現れてくるようになったのだ。


 雪生は少しずつ

 登校する頻度を増やしていき、

 精神も回復していき、

 ようやく彼に

 平穏が戻ろうとした頃に、

 葉菊が行方を暗ました。


 雪生にはどんな心当たりもなく、

 自分は捨てられてしまったのだ

 とさえ思い込んでしまうほど

 精神を病むのは早かった。



 それもそのはず、

 葉菊の存在は誰よりも大きく、

 彼の心の支えだったのだ。



 唯一無二の絶対的理解者。



 そんな彼女を失ったショックで

 雪生は登校するどころか、

 人間不信に陥り、

 引きこもりDCと

 なってしまったのだった。



 


 ――そして今、雪生は……、



「あの、お姉さん……?


 もし、行く宛が

 ないんでしたら、

 僕の〝家族〟になって

 貰えませんか?」



 土砂降りの雨の中。


 小道脇の茂みで行き倒れた

 二十代と思しき女性の頭上に、

 傘を差し翳(かざ)していた。



 女性は長い髪を顔や首に

 貼り付けたまま虚ろな顔をして、

 行き倒れた赤の他人に

 声を掛けた雪生を

 不思議そうに見上げている……。



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